Column コラム

With or Afterコロナ時代の初等教育におけるデジタルコミュニケーション【ススメ!コミュニケーションの新しいカタチ第4回】

青山学院初等部教諭・情報主任

井村 裕

2019年度末から2020年度にかけて、教育界はかつて経験したことのない状況に直面した。2020年2月からはじまった新型コロナウイルスの感染拡大は、1年以上経った今も収束の兆しが見られない。2020年2月27日、突然の政府からの休校要請があり、学びを止めないために青山学院初等部が行った様々な方法から、初等教育におけるデジタルコミュニケーションを考える。

 

初等教育におけるデジタルデバイド

初等教育でのスムーズな教育活動に重要となるのは、家庭との連携である。どの小学校でも、学校からのお知らせや学級通信などを紙で配り、学校で行われていることの情報共有を図ってきた。近年は、一部の学校で、Webを使って紙のお便り以外でも情報を共有する動きがはじまっていたが、なかなかデジタルメディアに統一することは厳しいのが現状であった。なぜなら、保護者のデジタル機器に関するリテラシーの差、家庭で保有している機器の差で、情報伝達に差が生じてはいけないからである。実際のところ、青山学院初等部でも、それらのデジタル化は段階を踏んで検証し、問題のないことを確認したうえで2020年度より学校からの全学年共通のお知らせや学年便りなどをデジタル配信することにした。検証の過程では、様々な機器で接続を試し、どのような環境でも問題がないか、またスマートフォンではアプリなどが便利に使えるかなどの確認も行った。
さらに、実際の運用開始までには、数週間におよぶ家庭からのログインテストなどを行い、4月から無事に運用を開始することができた。

オンライン学習
オンライン学習中の様子

 

Withコロナ時代の家庭・学校間のコミュニケーション

デジタル配信のスタートとコロナウイルスの影響による休校が重なり、結果的には当初の予定以上のものを配信することになった。
実際に配信したのは、休校期間中の課題、礼拝の動画、当初予定していたお知らせなどである。特に休校期間の学習課題に関しては、あらかじめ配信の仕組みを整備していたため、休校開始時からスムーズに行えた。また、最初はプリントの配信からスタートしたが、徐々に解説動画の配信や、アンケートフォームを用いた課題の提出を行えるようにするなど、工夫が見られるようになった。解説の動画も配信するようになり、児童の学習の感想を確認すると、「動画での配信は分からないところを繰り返し確認できるから良い」というメリットを多くの児童があげている一方で、「友達とコミュニケーションを取りながら授業するのが楽しかった」という1人で学習せざるを得ない状況への不安を感じている様子がうかがえた。
そのような児童の不安な声に対応するために、短い時間でもクラスの仲間と顔を合わせられるようにという願いを込めて、オンラインホームルームを週の中で数回実施した。

オンラインホームルームの様子
オンラインホームルームの様子

 

そのときの様子を見ていると、参加している児童は全員笑顔で、画面を通しての友達との対面を喜んでいる様子であった。直接会えない状況では、このようなコミュニケーション手段は有効ではないだろうか。
家庭との連絡手段も大きく変わった。2020年度は保護者会を開くことがほとんどできず、オンラインで保護者会の内容の配信を行った。また、特別礼拝なども後日オンデマンド配信にするなど、学校に保護者の方々が来られない分、デジタルメディアで発信することを心がけた。実際のところ、それによって大きな問題は生じなかったどころか、特別礼拝などは今まで参加が難しかった遠方にいる祖父母の方々が観られるようになるなど、副産物のようなメリットがあった。
なお、これらを実現するためには、保護者の機器の操作をサポートする仕組みが大切である。青山学院初等部でも、配信授業などで児童が機器を用いて接続する際、児童1人で難しい場合のサポートは保護者に委ねられる。そのため、保護者からの技術的な質問に対応するためのメールアドレスを作り、できる限りすぐに返信する体制を整えた。200件を超す問い合わせも来る日もあったが、そのような体制を整えていた結果、休校期間中の配信授業に関しては大きなトラブルもなく終えることができた。保護者のデジタルリテラシーにばらつきがある現状では、このような保護者に起因する児童の情報格差をなくせるような配慮が必要である。

 

ニューノーマル時代の情報活用能力

初等教育を行ううえで、子どもたちが大人になったときに困らない力を身につけさせることは、非常に大切である。現在の小学生たちが大人になる頃には、今存在する職業の多くはAIに取って代わられる可能性が高く、コンピュータと上手に付き合っていく必要がある。
初等教育では、2020年度より政府のGIGAスクール構想もあり、1人1台でのタブレットPC活用がスタートしている。

1人1台
1人1台タブレットPCを活用する授業がスタート

 

情報化社会を生き抜くうえで必要な力を身につけさせることは非常に重要で、1人1台タブレットPCを持つことで、情報メディアリテラシーが高くなることも期待されている。また、今後は情報機器を使いこなせないといわゆる“情報弱者”になる可能性が高く、それを防ぐためにも一定の活用能力を育てる必要性がある。青山学院初等部でも、2020年10月より3年生以上の全員がタブレットPCを活用することになった。そのねらいとしては、タブレットPCを文房具の一つとして、あたりまえに使いこなす人になって欲しいというものである。また、このように3年生以上に導入した理由は、1・2年生の間は今までと同様の授業形態で行い、3年生からはデジタル教科書などを併用していくことで、アナログメディアとデジタルメディアの両方の良さを知ったうえで、自ら選んで活用する人材の育成を目指したためである。

探求型学習
自ら学び考える力を育む授業。児童の机上にはタブレットPCと教科書・ノートが置かれている

 

実際のところ、導入して間もない時期の4年生でも、授業内で教科書の使い分けを個々の児童が行っている様子が見られた。
また、インターネットの世界はまだまだ成熟していないこともあり、様々なトラブルが後を絶たない。そのような世界に、すでに触れている現代の子どもたちだからこそ、早い段階での情報モラル教育は必要であり、一定の管理下にありながら、安全性が担保された機器を所持し、その中で失敗を繰り返しながら経験で学んでいくことが、情報モラルの習熟を円滑に進めていくうえで、非常に教育的であると考えている。青山学院初等部でもタブレットPCを使っていく中で小さな失敗を経験しながら、上手に使い方、付き合い方を学んでいく様子が見て取れる。

このように、初等教育段階から、上手にデジタルに触れる機会を設けることで、上手なデジタルコミュニケーションを取れる人の育成が可能になると考える。それが結果としてデジタルデバイドの解消に繋がっていくのではないだろうか。