【もっと知りたい!ドクター通信】ラグビーワールドカップ2019日本大会とインフルエンザ
2019/10/29
ラグビー日本代表が「One Team」をかかげ、予選リーク全勝で1位通過し、悲願のベスト8を達成しました。始まるまで、「ワールドカップなんて日本に持ってきて、ラグビーなんか誰が見るの?」「ルールもよくわからないし」「どうせすぐ負けるんでしょう」などが多くの日本人の思いだったでしょう。でも、真正面からフェアプレイでぶつかりあう選手たちの姿は誰もが感動せずにはいられない光景でした。そして、日本中を巻き込んで、私のようなにわかファンもテレビにくぎ付けになりました。まさに日本全体を「One Team」にしてくれました。前回の南アフリカ大会では「世紀の番狂わせ」といわれていましたが、ラグビーはまぐれや運だけでは到底勝てないスポーツであることは、にわかファンの私にもよくわかりました。残念ながら、準々決勝で南アフリカに負けてしまいましたが、その後の選手たちの謙虚な言動にまたまた感動させられました。
さて、今年は例年と比べインフルエンザの流行が早いことが危惧されていました。東京都はすでに例年より2か月以上早く、9月16日から22日の調査で患者報告数が流行開始の基準を超えたことを発表しました。さらに、10月13日までの全国調査では保育所・幼稚園・小学校・中学校・高等学校で452施設の学級閉鎖、6750名の欠席者数が報告されています。これらのデータを見ると今年の流行のペースは例年の5倍から10倍になっています。そのインフルエンザの流行にラグビーワールドカップが関係あるかもしれないといわれています。
インフルエンザは温帯地域より緯度の高い国々での流行は冬にみられます。日本では、毎年11月下旬から12月上旬頃から流行が始まり、4~5月ころには終息します。北半球では1~2月頃、南半球では7~8月頃が流行のピークとなり、熱帯・亜熱帯地域では、雨季を中心としてインフルエンザが発生しています。つまり、世界中どこかでインフルエンザは流行していることになります。
近年では、日本人の海外旅行者数が増えるとともに、海外からの観光客が毎年10-50%程度の伸び率で急増し、2018年には2770万人以上に達しています。さらにワールドカップのようなイベントがある時期には通常より多くの訪日旅行者が集中すると考えられます。訪日する人々が自国で流行っているインフルエンザなどの病気を気が付かないまま持ち込み、拡散してしまう可能性は常にあるのです。しかも競技会場では多くの人が密集して観戦しており、さらに感染の拡大を助長することも考えられます。実際、会場やキャンプ地がある埼玉県は、8月に「ラグビーワールドカップ2019に向けての感染症のリスク評価について」をホームページに掲載し、インフルエンザのみならず、麻疹・デング熱・ダニ媒介脳炎など注意すべき多くの感染症に対し、注意喚起し、対策をとっています。
インフルエンザは「飛沫感染」が主な感染経路で、患者の咳やくしゃみなどに含まれるウイルスを吸い込むことにより感染します。1~3日間ほどの潜伏期間の後に、突然38℃以上の発熱・頭痛・全身倦怠感・関節痛・咽頭痛・咳・鼻汁などの症状がみられ、約1週間で軽快します。予防にはワクチン、手洗い、咳エチケット(咳やくしゃみをする時はティッシュやマスクを口と鼻にあて、他の人に直接飛沫がかからないようにすること)が大切です。ワクチンは接種して抗体ができるまでは2週間くらいかかり、効果の持続期間は5か月ほどです。接種時期は、通常では流行期が11月下旬から4月頃ですので、11月初め、遅くとも12月初めまでが良いでしょう。今年のように流行が早く始まった場合にも流行が終わるのは通年とほぼ変わらないことが多いので、入学試験や定期試験など流行期間でとくにインフルエンザにかかりたくない時期をカバーするように考え、接種時期を決めるとよいと思います。
来年には東京オリンピックも控え、今年以上の訪日旅行者が予測されます。皆さんご自分でできる対策を確実にとって、ご自身の健康を守ってください。
Q お医者さんはたくさんの患者さんを診てもインフルエンザに罹らないのでしょうか?
A 残念ながら罹ります。一般的に医師や看護師など医療従事者は、予防のためにほぼ全員が予防接種を受けます。今のワクチンにはA型もB型も含まれていますが、効果は100%ではありません。予防接種は罹らなくするのではなく、罹りにくくするのと、万が一罹った場合には症状が和らぐ効果があります。昔は予防接種の回数が子どもが1回、大人が2回でしたが、今は1回で大丈夫です。