コロナとの闘い 青山学院とオンライン授業
2020/10/15
──初等部・中等部・高等部と異なり、大学は後期もオンライン授業が決定しています。大学におけるオンライン授業の意義や、コロナ禍における大学の個性・特色の出し方についてはどうお考えでしょう。
【大学】稲積 宏誠 副学長
「初等部・中等部・高等部は対面授業がスタートしているのに、なぜ大学はできないんだ」とよく言われるのですが、学生は自分で時間割をカスタマイズしているので、学生が一斉にキャンパスに集まれば、1万人規模のイベントが常時行われているのと同等で、個々の学生の行動をコントロールできません。キャンパス内外で彼らがどのような行動を取るかも把握できないので、大学における対面授業の全面再開は、今の段階ではまだリスクが高すぎると判断しています。
ネット上には、様々な分野のオンライン授業コンテンツがたくさん公開されています。そうなると、「何のためにこの大学のこの授業を聞いているのだろう。同じ分野であれば公開されているこの動画のほうが面白いから、それを見ればいいじゃないか」となりますよね。そうなると、「大学教員は不要か」という話にまで行き着きます。定型的な学習の部分はオンラインのコンテンツに集約し、対面が有効な部分、つまり演習部分に人的支援を投入することで大学の個性や特性、存在意義を示す必要があるでしょう。今後は、対面とオンラインをうまく組み合わせることが求められます。
しかしその前に、オンライン授業実施のためのルール作りをしなければなりません。これは非常に重要なことです。教員からは「撮り貯めてあるので来年からもオンデマンドで授業をやりたい」という提案も出てくるでしょう。教員はどこにいようが質問にも回答できるため、海外にいてもいいわけです。また、海外在住の教員を非常勤任用できるかという話も出てくるでしょう。留学の概念をどうするかという問題もあります。大学の授業の成立要件定義がこれからとても大切になりますし、モラル的なことも含めたルール作りは急務です。
――大学におけるオンライン教育と通信教育との違いはなんでしょう。
【大学】稲積 宏誠 副学長
通信制はすべての単位が通信と大学で授業を受けるスクーリングで完結します。一方、通常の大学におけるオンライン授業は、従来からeラーニングとして認められています。単位が認定される要件は、60単位まで、90分×15週を履修したという履歴が取れること、さらに双方向性が担保されていることです。取得できる単位数の違いで通信制との明確な区別がつけられています。さらに、ICTを最大限に活用した対面教育を意識しているという点で、オンライン教育と通信教育は明確に異なると思います。
──教員の役割や在り方について、先生方の考えをお聞かせください。
【初等部】井村 裕 教諭
初等部の教員たちは「教員はティーチャーではなくてコーチでないといけない」「クラスでは、担任はボスではなくリーダーにならないといけない」と言う言葉をコロナ禍で改めて実感しました。教えるということ自体は教員がいなくても、ある意味オンラインでも完結してしまいます。では我々の存在意義はといえば、子どもたちの心を支えたり一緒に考えたりといったコーチングの役割が大きく、そこを見いだせる教員になっていかなければならないと感じています。これは青山学院の「サーバント・リーダー」の精神にもつながると思います。
【中等部】鈴木 知明 教諭
数年前にアクティブラーニングが脚光を浴びた際、「教員は指導するのではなくコーディネートする」と言われましたが、中等部の教育もこれに近いと感じています。「教え込む」というよりも、生徒が学習活動をするための「手助けをすること」が我々の教育の大きな役目だと思って活動しています。そして、授業だけではないのが中学校です。今年の中等部祭はオンラインで開催する予定です。例年と形は異なりますが、生徒たちが、この状況の中なりの人との関わり方を学び、達成感を得られるもとのなればと思います。
【高等部】佐藤 健悟 教諭
オンライン教育期間後、生徒からは「今まで先生が対面で教えてくれたことをなんとなく聞いて、できた気になっていた」という声も聞かれました。このような、「主体的に学ぶきっかけになった」という声にはハッとさせられました。オンライン授業では、理解できるまで配信資料や動画を繰り返し見たり、自分で調べるようになったというのです。教員の役割は、生徒が主体的に学ぶきっかけを作り、生徒自身が次の問いを立てる手伝いをすることかと思います。また、ネット上でも対面でも相手に配慮したコミュニケーションのあり方を共に学んでいくことが求められているように思います。
【女子短期大学】趙 慶姫 副学長
何を教えるかだけではなく、どう教えるかが肝要だと思います。大学生は、その後すぐ社会に出る年齢ですから、教員が社会経験で得てきたことが伝わる関係の構築も大切でしょう。教員自身の研究する姿や内容は、学生に影響を与えることもあり、知識の伝達だけではない学生との関係が作れると思います。授業以外の、あるいは授業における話と話の「間」で伝えられればと思っています。
【大学】稲積 宏誠 副学長
オンライン授業の取り組みは本学の個性、学部の個性が出ます。今回はまさに大学におけるFD(ファカルティ・ディベロップメント)だと捉えることができます。大学とは一体何なのか、キャンパスにどのような意味があるのか、教育はこれで良いのかということを考えると同時に、今回の大学の取り組みに対するさまざまな反響や批判をきちんと受けとめ、我々の振り返りにどう活かすかも大きなテーマです。また、私たち全員が、自分の授業がどう受け止められているか、どう評価されているかを真摯に受け止め、考え、そして学部や学科レベルでも教育カリキュラムについて改めて考える必要があります。学生と教員の直接的な交わりに勝るものはない、と思っていますし、大学ごとの力量の差が出ると思います。今回のオンライン授業の経験も今後に活かしつつ、教育の充実を図ることが大学としての大きな責任だと思っています。