青山学院のボランティア精神
2019/10/24
自発的な意志に基づき、他者や社会に貢献する行為であるボランティア。関東大震災の際、〝朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ〟というデマで迫害される朝鮮人を青山学院がかくまったという事実が背景にあるように、分け隔てなく立場の弱いものに寄り添う精神は、諸先輩方から受け継がれてきた青山学院の学風の一つなのかもしれません。
今回は日頃からボランティア活動を行っている中等部、高等部、女子短期大学、大学を代表する在校生の皆さんに、活動を通して思うことや得たこと、そしてボランティアをするうえで必要なこと、ボランティアとは何かを語っていただきました。
【写真左から】
青山学院女子短期大学現代教養学科国際専攻2年 今村 真子さん
青山学院中等部3年 近藤 彩加さん
青山学院高等部3年 谷 ひかりさん
青山学院大学国際政治経済学部国際政治学科3年 ヤマウチ 恵凛さん
──皆さんが活動をされている団体や活動内容をお聞かせください。
近藤 中等部の緑信会はボランティア精神を持っている生徒たちが集まるクラブで、60年以上の歴史があります。今は私を含め約20名が参加していて、毎週火曜日と金曜日の昼休みに集まり、収集した古切手を封筒やハガキから切り取ったり、学内で緑を増やす目的で育てているキュウリに水やりをしたりしています。文化祭では募金活動を行うほか、滝乃川学園(知的障がい児福祉施設)へ清掃に行ったり、ハンドベル部として救世軍恵泉ホーム(介護老人福祉施設)への演奏訪問なども行っています。
谷 高等部のボランティア部は、学外での奉仕活動として毎月第4日曜日に「えびす青年教室」に参加し、知的障がい者の方々と交流したり、夏休みなどには寿地区(横浜市)でホームレスの方のための炊き出しに参加したりしています。学内では被災地支援の募金活動や、文化祭でバングラデシュの小物を販売し、バングラデシュの教育資金援助を行うといった活動をしています。
今村 女子短期大学でグロリアス・クワイアというハンドベルのグループと、東日本大震災の被災地支援ボランティアを行っているBlue Birdに参加しています。Blue Birdの活動内容は、岩手県宮古市での被災した建物の泥だしやがれきの撤去といったワーク、仮設住宅に暮らしていらっしゃる方々との交流から、最近では公民館などでのお楽しみ会やバザーの開催へと変化しています。青山学院幼稚園の保護者の方々のご協力で集めた品物をバザーで売って、その売上金を募金しています。グロリアス・クワイアとしては、2013年からは宮古市主催の東日本大震災追悼式で、ハンドベルの演奏奉仕も行っています。
ヤマウチ 大学ボランティアセンター所属の学生スタッフ団体Rooteの代表を務めています。前身は青学生が主体的に活動を展開してきたボランティア・ステーションで、青学生によるボランティア活動の活性を目的としています。メインは様々な活動を企画し、学生を募集して実施することです。Rooteのメンバーはマルチタスクが好きな学生が多いですね。
国内外のプログラムが常に複数同時進行しており、海外では、ネパール、インドネシアの3カ国で活動しています。国内では渋谷区でのボランティアや東日本大震災の被災地支援などのほか、「防災」「熊本県の観光活性化」「食品ロス」の三つのプログラムもスタートしました。首都直下型地震が起きたときにどう行動すればいいのかを学んでもらうプログラムとして、日本に数台しかないというVR防災体験車を青山キャンパスに招き、学生の皆さんに災害のバーチャル体験をしてもらいました。
──ボランティア活動を行うようになったきっかけを教えてください。
近藤 入学後のクラブ見学で緑信会を見学し、友達に誘われて、「友達と一緒なら楽しいかな」という軽い気持ちで始めました。
谷 昨年1年間アメリカに留学して、ボランティアに対する意識が一変しました。中等部でも緑信会のメンバーとして活動はしていましたが、どちらかというと「周りがするから私もしようかな」という受け身の姿勢でした。けれどボランティアを行うのが当たり前という環境のアメリカで過ごしたことで、「ボランティアは自分から積極的に行うことだ」と気づきました。帰国後すぐにボランティア部に入り、今は部長を務めています。
ヤマウチ 卒業後は国際協力の仕事をしたいと思っていて、マネジメントに興味があり、ブレインワークができるRooteに魅力を感じました。
