チームを想い、パスを繋ぐ-ラグビー〈中等部・森山 夏緒さん〉
2020/03/26
普段はラグビー部で男子に一人混ざって練習に励む森山さん。ポジションは足の速さを生かしたウイング。お兄さんは初等部でラグビーを始め、高校ではニュージーランドでプレーするほどの実力を持つ。そんな兄への憧れから森山さんも小3よりラグビーを続けてきた。そして今年度、東京都女子代表として全国の舞台に立つ切符をつかみ、今冬の大会※1で準優勝の一翼を担った。それでも森山さんは「昨秋の大会※2で優勝し、史上初の“2大会優勝”を目標としていたので、優勝を逃したことは悔しくて涙が出た」と語る。
中等部ラグビー部の仲間にも恵まれた。東京都女子代表が決まった森山さんの練習に、朝・昼・放課後と付き合ってくれた。悩みの相談にも乗ってくれた。そうした仲間に出会うことができ、「ラグビーをやっていてよかった」とこれまでの思い出を振り返る。
活躍しながらも、「上には上がいる」ことを身をもって実感し、ラグビーとはここでひと区切りつけるのだそう。将来は、「世界の困っている子どもたちを助ける仕事がしたい」という目標を抱き、それを叶えるべく歩み始める。
青山学院中等部3年
◆主な戦績
太陽生命カップ2019 第10回全国中学生ラグビーフットボール大会(2019.9)※2 優勝
第25回全国ジュニア・ラグビーフットボール大会(2019.12)※1 準優勝 他
紙幅の関係で掲載がかなわなかったインタビューをご紹介いたします。
──ラグビーを始めたきっかけを教えてください。
小3の時、小6だった兄が初等部のコアラーズとクラブチームに入っていました。ラグビーには全然興味がなかったけれど、兄のことが好きで尊敬もしているし、兄と同じクラブに入れるのは最初で最後だと思い、兄のあとを追うようにコアラーズに入りました。
──中等部でも、自然な流れでラグビー部に入ったのですか。
1学年上の女子の先輩に誘われたのと、他にやりたいスポーツはないし、続けないともったいないと思って入部しました。
正直、辞めたい時もありました。そんな時、同学年のチームメイトが「続けるべきだよ」と、クラブを離れて遊びとしてのラグビーに誘ってくれたり、幼馴染のキャプテンが練習につき合ってくれるなど、ラグビーの楽しさを味わわせてくれたことで、続けることができました。
──東京都女子代表は、どのように決まるのですか。
女子のラグビー人口が少ないので、中等部のクラブに入った時点で東京都選抜に召集されます。
そこでセレクションというかたちで練習をしていきます。
メンバーとは、練習以外でも遊んだりと仲良しですが、ライバルでもありました。
選抜チームでは、実力で敵うはずもないメンバーと同じチームとしてグラウンドに立つことができる貴重な機会だったのですが、試合前、不安と緊張でウルウルしてしまいました。普段はライバルでもあるチームメイトが、「大丈夫だよ」「落ち着いて」と声をかけてくれて、うれしかったです。準決勝でタックルを決めた時はチームみんなが駆け寄ってきてくれて、ラグビー人生で忘れられないシーンになりました。
──東京都女子代表として臨んだ全国大会。秋に行われた全国ジュニア・ラグビーフットボール大会では、予選に出場したものの、決勝戦に出られず、悔しい想いもあったようですね。
練習を一つも手を抜かず、人一倍努力してきたつもりだったので、決勝戦に出場できないと分かった時は複雑な気持ちでした。実力の差とはいえ、努力していても試合に出られないことがショックでした。
──どのように気持ちの切り替えをしたのですか?
