Interview インタビュー あおやま すぴりっと

人を幸せにするために、 人と向き合う〈卒業生・古田 貴之さん〉

独学、そして孤立

──難病から、奇跡的に回復されました。本当に良かったですね。
1年間入院していましたが治る見込みはないということで退院しました。両親はわらにもすがる思いで鍼治療や怪しげなお祓いなどを試してくれました。そのどれかが効いたのかそうでないのかわかりませんが、つながっていないはずの神経がある日突然ぴくりと動き出したんです。やっと歩けるようになると、秋葉原に行って、車椅子ロボットに使える部品を探しまわるのがリハビリ代わりになりました(笑)。 それからは中学、高校と、独学で ロボット研究に突き進みました。「車椅子ロボット」を作るためには、機械だけではなく、それを動かす電子回路やプログラムの知識が必要だと思ったからです。独学を進めれば進めるほど、もっと高度な画像処理技術や人工知能、運動制御が必要だとわかってきました。この道をさらに究めようと思い、大学受験の準備を始めました。

──なぜ青山学院大学への進学を決意されたのでしょうか。
最前線のロボット研究をしている先生が今度青学にやって来るらしい、という情報を得て、「その先生のもとで学びたい!」と考えました。入学後のガイダンスで話を聞いて、すぐに押しかけました。当時理工学部の研究室は世田谷キャンパスにありましたが、1年生が通うキャンパスは厚木、しかも研究室に所属できるのは4年生からです。けれど、いきなり研究室を訪ねて「僕、あなたのところで勉強するから!」と言っちゃったんです(笑)。先生は「なんだおまえは?」という顔をしながらも「いいよ」と言ってくれました。 当然、先輩たちにはうっとおしがられましたよ。1年生のときから研究室に通い詰めて、相当嫌な存在だったと思います。当時は目つきも悪かったですし。嫌がられながら〝いまに見てろよ〟という気持ちでした。とにかくロボットを作るのに必要な知識と技術を蓄積していこうと、ものすごいスピードで研究しました。

まわりの上級生が1週間かかることを半日で終えて、より高いクオリティで仕上げてやる、なんて思っていたから、いつの間にかまわりには誰もいなくなっていました。でも当時はそれが自分の望んだ世界だったんです。自分の力しか要らないと思っていた。「僕だけの高度なテーマに、自分だけで挑んでやろう」と。今思えば本当に嫌なヤツです。

──仲間をも必要としない。今の古田さんからは想像できません。
大学院に進んで研究をさらに続けました。そして次第に「このままじゃ、いつまでたっても車椅子ロボットはできない」と焦るようになっていた頃、「助手にならないか」と先生が声をかけてくれたんです。これで好きな研究に取り組めるな、と思いました。車椅子ロボットに取り組む前にまず人間型ロボットを作ろうと大学院生に声をかけても「短期間で成功するわけがない」と言って誰もついてきてくれません。これまでの経緯もありますし、大学院生は一定期間内に研究成果をださなくてはいけないので、ついてくるわけがないんです。

 

チーム結成

──研究はどうなったんですか。
研究室に入ったばかりで何も知らない4年生を7人集めました。ところが彼らは「ガンダムが好きだ、作りたい」と言いながら、設計図ひとつ描けない(笑)。やる気はあるけど素人同然の彼らを、どうまとめればいいんだろうと頭を抱える僕に、彼らはあっさりと「知らないんだから、教えてくれればいいじゃないですか」と言うんです。「よし、やってやろう! できないなら勉強するだけだ」と、夏休みには7人を「画像処理(感じて)」「人工知能(考えて)」「運動制御(動く)」 の3チームに分けて毎日、僕がやってきたことすべてを徹底的に教えました。眠るヒマもなかったんですが、秋になる頃には必要な基礎知識をあらかた身につけてくれました。

──ようやくチームが動き始めたんですね。
いよいよすべてのエッセンスが詰まった小型の人間型ロボットを作ろうというプロジェクトをスタートさせましたが、なかなかうまくいきません。どうやって倒れないように制御するか、全員で難しい数学理論を語り続けて議論が複雑になり、収拾がつかなくなりつつあったとき、メンバーの1人から「古田さん、ややこしいこと言ってちゃダメですよ」と言われたんです。こちらが教える立場だったのに、なるほどと思える解説をズバッと言われてしまいました。「そんな難しく考えなくたって、人間って倒れようとしても、なかなか倒れないじゃないですか」と。 何を言っているんだと思われるかもしれませんが、たとえば酒に酔ってふらふら歩いている人でも、倒れそうになると次の一歩が出るから倒れないんです。ロボットも同じで、一歩ごとに止まって安定させようとするから、かえってバランスを崩してしまう。数学的知識も大切ですが、直感的に本質を突く視点も欠かせません。指摘してくれた彼のように、みんながそれぞれ光る才能を持っていました。それに気付くと、こちらも活かしてあげたくなるんですよ。今までの僕にはなかった発想でした。

──学生の何気ない一言が古田さんを大きく変えたんですね。
自分が何かのエキスパートだと思った瞬間、人間の進化は途絶え、何も吸収できなくなる。僕はカッコつけてたんですね。自分に自信がないくせに、〝俺はすごいんだ〟と思わせたくて威張り、相手を認めない。でも、それでは進歩がない。ダメなところはダメだと言い合うようにしよう。そういう思いをチームで共有するようになりました。あの半年で僕は変わりました。目から鱗が落ちるような、いい時間でした。そうして、お互い命を預けられるといえるようなチームになり、ついによちよち歩きの小型ロボットが完成したんです。もう大興奮でした。

ロボットたち2