Christianity キリスト教 図書紹介

ロバート・K・グリーンリーフの小論集『サーバントであれ 奉仕して導く、リーダーの生き方』

青山学院大学宗教主任・経営学部教授

髙砂 民宣

新しい年が明けて間もない1月6日、民主主義の根幹を揺るがすような事件がアメリカの首都ワシントンD.C.で起こりました。前大統領の支持者たちが、民主主義のシンボルとも言える連邦議会議事堂に乱入し、次期大統領選出に向けて行われている会議を妨害し、一時的に中断させたのです。しかもそのような暴動が起きた背景には、前大統領による扇動的な発言があったとも指摘されています。

このニュースを耳にした時、リーダーの考え方や発言というものが、どれほど大きな影響を及ぼすかを改めて知らされました。そしてそれ故に、「サーバントリーダーシップ」という概念が、いかに重要であるかを痛感しました。

本書は、不朽の名著である『サーバントリーダーシップ』を著したロバート・K・グリーンリーフによる小論集です。『サーバントリーダーシップ』は570頁を超える大著ですので、本書は入門書的な役割を果たしているとも言えるでしょう。

翻訳版のサブタイトルが示すように、サーバントリーダーシップとは、奉仕して人を導くという姿勢を意味しています。「サーバント(servant)」は仕える者を、「リーダー(leader)」は指導者を意味しています。通常は真逆とも言える両者ですが、編集者のラリー・スピアーズが「はじめに」で明記しているように、「対極にある二つのものが建設的かつ有意義に一つに合わさると、逆説が生じる」(10頁)のです。

ここで目標とされているリーダー像は、トップダウン型ではなく、ボトムアップ型のリーダーです。上から目線で権力を行使するリーダーではなく、縁の下の力持ちとして人々を支え、自ら進んで行動するリーダー像です。そしてこのサーバントリーダーの究極的な模範は、他でもないイエス・キリストにあるのです。

イエス・キリストは十字架上で贖罪の死を遂げる前日の夜、弟子たちと最後の晩餐を共にされました。そして食事の席から立ち上がると弟子たちの足を洗い、手ぬぐいで拭き始められました。師であるご自分が弟子たちの足を洗われたように、弟子たちも互いに愛し合い、仕え合うようになることを、身をもって教え諭されたのでした(ヨハネによる福音書13章1~20節)。ここにサーバントリーダーの模範が示されています。

著者であるグリーンリーフは、かつてアメリカを代表する巨大企業であったAT&Tで約40年間働き、マネジメント研究センター長を務めました。生涯に亘って組織の研究を続け、マサチューセッツ工科大学やハーバード大学ビジネススクールで教鞭を執り、フォード財団のコンサルタントも務めるなど、多岐に亘る活躍をされました。

特に1960年代から70年代と言えば、公民権運動を始め、ベトナム戦争、学生運動、カウンターカルチャーの台頭など、それまでのアメリカを揺るがすような出来事が次々に起こった時代です。そうした激動の時代にグリーンリーフは、企業や財団の他に、大学や教会においてもコンサルタントを務めています。

クエーカー(キリスト友会)の信仰に影響を受けており、思いやりに溢れたより良い組織・快適な社会を築くことを念頭に置いています。また、組織にいる人が人間的にも精神的にも成長し、幸せになることに心を砕いています。そして独裁的なリーダーシップではなく、チーム重視で行うことが必要であると主張しています。

青山学院は今から7年前、創立140周年を迎えた時、10年後に迎える創立150周年へのヴィジョンとして、「すべての人と社会のために未来を拓くサーバント・リーダーを育成する」という目標を掲げました。この目標設定は実に正しい選択であったと、改めて痛感しています。

書籍情報

ロバート・K・グリーンリーフ 著
野津智子 訳
英治出版 2016年
1,980円(税込)

「青山学報」276号(2021年6月発行)より転載