コロナとの闘い 青山学院とオンライン授業
2020/10/15
新型コロナウイルスの感染拡大により2020年2月27日、政府から発令された臨時休校の要請を受け、教育の現場は大きく揺れました。
青山学院でも幼稚園から大学・大学院まで休校措置がとられたことに続き、4月8日からは青山・相模原両キャンパスに入構制限措置を講じました。
通常の対面授業を行うことができず、4月以降急遽スタートしたオンライン授業。先生方は青山学院の教育を途切れることなく繋ぐために、どのような準備を経て新たな試みに臨んだのでしょう。
オンライン授業の実施を通して気づき得た教育の本質、そして今後の可能性も含め、初等部から大学まで、オンライン授業を推進された先生方にお話を伺いました。
──初等部から大学まで、一定期間の教育をオンライン授業のみで行うことは初めての試みでした。準備期間も限られ、先生方は大変なご苦労をされたと思います。準備段階から授業の形態、工夫された点など、オンライン授業の実施内容についてお聞かせください。
【初等部】井村 裕 教諭
初等部は「プリントを配布して課題をこなす」を基本のスタイルとしました。ちょうど今年から独自のクラウドシステムで全家庭にプリント配布をする準備をしていたところで、そのシステムを使用してプリント配布を始めました。また、休校になった際、オンライン授業に関するスキルの高い教員が、すぐさま動画を撮って補習授業の配信を始めました。そこで「これは初等部全校で取り組める」と判断され、4月6日から初等部ではオンライン授業が始まりました。
動画は全教員が作成しましたが、不慣れな教員は急遽開催された「動画の作り方講座」に参加して学びました。教員も学内に入構できなくなると、動画作成が得意な教員が撮影した動画を他の教員に送ったり、情報交換も行い、お互いに助け合いながら作成しました。動画の長さ制限やカメラの映し方の工夫などは、教員たちで築き上げたものです。動画は最初の1カ月半で約400本、1学期全体だと1000本近くになったと思います。毎日の礼拝もオンラインで配信しました。
授業は基本的に自由な時間に学習することができるオンデマンド配信にしました。なぜなら特に1、2年生は保護者の支援がないと家庭での学習はできず、またリアルタイムで授業を行うライブ配信だと保護者の仕事等の都合で対応できないこともあるからです。ただオンデマンドのみの授業だと、子どもたちが教員やクラスメイトとのコミュニケーションがとれず孤独感を抱いてしまいます。そこで5月上旬頃から週2、3回の割合でライブ配信のホームルームを開催し、リアルタイムで集まる機会を作りました。
【中等部】鈴木 知明 教諭
中等部も一部の選択授業やホームルームのみライブ配信で行い、授業はオンデマンド配信で行いました。それが可能だったのは、CoursePower(インターネット授業支援システム)のおかげです。中等部では、このシステムを2015年から使用していたので教員も生徒も比較的慣れていました。また質問機能があるため生徒も質問ができ、授業の質を保つことができました。
ほとんどの教員が動画作成については不慣れで、映し方から教材の見せ方まで、何もかもゼロから学ぶスタートでした。実際に動画を撮っても仕上がりが今ひとつで、何度か撮り直すこともありました。私たち理科の教員は、最初の頃はほとんど毎日のように相談し合っていました。ただ、授業の色合いは教員ごとに違いがあるので、撮影するときは一人です。私は16本動画を作成し、理科だけで100本近くになり、中等部全体ではかなりの本数になったと思います。中等部で動画作成の支援部隊となったのはICT図書委員会で、動画公開のマニュアルを作成したり、Q&Aの項目を作ったり、質問ができるシステムを即座に立ち上げてくれました。委員会の情報提供や、フォローはとても助かりました。
【高等部】佐藤 健悟 教諭
高等部は課題配信型を基本とし、PDFファイルなどを配信して、その補足を動画で行うというスタイルが中心でした。双方向型コンテンツとしてGoogle Meetを使ったライブ授業や、グループディスカッションを行った教員もいました。動画は基本的に授業担当者がそれぞれ作成しましたが、教科の教員で助け合うことは多かったように思います。また、高等部のICT教育推進委員会、さらに今年度から相談窓口として設置されたICTステーションのスタッフが教員のサポートにあたりました。
オンライン授業の工夫は個々に研究をしましたが、動画の長さだけはネットワーク負荷や、オンライン教育での双方の疲れを軽減する観点から「1授業あたり15分以下の動画にする」と教員間で申し合わせました。