中等部ラグビー部のキャプテンが朝・昼・夜と一緒に練習をしてくれました。悩んだり、プレイがうまくいかなかった時には話を聞いてくれたりと、本当に頼れる存在です。
中等部は、7時半前の登校は禁止なので、「朝練を7時半ぴったりに始められるように、少し前に来ちゃおうぜ!」という意気込みで練習に励むくらい、ラグビーがしたくてたまりませんでした。
それでもしばらくは代表落ちした気持ちを引きずっていて練習に身が入らなかったこともあり、予選に出させてもらえませんでした。でも“冬の都選抜が人生最後の大会になるかもしれない”と思い直し、準決勝に出場できるようにと、これまで以上に努力しました。
──中等部のクラブに加え、東京都女子代表の練習もあり、大変だったのではないでしょうか。
シーズンになると、土曜日も練習があり、ほぼ毎週日曜日に試合があります。ラグビーと勉強の両立は大変でしたが、お父さんが勉強を教えてくれて、助けてもらいました。
試合のスタジアムが遠いので、お母さんが車で送り迎えをしてくれたり、他にも色々な相談に乗ってもらえて、家族の支えは大きかったです。
──思い出に残っていることは?
中等部のラグビー部で出場する大会が春と秋にあるのですが、今年度は部員数が少ないため、他の学校と連合チームとなって出場しました。
春の大会では自分が出ることはあまりなかったけれど、一緒にチームを組み、支えてくれたメンバーが一生懸命戦っている姿を間近で見て、東京都ベスト8に入れなかった時はとても悔しくて泣いてしまいました。
秋の大会はベスト8をかけて挑みました。相手は、春の大会で負けたチーム。試合前にふと、“もうこのメンバーで試合に出ることも練習をすることもないんだ”と思うと、円陣を組む前から泣いてしまいました。でもみんなで最初から圧倒して勝ったことで、ベスト8に入ることができました。
私はメンバーでは女子一人だったけれど、「女子だから」「下手だから」など気にせず、「かお、こっち!」と声をかけてくれることがすごくうれしかったです。一試合に一回でもいいタックルができたりすると、駆け寄って褒めてくれます。ラグビーをやってきた上で、心に残っている出来事です。
また、東京都女子選抜として、小池都知事のもとへ訪問する機会がありました。緊張してい私たちに、「ワールドカップの年なので、皆さまのこれからのご活躍を楽しみにしています」ということばをいただき、うれしかったです。
──今後もラグビーを続けていく予定ですか?
高校で続けていくことは難しいです。女子ラグビー部がある高校に変えるか、クラブチームに入るかになります。それに、東京都代表メンバーとなりましたが、自分でも実力の差を感じました。
私はラグビーの道には進みませんが、中等部で一緒にがんばってきた仲間が、ラグビーの強豪校に進学します。仲間が、それぞれの高校でライバルとしてかもしれませんが、花園を目指して戦っている姿を見ることが楽しみです。
ラグビー部を引退した今、一緒にがんばってきた仲間と離れるのがとてもさみしいです。
──2019年は、ラグビーワールドカップが開催され、ラグビーが注目されましたね。
日本代表戦を全部観て、号泣しました。
ラグビーはマイナー競技だったので、以前は外でカンタベリー・オブ・ニュージーランドの服を着ている人を見ると、「あの人ラグビーをやってるんだ!」とうれしかったのですが、注目され始めてから、あちこちで目にするようになりました。ちょっとさみしい気持ちと、以前みたいに、発見した時の興奮感はなくなりました(笑)。
──ラグビーを知らない人に、魅力を伝えるとしたら?
ボールを前に投げられない中、前に進まないといけません。一人ひとりが前に出るという気持ちがないといけないし、だからといって、個人個人が強いだけではだめ。お互いにフォローし合い、パスを繋いでゴールを目指します。協力プレイがカギとなるので、チームが一丸となって支えていくことがすばらしいスポーツだと伝えたいです。
そして、たとえ試合中に喧嘩が起こっても、その後握手をする、ノーサイドの精神は、本当にすごいと思います。これまで知られていなかったラグビーの魅力を取り上げてもらえると、ラグビーをやっていて良かったなと改めて思います。
──今後の目標は?
中1の時にフィリピン訪問プログラムに参加し、貧困を目の当たりにして衝撃を受けました。今でも一番心の中にあります。お父さんがジャーナリストで、海外に住んで取材したりしていて、こういったいろいろな話を聞くと、すごくためになります。
英語は得意ではないけれど、海外に興味があります。今自分にできること、将来に繋げるために、自分が何をすべきかということを考えていきたいと思っています。