Christianity キリスト教

青山学院の礼拝堂・ステンドグラス 特別編 厚木キャンパスのウェスレー・チャペル

かつて神奈川県と厚木市が研究学園都市として開発した「厚木市森の里」に、青山学院大学厚木キャンパス(1982年4月~2003年3月)がありました。そこは緑豊かな丘陸地帯で、自然の中に建つ校舎、とりわけウェスレー・チャペルは、1989年の「かながわ建物100選」に選ばれるなど、大学内だけではなく学外の人たちからも親しまれてきました。
今回は礼拝堂シリーズ、ならびにステンドグラスシリーズの特別編として厚木キャンパスのウェスレー・チャペルをご紹介します。

緑と風と光に囲まれた祈りの場所

緑深い森の里にひときわ清楚な佇まいをみせるウェスレー・チャペル。その名は18世紀英国で、多くの悩める人々を救いメソジスト教会を創立したジョン・ウェスレー(1703年~1791年)、チャールズ・ウェスレー(1707年~1788年)の兄弟にちなんで付けられました。宗教改革者ルターがウィッテンベルク城教会の扉に95ヵ条の提題を貼り付けたことは有名ですが、それに倣った扉、大理石の講壇などプロテスタント教会にふさわしい趣きを随所に漂わすチャペルです。
                       「WESLEY CHAPEL」(1990年9月発行)より

厚木キャンパスのウェスレー・チャペルは、校友で竹内設計事務所所長の竹内重雄さんによって設計されました。竹内さんは「青山学報」111号(1982年12月発行)の中で「1980年2月に私は学院に呼ばれ、この礼拝堂の設計を依頼されたのであります」と引き受けられたときのことを語ってらっしゃいます。
依頼された際に示された要望は

・建物の外観はキャンパス内の建物の中にあって、誰の目にも、一見して礼拝堂であることが判るものであること
・内部に入ったとき、厳粛で敬虔な心を以って礼拝する雰囲気を具えること
・会衆席の数はおおよそ500名くらいで、説教台と会衆席後部の距離はなるべく短くすること
・その他聖歌隊席やパイプオルガンを設けること
・シンボルタワーを建て、チャイムを取り付けること

などでした。それらの要望を受け「求められる外観と内容が如何にあるべきか」を最も大切なことと考えた竹内さんは、設計を手掛けた際の想いを以下のように語られています。

    1. 私が設計するにあたって拠りどころとしたのは、ヨーロッパ中世のキリスト教建築が最も栄えた時代に生まれた「ゴシック建築」でした。ヨーロッパ各地に今も残るゴシックの大伽藍の特色は、巨大さと豪華さです。しかしそれ以上に、建築に携わった人々が各々の信仰によって全身全霊を捧げて、親から子へ、子から孫へとその意志を継ぎながら造りあげたゆえの荘厳さといえるでしょう。
      今日、そうしたゴシック様式の精神を形にして再現することは至難のわざですが、少しでもそれに近づけたいという思いで設計にあたりました。
      教会に必要なことは、何よりも敬虔な気持ちで礼拝に臨むことができるようにすることです。ひとたび足を踏み入れた瞬間から、静寂さが満たされるよう、玄関ロビーは視覚的に外部と遮断し、窓からの採光も極力押さえています。
      また、説教台と会衆席を近づけるために正八角形の礼拝堂とし、堂内の天井はできる限り高く、窓には10個ステンドグラスを施すなど、俗世界と隔絶した荘厳な雰囲気の創造に努めました。
    ウェスレー・チャペル

    ウェスレー・チャペルの前には円形の池があり、
    中央に立つヨハネ像のまわりに8本の噴水が出るようになっていた

    1989年には、「かながわの100選・50選」シリーズの第14回目として開催された「かながわ建築物100選」にウェスレー・チャペルが選ばれました。県民や市町村から推薦のあった建築物の中から県を代表する建物の一つとして選ばれたことについて、当時、大学副学長だった日向寺純雄先生は「厚木キャンパスが開校して今年で8年、厚木市民大学講座、愛川町民大学講座、年数回開催されているチャペルでのパイプオルガン演奏会、クリスマス・ツリー点火祭等を通して、常に市民との交流を図って参りましたが、その努力がこのような形で実を結び、大変喜ばしいことと思っています」(「青山学報」147号〈1990年3月発行〉)と語りました。

    10場面以外にもあったステンドグラス

    イエス・キリストの生涯が「告知」から「昇天」までの10場面に分かれて描かれたステンドグラスについては「青山学院のステンドグラス〈5〉 大学 相模原キャンパス」で紹介しましたが、厚木キャンパスのウェスレー・チャペルにはほかにもステンドグラスが設置されていました。

    「魚」のモチーフと「鷲」のモチーフのステンドグラスが礼拝堂内に、「霧」をモチーフにしたステンドグラスが宗教センター事務室の入り口に、「麦の穂」をモチーフにしたステンドグラスが玄関ロビーの小さな窓に取り付けられていましたが、現在はどうなっているのでしょうか。
    宗教センターに確認をしたところ「現在は、相模原キャンパスのウェスレー・チャペルの正面入口に『霧』のステンドグラスが、ラウンジの吹き抜け部分に『麦の穂』のステンドグラスが設置されています。なお、『魚』と『鷲』のステンドグラスはB棟地下倉庫に保管されています」とのことでした。

    魚と鷲のステンドグラス

    礼拝堂内 左下が「鷲」、右下が「魚」をモチーフにしたステンドグラス
    現在は相模原キャンパスB棟地下倉庫に保管されている

    相模原キャンパス ウェスレー・チャペル

    魚と鷲のステンドグラス

    「霧」をモチーフにしたステンドグラス
    左は正面入り口、右は2階廊下より撮影

    魚と鷲のステンドグラス

    「麦の穂」をモチーフにしたステンドグラス
    左はラウンジ、右は2階廊下より撮影

    宗教センターの齋藤久惠さんは、B棟地下倉庫に保管されている「魚」のモチーフと「鷲」のモチーフのステンドグラスについて「このままにしておくのではなく、どうにかして日の目を見させたいと思います」と話されました。

    厚木キャンパス ウェスレー・チャペル

    正門からのアプローチ

    正門から銀杏並木へと続くアプローチは青山キャンパスと共通のイメージで構成された

    正門からのアプローチ

    左より、ウェスレー・チャペルの扉、学院功績者レリーフ、パイプオルガン(設営時の様子)

    厚木キャンパス正門から銀杏並木をとおし、A館の左隣に位置する地上2階、地下1階、延床面積1874㎡、十字架をいただく尖塔までの高さ45mの建物で、正面入口を入ると本学院功績者のレリーフが飾られ、堂内には大理石が用いられている。壁面にはキリストの生涯を描いた10枚のステンドグラスが、またオルガンの製作では古い伝統あるデンマークから東洋に初めて輸出されたマクルーセン社製のパイプオルガンが設置されている。
    なお、地下には厚木宗教センターがおかれ、活発な活動を展開している。

                             「青山学報」147号(1990年3月発行)より

    撮影協力:宗教センター相模原分室

    〈参考文献〉
    「WESLEY CHAPEL」 1990年9月発行
    「AOYAMA GAKUIN 110 1874-1984」
    「青山学報」111号 1982年12月発行
    「青山学報」112号 1983年3月発行
    「青山学報」147号 1990年3月発行
    『清ら影 滝澤やまとステンドグラス作品集』滝澤やまと著 2004年 鳳山社