高等部では今後の教育を見据え、2019年度よりグループウェアであるGoogleの G Suite for Educationを全校に展開して使い始めていたという背景があったものの、昨年度はまだ限定的な利用でした。これを使いこなせるようにするため、3月の休校時に体制を整え、その後、教員がシステムに慣れる期間としました。4月10日には生徒にオンラインでオリエンテーションを行い、次の1週間は教員・生徒共に慣れる練習期間としました。4月中旬から課題配信をスタートし、その後段階的にオンライン教育を拡充していきました。教員にとっても不慣れなことが多く、操作の面で苦労したり、課題の分量についても適当な量が分からず、試行錯誤の連続でした。「20分くらいで終わるだろう」と思ったら、生徒は画面の向こうですごく苦労していたといったことも後から知りました。
【女子短期大学】趙 慶姫 副学長
女子短大は、本科は今年度が最後、来年度は専攻科の約40名のみという少人数なので、対面授業ができるのではと、ぎりぎりまで考えていました。授業開始を遅らせてまず2週間だけオンライン授業にすることにして、5月8日にキャンパスで授業を始めるつもりでいたのですが、結局それ以降も前期の対面授業はごく一部を除いて行えませんでした。最後まで対面授業にこだわったのは、今年度で本科が終了するという節目の年ということの他に、これまでface to faceを大切にしてきたことがあるからです。非常勤の先生方の中にはCourse Powerを利用していない方が多くいらして、そのほとんどが今年度で最後ということもありマスターしていただくことが心苦しいなどといった問題もありました。
オンライン授業の方法については、基本は各教員に委ねられ、親しい教員同士でお互いにテストミーティングするなど協力し合い、工夫していました。教員がCourse Powerに慣れていなかったため、授業を公開したつもりがされていないということもあり、学生から「いつまで経っても先生から課題が出ません」「授業を公開してください」と指摘されることもありました。
必修の実技系の授業の問題もありました。オンラインでできることには限界があったため、ごく少人数だったこともあり、6月半ばから対面で行った授業もありました。いちばん心配をしていた体育実技の授業はZoomを使用するなど、教員が工夫をして授業を行っていました。
【大学】稲積 宏誠 副学長
大学では、3月中旬に通常の授業開始はできないと判断し、「授業はオンラインで行うか否か」の議論を始めるとともに、実施に向けた準備を進めました。オンライン授業が可能か教員にアンケートを行い、その結果から実施は可能と判断し、3月31日に「2020年度前期授業開始日変更のお知らせ」を発表し、前期はすべての科目をオンライン授業で行うことを学内外にお知らせしました。
5月1日からのオンライン授業開始までの1カ月間で、すべての準備をする必要がありました。教員にはCourse PowerやWebexなど、どのような環境が提供できるかを提示しながら「場合によっては途中で対面授業が可能になることもあり得ますが、90分×15週の授業をすべてオンラインで行う前提で設計してください。」と伝達しました。非常勤の先生方へもご理解いただくように努めました。多くの先生方をどうサポートするかという問題については、担当部署のスタッフの方をはじめ、多くの方々の支援に委ねるしかありませんでした。
3月末、情報メディアセンターと各学部からICT関係に強いメンバーを選出してもらい、情報戦略推進委員会を立ち上げ、情報共有のためのメーリングリストを立ち上げたところ、非常に多くの問い合わせが来ました。中には質問だけではなく「こんな工夫ができるのではないか」という情報や意見を出してくれる方もいて、それらを共有しながら5月1日のオンライン授業スタート日を迎えました。
一方、学生がオンライン授業を受けられる環境にあるかは、新入生対象に行われた英語のプレイスメントテストの結果を参考にしました。学生たちは自宅で試験を受けたのですが、その受験率が約95%だったことで、ICT環境は比較的整備されていることが分かりました。
最大の誤算は、緊急事態宣言が出て教職員がキャンパスに入構できなくなったことです。当初予定していた講習会がすべてオンラインとなり、電話での問い合わせの窓口もストップし、窓口はメールのみになりました。キャンパスが利用できなかったことは、立ち上げの段階では想定外でした。
開始早々、システムはダウンしてしまったのですが、これはやむを得ない事態でした。Course Powerでは通常、履修した科目だけが表示されるのですが、仮登録システムを利用した1週間は、どの科目も見ることができるので、全学生が気になる科目を自由に受講した結果、システムがパンクしてしまったのです。正規の履修登録が済み、仮登録が終了してからは、前期終了まで安定して稼働してくれました。