コロナとの闘い 青山学院とオンライン授業
2020/10/15
──オンライン授業では家庭におけるICT環境が求められただけでなく、各家庭の理解や協力も欠かせません。保護者や生徒、学生などからの質問も多数あったと思います。それらについてはどう対応されたのでしょう。
【初等部】井村 裕 教諭
初等部のオンライン授業は家庭にある機器を使うことが前提でした。事前に環境アンケートを実施しており、ほぼ実現できると分かっていました。「家に1台あるPCは仕事で使っていることが多く、オンライン授業に対応できない」という家庭には、学校のPCを100台ほどかき集めて、宅配便で送りました。問い合わせについては、技術的な質問用と課題に関する質問用にメールアドレスを二つ用意し、質問は教員全体でシェアして担当教員が返信する形を取っています。
初等部生の自宅学習には保護者の協力が不可欠なので、保護者の皆様に支えていただき1学期を乗り切ることができました。
【中等部】鈴木 知明 教諭
中等部の場合、質問については代表のメールアドレスを作って一元化しました。また、Course Powerにある教科ごとの質問機能は生徒のアドレスでしか入れないのですが、そこに保護者からの問い合わせが来るなど、我々の想定を超えた利用方法もあって、Course の質問機能はすごく活用されました。生徒の学習環境について、3年生にアンケートを取ったところ、家族の情報端末を使っている生徒が半数以上、そのうち2割は家族のスマホでオンライン授業を受けていました。保護者の皆様のご協力とサポートが中等部の学びを支えてくださいました。ただ、スマホの場合、PCとは表示がかなり異なると分かったため、今後は使用デバイスの配慮も必要です。
【高等部】佐藤 健悟 教諭
高等部でも中等部と同じように、ICT教育推進委員の教員とICTステーションのスタッフの入ったグループメールアドレスに問い合わせを集約しました。
Googleのサービスの特性である「OSやデバイスを選ばずに利用できる」ことはメリットではありますが、利用環境が多様であることから、問い合わせも多様でした。また、質問が次々に届くので、質問の情報をどう整理するのかという情報管理の難しさも感じました。
機器のトラブルやネットワーク負荷で、うまく課題に取り組めずストレスを抱えていた生徒もいたようです。保護者の皆様には心苦しいお願いにも対応してくださり、感謝しています。
【女子短期大学】趙 慶姫 副学長
デバイスによる見え方の違いに関する問い合わせには、女子短大も対応が大変でした。PCのOSがWindowsかMacかでもソフトによっては表示が違いましたし、情報メディアセンターに問い合わせないと回答できないこともありました。また、問い合わせ先として短大のウェブサイトでは短大の広報担当のアドレスだけを掲載していたため、そのアドレスに問い合わせが多数届き、途中からはウェブサイト上に各部署のアドレスを載せました。学生への連絡については、職員が在宅勤務で大学のシステムに接続ができるようになった4月末から、学生ポータルへの発信を行いました。
──コロナ禍におけるオンライン授業の課題・展望についてお聞きします。オンライン授業は今後の教育にどう位置付けられるでしょうか。
【初等部】井村 裕 教諭
「対面授業が再開できたのだからオンライン授業はもういいのでは」という教員の意見もあります。これまでオンラインなしの対面授業をずっと行っていたので、それに戻るだけというわけです。しかし今回、不登校の児童がオンライン授業だと参加できるというケースが見受けられました。文部科学省は新学習指導要領のなかで「個に応じた指導」の一層の充実を示していることから、今後は初等部でもオンラインと対面を併用していくべきではと個人的には考えています。学習の基礎的な部分はオンラインも並行して行い、登校してグループでコミュニケーションをとり学ぶことこそ、初等部の意義だと今回の対応で感じましたので、すみ分けをしながら、オンラインをうまく活かしていくべきだと考えています。
【中等部】鈴木 知明 教諭
4月からのオンライン授業自体は一定の定着度があったと思います。6月に生徒にアンケートを実施したところ、動画の授業は好評で、むしろ「動画授業がないと勉強しづらい」という声もあったほどです。一方で、漢字や英単語などの問題演習はテキスト形式の方が学びやすいという声もあり、動画と問題演習どちらが良いかは、学ぶ内容によって異なることが分かりました。中等部としては、オンライン授業は緊急措置だと考えていますが、対面授業に戻っても今回学んだことは今後にも活かせると思います。しかし対面とオンラインの併用には壁があります。実は6月に2週間ほど併用してみたところ、教員も生徒も疲弊してしまいました。クラスを半分に分け、午前と午後で交互に午前がオンデマンド授業なら午後は登校して対面授業としてみましたが、教員は通常授業とオンデマンド授業の両方の授業を準備しないといけません。生徒は家でも学校でも勉強しなければなりません。結果、双方に余裕がなくなってしまったので、同様の併用は難しいと感じています。情報伝達のみであればオンデマンド配信でも可能です。生徒は何度も授業を見ることができ、教員も伝わりやすいように言葉を選びます。
