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【もっと知りたい!ドクター通信】新型コロナウィルス感染症のパンデミックという危機を生きる

6.抑うつ的構えという心の発達──理解と忍耐

妄想分裂的構えは発達最早期の乳児の原始的心性である。やがてそこから、自己が発達し、認知機能が発達し、人間にとってのもう一つの基本的な精神構造である「抑うつ的構え(抑うつポジション)」が発達していく。もはや敵か味方かではなく、自己の内面を受け止め、不安、苛立ち、フラストレーション、怒りを認め、自己の感情に理解が届くようになると、自分が持つ破壊性に気づき、それを制御したり、相手を思いやったり、社会的な活動のエネルギーに昇華したり、言語でそれらの不安や苛立ちを象徴化できるようになる。

自己と他者が別個の分離した存在であって、考えも感じ方も異なる存在であることを知るようになる。自分の思い込みで相手を敵か味方かに分類して安心するのではなく、相手が個別的な内的世界を持っていて、自分とは異なる情緒や感じ方や考え方や反応をしていることを理解できるようになる。そのためには、自己の内的不安や衝動や怒りや感情を受け止め、理解できる必要がある。自己の統制できない不安を無暗に外界に投影することなく、外界それ自体、対象それ自体、個別の相手をそのままに理解でき、現実吟味が増大する。自分とは異なる相手の心を傾聴し、理解できるように発達していく。しかし、そのためには、何よりも自己の内的世界、内的宇宙を探索し、理解できる必要がある。そして、そのためには、何よりも自己の不安や内的世界を理解してくれる対象が必要になる。乳児にとっての母親、その母親を支える夫や祖父母。患者やクライエントにとってのカウンセラー、セラピスト、心理療法家もそうである。患者やクライエントが、自己の症状や問題の苦しみをセラピストに話し、理解してもらう。言葉にならない不安がセラピストに受け止められていく中で、自分自身の理解を深め、内的な不安を受け止め、自己の未処理な衝動や内的世界を理解し、統合して行くことが可能となる。

妄想分裂的構えが暴走しないためにはどうしたらよいのか。人は自己の不安に手が届きにくく、敵か味方かという認知を形成しやすく、被害的心性が活性化しやすいこと、自己の苛立ちや不安や攻撃性が身近な他者に投影され、向けられてしまいやすいことを認識するだけでも大きな意味があるだろう。そうした理解に基づけば、今般の状況では誰もが見えない敵に囲まれている不安に晒されていることが分かるはずである。言ってみれば、Psychological Distancing(あるいは単にDistancing)の重要性と言えるかもしれない。Social Distancingという社会的距離対策によってウィルス感染を防ぐように、Psychological Distancing心理的距離対策によって、妄想分裂的構えの暴走を抑制する。つまり、自己の感情的反応から一時的に間を取る。自分も含めた皆が大変な時代であることを認識し、忍耐し、耐え忍び、生き残る。信じ、努力し、持ちこたえる。誰もが、扱いきれない迫害不安に突き動かされている。対人関係での複雑な感情やアンビバレンス(両面感情、愛と憎しみの混在)に耐えること、不安を受け止めることの難しさを認識する。受け止めきれない不安が身近な人間関係に向けられやすいこと、スケープゴート現象が発生しやすいことを認識するだけでも大きな違いを生むだろう。

 

7.一人の時間を充実させること

一人でいる時間を充実させるのも有効だろう。読書や勉強などもよいだろう。可能であれば一人で外に出てみるのもよいだろう。散歩、ジョギング。体を動かし、季節を感じてみよう。体を動かせば、気分転換にもなり、不安も低減し、睡眠も改善し、免疫にもプラスだろう。もし、外出が難しければ、家でエクササイズをしてみてもよいだろう。趣味を広げるのもよいだろう。好きなジャンルの音楽、映画・絵画・旅番組などを楽しむこと(テレビ番組)、気晴らしなども大切にしたい。一人でいるからといって自己の内的経験に向き合えるわけではない。幼児にとって、自己の内的経験が母と共有され、やがてその母親が幼児の心に内在化されて、はじめて一人でいられることになる(一人でいられる能力capacity to be alone)。

孤独の時間を味わい、慣れてみる。自己の不安と向き合う。自分の呼吸を感じてみる。何もしないで、自分の内的不安を味わってみる。少しずつ慣れてみる。どんな感情が現れてきても構わない。ああ、そういう気持ちがあるんだなと認めてみる。味わってみる。頭で考えるのではなく、心に浮かぶ経験に耳を傾ける。どんな感情や思考が浮かんできても構わない。それを自分自身に許してみる。いつものやり方で頭でそれを批判したり、決めつけない。心が何かを表現するのをゆっくりと待ってみる。「心細くても当たり前なんだな」「それでもいいんだな」「仕方ないことなんだな」自分の内的な気持ちや考えや見た夢を日記に書いてみるのもよいだろう。自己の経験の内省力を育ててみる上で有効だろう。

 

8.人とのつながりとコミュニケーションを維持すること

不要不急な外出を控えていても、外出禁止となっても、電話、様々なSNS、Skype、Zoom、LINEやメールを活用して友達と交流できる。曜日や時間を決めて、生活を構造化することもできる。社会的距離を維持しながら、気持ちではつながれる。人と離れていながら情緒的につながれる方法が現代ではふんだんに発展している。人間としてのニーズをお互いにサポートし合うことができる。お互いの気持ちや考えていることを表現してみる。聞いてみる。自発的に主体的に自分に何ができるのかを考えてみてもよいだろう。多くの人が、心細く、不安で、新しい環境で仲間を作りたいのにきっかけがないかもしれない。お互いに弱音を吐きながら、相手の話に耳を傾け、支え合うことの意義は大きい。

先の見えない長期戦である。家族関係、友人関係、異性関係、学校、会社、組織、コミュニティーとの関係で、協同して危機に立ち向かっている感覚が持てるとよいだろう。