青山学院資料館 細部までこだわった美しい本 後編「ちりめん本」
2021/10/15
元女子短期大学子ども学科教授
青山学院女子短期大学の図書館は女性や子どもに関する資料がとても充実しています。今回はその中から「ちりめん本」をご紹介します。
19世紀末、開国から間もない日本には、いち早く図書での国際交流を考えた長谷川武次郎という出版人がいて、1885年から「日本昔噺シリーズ」を外国語で出し始めます。木版でいくつもの色を印刷した和紙をていねいに加工して、ちりめんの布のような風合いを出しているので、「ちりめん本」と呼ばれます。
長谷川は一流の技能をもつ絵師、彫り師、刷り師を使い、J・C・ヘボン(アメリカの宣教師・医師。ヘボン式ローマ字を開発した)やB・H・チェンバレン(イギリスの言語学者)やラフカディオ・ハーン〈小泉八雲〉(写真①は、ハーンによるThe old woman who lost her dumpling)などに翻訳を頼み、上質の素材を調達して美しい本に仕立てました。
翻訳言語も多岐にわたり、たとえば「日本昔噺シリーズ」第1巻の桃太郎(写真②:英語版 Momotaro)は、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、オランダ語、デンマーク語で出版されています。2巻目は舌切雀(写真③:フランス語版 Le moineau qui a la langue coupée)、3巻目は猿蟹合戦、4巻目は花咲爺、5巻目は勝々山というふうに、今でも子どもたちに親しまれている昔話を中心に、英語版だと20巻まで続きます。
長谷川が出版したちりめん本の中には、The months of Japanese Children : calendar for 1904(写真④)や、Japanese Pictures of Japanese life(写真⑤)など絵や写真で日本の風俗や暮らしを紹介するものもあり、その多くはカレンダーも兼ねています。後者の表紙からは、この時代の出版工房のようすをうかがい知ることもできます。
こちらの動画から「ちりめん本」がご覧いただけます
電子書籍が話題になる今だからこそ、本という形の細部にまでこだわった出版人がいたこと、そしてていねいな仕上げの美しい本が出ていたことを忘れないようにしたいと思います。