しかし中学生は知識を身に付けることだけが重要ではなく、双方向の授業など、人と関わることでの学び合いが非常に大切な年代です。画面を通してだけでは分からない人との距離感もあり、学校という「場所」でできることがある以上、全面的なオンラインへの移行は難しいと思います。
【高等部】佐藤 健悟 教諭
高等部は6月上旬からの分散登校を経て現在は通常授業に近い形に戻っており、オンライン教育は緊急対応ではありました。ただ、オンラインならではの学びの特性も知ることができたことは収穫でした。例えば生徒からは「動画は繰り返し見られるので自分のペースで学習できて良い」というポジティブな声も多く聞かれました。今後もオンライン授業の強みを活かしていければと思いますが、鈴木先生も話されたように、対面との単純な併用ではボリュームが多くなり、教員、生徒共に負担が増します。両者をどのように使い分け、併用していくのかは、高等部としても本気で考えていく課題と捉えています。
今回の経験を通して、教育の本質的な問いに向かい合う教員が増え、学校全体でもそこに向かい合う雰囲気ができてきたと感じます。ICT利活用の負の側面も考慮し、慎重に使用場面を制限していくことも必要ですが、今後はいかにより良く情報社会に参画していくかを、ICTを有効活用することを通して学んでいってほしいと思います。
〈右〉数学の授業動画。PDFファイルで配信した解説プリントの補足を行いました。
【女子短期大学】趙 慶姫 副学長
今回は教員が学ぶことが多かったと感じます。私自身も、自分のこれまでの授業にどのような意味があったのか、学生にどれほど伝わっていたのかを考えさせられました。ライブ配信授業の場合、学生には画面に顔を出す必要はないと言っています。教員は画面の向こうの見えない学生に対して話し、反応もないのに冗談を言ったりするわけです。学生からは、「ライブ中は発言がしづらい」という意見も聞かれました。
今回の流れを経て教育の現場は変わっていくと思います。例えばオンライン授業では海外など遠隔地のゲスト講師を気軽に招くことができるといったメリットがあり、オンライン授業に対しては教員も苦手意識を持たずに取り組んでいきたいです。そして、学生はもっとPCを使ってもらいたいですね。スマホしか使用していない学生が結構多く、驚きました。
想定外だったことは、各教員が毎回課題を出した結果、大量の課題で学生に大きな負担を与えてしまったことです。教員間で課題についての情報共有など、後期はその辺りも気を付けなければと思っています。
〈右〉「身体表現特別演習」の様子
保育の現場で行うことを想定したオンラインのワークショップを
学生が発案して授業で実施している様子。
【大学】稲積 宏誠 副学長
オンライン授業では課題はどうしても多くなりますね。教員と学生の双方とも頑張りすぎてしまう結果なのでしょう。大学も同じ状況でした。途中で宗教センター、学生相談センター、障がい学生支援センターなどと連携し、「少しゆったりしましょう」というメッセージを各教員宛に発信しました。
大学の場合、現在も20~30%の学生は実家に滞在し、オンライン授業を受けています。日本に入国できていない留学生も100名近くいて、必然的に遠隔授業しか参加できません。つまり対面授業が可能な状況でもオンラインを切り捨てるわけにはいかないという、大学としては難しい状況にあります。学びの「場」であるキャンパスとは、一体何だろうと考える岐路となっていると感じています。
【女子短期大学】趙 慶姫 副学長
青山キャンパスは都心にあっても緑が多い環境ですが、相模原の開講科目の授業でも「美しいキャンパスにいること自体が学ぶ上でのモチベーションになる」という学生もいました。キャンパスという「場」にも意味があると思います。
【大学】稲積 宏誠 副学長
学生はSNSをうまく使ってサークルの勧誘なども行い、オンラインでのオープンキャンパスも工夫して行っています。このコロナ禍でもめげない〝そつのなさ〟が本学の学生の強みとも言えます。こういった授業以外の活動をオンラインでどう活用するかを考えることで、あらためてキャンパスの意味を考えてくれるのではないでしょうか。青山そして相模原の地に私たちの〝知〟の拠点があることは事実なので、立地という面からだけでなく、もう一度ここにあることの意味を再認識する良い機会だと思います。