味覚の授業®とフランス・クリスマス料理体験
2020/02/18
クリスマスの迫ってきた2019年12月14日、青山学院初等部でユニークな課外授業が行われました。題して「味覚の授業®とフランス・クリスマス料理体験」。東京・新橋でフレンチレストランを営むフランス人シェフのドミニク・コルビシェフを講師に迎え、3、4年生の児童計42人がこの日のために特別にアレンジされた味覚の授業が行われました。五感を使って食べることの大切さを学び、さらにはフランスのクリスマス料理を味わう体験をしました。給食を通して子どもたちの食文化を育む青山学院初等部ならではのイベントで、子どもたちは本物の食材と心のこもった調理を通して、食の豊かさを実感したようです。
(これはどんな味がしますか? コルビシェフの問いかけに、子どもたちは一斉に手を挙げました。紙コップに入った食材や液体を口にして、その味を感じていきます。ビターチョコレートをかじると「うわっ、苦い!」。)
(カップに入った出汁に口を付けると「これ、うま味じゃないかなあ」といった具合で子どもたちは元気に答えていました。)
この「味覚の授業®」はフランスで1990年から行われている「味覚の一週間」という民間による食育活動の中の一つで、日本でも2011年からレストランのシェフらがボランティアで全国各地の小学校に赴き、子どもたちに味の基本や、五感を使って食べることの大切さを伝えています。
青山学院初等部で3、4年生を対象に参加者を募集したところ、42人の募集枠に、107人が応募する人気で、抽選となりました。
「五味って何?」というコルビシェフの質問に、児童からは「しょっぱい」や「甘い」などと共にすぐに「うま味」が出てきました。コルビシェフは「すごいね」と言って目を丸くしていました。
その後、 “基本の五味”となる調味料、砂糖、塩、お酢、ビターチョコレート、出汁が配られ、一つひとつ味の確認をして、味覚の基本となる「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「うま味」を感じていきます。
五味を実体験し、味の大切さを学んだ後は、いよいよ特別な料理体験「フランスのクリスマス料理体験」です。「私がシェフです」を意味するフランス語「C’EST MOI LE CHEF」がプリントされたトック(シェフハット)をかぶって、運ばれてきたプレ・ロティ(鶏の丸焼き)をテーブルごとに囲みました。この日のためにコルビシェフがフランス南西部のランド地方からわざわざ取り寄せたフェルミエ(農場育ち)の鶏を使いました。
「フランスではクリスマスに、七面鳥よりも、しっとりとした肉質の鶏のローストを食べることが多いんですよ。中でもこのチキンはブロイラーではなく農園で育てられたチキンで最高!」とコルビシェフが説明すると、子どもたちからは歓声が上がり、興味津々の様子です。
香ばしく焼き上がった鶏をコルビシェフがナイフとフォークを使って手際よくさばき、取り分け方を教えます。子どもたちもそれぞれのテーブルで切り分けを体験しました。
ももの部分を胴体から切り分ける際には、骨の付き具合などを確かめないと上手に切り分けられません。実際に一羽の鶏を取り分けることで、単なる食材ではなく生き物としての鶏を感じ、命の大切さを再認識することができます。実際にプレ・ロティを切り分けることに、少し怖がる児童もいましたが、みんなで協力して切り分け、感謝をもって、きれいにいただきました。また、手の空いている児童は率先して出来立てのマッシュポテトを配ります。その姿にもコルビシェフは驚いていたようでした。
その後、クリスマスの聖人にちなんだ「サン・ニコラ」というケーキも一人ひとり作りました。クリの代わりにサツマイモを使ったモンブランケーキで、子どもたちは、土台となるクッキーの上にバニラアイスを載せ、その上にサツマイモのペーストを絞り、最後にイチゴを載せて、粉砂糖を振りかけ完成させました。
コルビシェフの実演後、子どもたちは我先にとテーブルに戻り、目を輝かせながらケーキを作っていました。
完成した料理をみんなで食べながら、感想を話し合います。「自分たちで作って食べると、よりおいしく感じました」と話すのは3年生の池上奏(かな)さん。
一方、「ローストチキンの取り分けは初めての体験で緊張しましたが、思っていたより上手にできました」と4年生の長田健太郎さんはほっとした表情で話していました。自宅で料理を手伝う子どもも多いようで、「このケーキを家でも作ってみたい」と作り方をコルビシェフに熱心に尋ねる子どももいました。
最後に参加した子どもたち全員にコルビシェフのサインの入った「味覚の授業®」の修了証が手渡されました。
しかし、どうして小学校で本格的な料理体験なのでしょう? 「初等部では、食事もすべて生きた教材だと思っています。その延長線上で、一流シェフを招いた料理体験を行うことを企画しました」と青山学院初等部中村貞雄部長と佐々木淳教頭は話します。
実際、初等部では日々の給食にも力を入れています。月、火、水、金曜日は通常の給食ですが、木曜日だけは、1学年が交代で「スクーンメーカーホール」と呼ばれる吹き抜けになった食堂に集まって特別な料理をいただきます。これは「ランチョン」と呼ばれ、1970年から行われている初等部伝統の食事です。
テーブルにランチョンマットを敷き、季節の花を飾って会食の雰囲気を盛り上げます。食器も陶器や塗りのお椀を使い、子どもたちも服装を整えて参加します。料理も本格的。例えば、2019年12月のランチョンで6年生に出された料理は、「コンソメスープ」「パン盛り合わせ」「ローストチキン 付けあわせ野菜」「シーフードサラダ」「デザート ホワイトクリスマス」と華やかな内容です。コンソメスープは野菜と牛すね、鶏がらを3時間かけて丁寧に煮込んだ一品です。
初等部で給食のメニュー作りなどを担当する管理栄養士の秦京子さんは「和洋中、季節・学年によってメニューは様々。いずれも食材を吟味し、加工品をできる限り使わずに、手作りを基本にしています。ランチョンは1学年だけなので調理スタッフの手間と時間をかけることができる青山学院ならではの食事です」と話します。
事前の厨房の下見の際、コルビシェフは、出汁は全て自然食材から取るという青山学院初等部の姿勢を知り「全国様々な小学校に行きましたが、ここまで素晴らしい学校はない(徹底している学校はない)」と目を見張っていました。
(プレ・ロティの仕込みは全て初等部の厨房で行いました)
初等部では日々の暮らしそのものが大切な学びの場。教室での教科学習だけが勉強ではありません。ですから毎日の食事も大切なのです。子どもの時から本物に触れることで、その積み重ねが子どもたちの成長に良い意味で影響を与えると信じて、食材選びから調理法までじっくり時間をかけています。愛情のこもった食事を食べることで、子どもたちには、作ってくれた人たちへの感謝の気持ちも自然に生まれてくるようです。
今回の料理体験はもちろん、給食で出される一皿一皿は子どもたちの健康につながるだけでなく、友達との語らいや食材への関心などを通して様々な影響を与えてくれるのではないでしょうか。そこには子どもたちの健やかな成長を願い、「感じる心」や「考える力」を大切する青山学院初等部の思いも詰まっているのです。
コルビシェフから特別に、今回のフランス・クリスマス料理体験会で作った「鶏のロティ ジャガイモのピューレ添え」と「サン・ニコラのモンブラン」のレシピをいただきました。
下記(PDF)よりご覧ください。
コルビシェフのレシピ