Interview インタビュー 研究室訪問

母語以外の言語に挑む経験は、未来を生き抜く人間力を培う【大学文学部 アレン 玉井 光江研究室】

物語をベースにした、初期学習者対象の英語教育を研究されている、アレン先生。小学校の現場教育にも30年以上携わっています。
研究室には学生達が作った子ども向けの教材や、先生の著作も多数。ゼミの実習活動や今後の語学教育についても語っていただきました。

 

──研究室の書棚の前と机に並べていただいたカラフルな絵からは、優しさと温もりが伝わってきます。
かわいいでしょう? 何十年も前の学生達が作ったのですが、手放せなくて。絵にはそれぞれお話がついているんですよ。私の研究分野である、子ども達に物語を理解しながら英語を学んでもらうための教材です。
私のゼミで行っている教育実習のSEP(Summer English Program)は、2016年度で6回目になりますが、実習へ行くゼミ生達にも、この作品を見せて、授業の教材作りのヒントにしてもらっていますね。

──アレンゼミの特徴であるSEPについて、詳しく教えて下さい。
毎年夏休み中の3日間、都内の公立校の児童に英語を教える実習で、今は品川区の小学校にご協力をいただいています。教師になるゼミ生は、2名以上でグループを作り、1~6年生の各学年1クラスを教えます。授業は全て英語。教材は手作りです。SEPも含めて、私の授業は厳しいですよ(笑)。にも関わらず受講するゼミ生達は、皆子ども好きで、英語教育に興味があって、真面目な人ばかり。ぎりぎりまで準備をし、本番に臨んでいます。ところが、いざ授業を始めると、子ども達がついてこない! なんて展開は珍しくありません。理想と現実の差に1日目の授業が終わると、ゼミ生達はどっと落ち込んで。そこが私としては、いいぞ! という感じなんです(笑)。思い通りにならない経験こそSEPの醍醐味。私の口うるさい事前指導よりも、子ども達の反応や担任の先生の助言のほうが、よっぽど心に響きます。私も30年以上の現場経験から「子ども達が私を教師にしてくれた」実感があり、実習の場を作りました。
アレン研究室を飾る書籍やグッズたち
──2020年には英語が小学3年生から必修化、5年生から教科化されます。アレン先生は、これからの時代に英語や英語教育を学ぶ人達に、どんな期待を寄せているのでしょう。
そうですね。子どもや先生方と文化的背景を共有できる日本人教師は、授業以外の場でも信頼を築きやすく、より必要な人材だと考えています。
一方で2045年には人工知能が人の能力を超えるとも言われており、近い将来、英語も自動翻訳機が活躍するかもしれません。しかし実用としての英語の需要が減った時代こそ、私は外国語学習を大切にするべきだと思います。母語以外の言語を学ぶには忍耐がいります。例えば私の授業法の中では、子ども達に『浦島太郎』や『ウサギとカメ』など有名な昔話を、絵と英語で紹介することから始めます。すでに知っているあらすじが、英語の理解を助けるからです。恐らく低学年の子ども達は昔話を頭の中で何語ということもなく受け止め、慣れ親しむんですね。高学年になると文字も含めて言語理解を目指します。こうして時間をかけて分からないものに挑む経験は、しなやかで逞しい人間性を培うでしょう。

──学生達に身に付けて欲しいことはなんでしょうか。
臨床心理学者の故・河合隼雄氏は、このようなことをおっしゃっていました。「〝我々はどこから来てどこへ行くのか〟という無意識に湧きあがるものに対し、色んな知恵を与えてくれるのが、物語である」と。小学校の児童も、英語教育を学ぶ本大学のゼミ生達も、今までに予想もしなかった新しい仕事や、問題に直面する世代です。
そんな時に、外国語学習の経験は、物事を別の視点から見るチャンスをくれるはず。そしてどんな生き方をしようとも、自分自身の物語や、心の中の声を聴けることは、物凄い速さで動く世界の中で、身に付けて欲しいスキルです。

 

アレン 玉井 光江 Allen Tamai Mitsue

青山学院大学文学部英米文学科教授。専門は小学校英語教育、第二言語教育、読み書き教育 。サンフランシスコ州立大学大学院英語教育専攻修士課程修了、テンプル大学大学院教育学研究科英語教育学専攻博士課程修了。Ed.D.(教育学)。千葉大学教育学部・大学院教育学研究科教授を経て、2010年より現職。『小学校英語の教育法―理論と実践―』(2010年)、『小学校英語の文字指導―リタラシー指導の理論と実践』(2019年)を始め、著書多数。

 

ゼミ生のコメント

  • 自分達で指導案や教材を1から作り小学生に英語を教える機会があるゼミは、とても貴重なのではないでしょうか。指導案や教材の作成、実際の指導は難しいですが、先生のご指導のもとで準備した教材を子どもに教え、反応が返ってきたときには素晴らしい達成感が得られます。SEPでは子どもに学びの楽しさを教えながら、自分も成長させることができました。
  • SEPに向けた準備の際、アレン先生の指導はとても厳しくなります。と言うのも、私達は失敗をしても次に改善できれば良いですが、1人の児童がSEPの授業を受けられるのは1回だけ。改善した授業を受けることはできません。故に1回1回の授業を大切にしなければいけない。先生が直接言うわけではありませんが、厳しい指導からそのことを教わっています。
  • アレンゼミ

    「青山学報」259号(2017年3月発行)より転載