今村 学生生活では何か残ることがしたいと思い、入学式でグロリアス・クワイアのハンドベルの演奏を聴いて興味を持ち、しかも宮古市へもボランティアに行くと知り、ぜひ参加したいと思いました。私は山口県出身なので、東日本大震災の被災地は、これまで物理的にも心理的にも遠い存在でした。それが上京して「東北って近いんだな」と感じたことで、今からできることをしたいと思ったのです。また、それまでボランティア=力仕事というイメージがあったのですが、グロリアス・クワイアやBlue Birdの活動のようにそうではないボランティアもあると知り、自分にできることもあるのではと感じました。
──ボランティア活動を通して感じること、そして活動によって得られる、自分に与えられるものはどんなことでしょう。
谷 知りたいことはインターネットで検索すれば何でも分かる時代ですが、ボランティアは例外だと感じる出来事がありました。留学するまでの私は知的障がい者と関わる機会が少なく、コミュニケーションの取り方が分からず、見て見ぬふりをしているところがありました。けれど留学先で健常者と障がい者が一緒にスポーツをするユニファイドスポーツを体験したことで、成長のスピードが違うだけなのに怖がったり距離を置いたりするのは間違っていると気づきました。そこで青学でも健常者と知的障がい者が一緒にスポーツをするユニファイドスポーツをグローバルウィークに企画し実施しました。
活動を通して、知的障がいがある人が頑張って人の名前を覚えようとしてくれるなど、たくさんの優しさに触れました。そういうことはインターネットで検索しても出てきません。ボランティア活動を通して初めて実感できることだと思います。
近藤 老人ホームでお年寄りと話をするのは楽しいです。私は人と接することがあまり得意ではなく、自分の考えを言葉で伝えることも苦手です。そこで、老人ホームを訪問してお年寄りとお話をするときは「目で聞く」、話を聞きたいという思いを「目で伝える」ことを心がけています。するとお年寄りの方も私の話を熱心に聞いてくれるので、コミュニケーションがきちんと取れていると感じられ、とてもうれしいです。
障がい者の施設で話をした方が笑顔を見せてくれたときは、「楽しければ笑う」という根っこの部分はみんな同じだと実感しました。このように、ボランティア活動はこれまで見えていなかったことに気づかせてくれます。
ヤマウチ Rooteが企画したプログラムの運営スタッフの一員として活動していた1、2年次のときに様々な経験ができたことは、大きな財産になりました。2年次にインドネシアに行ったのですが、その際には「成果を求めてしっかり企画していけば、仮説通りの成果が出る」ということを学びました。活動の内容によっては、どんな成果があったのかを数値で示さないと認めてもらえないので、これは大きな経験値となりました。また、企画が実行できるか否かは大学の実務委員会に提出した書類で判断されますから、言葉や文字で訴える説得力、そして交渉力が身に付きました。
今村 被災地でのハンドベルの演奏は、会場に来ていただける方がいて初めて成立するので、足を運んでくださる方々にいつも感謝しています。宮古市ではホームステイも体験させてもらうので、被災された方からこれまでのこと、そしてこれからのことについて、直接話していただける貴重な機会を得られています。被災者の方々は学びたいと思っている学生に真摯に向き合ってくださいます。その話は谷さんが話されたように、インターネットで検索しても出てこないものです。
──活動を通して見えてくる社会の問題や、それぞれの活動の手応えなどについてお聞かせください。
近藤 滝乃川学園で、みんなで笑いあう出来事がありました。その時に、障がい者の皆さんに対して線を引いてしまっていた自分が間違っていたと気づきました。
今村 震災から時間が経つほどメディアでは取り上げられなくなり、人々の記憶も次第に薄れていっています。何が起きたのかを理解するだけではなく風化させないことが大事だと思いますし、現状も知るべきだと思います。
現地には立派な防波堤ができるなど、目に見える形での復興は進んでいます。防波堤ができて海が見えなくなりましたが、中には海が見たい人のために防波堤に小窓ができている部分もあります。この防波堤建設に関しては、現地でもいまだに賛否両論があります。そして被災者の心はまだ復興されていません。いま一番考えなければいけないことは、この〝目に見えない復興〟についてではないかと感じます。
谷 ユニファイドスポーツ大会に予想の倍以上の数の生徒が参加してくれたことはうれしい驚きでした。最初は私たちから選手たちに話しかけていたのですが、最後は選手たちから話しかけてくれるようになり、初めての試みは大成功でした。
日本では「グローバル化」という言葉があちこちで言われていますが、それ以前にまずは、社会にまだ根強く残っている差別や偏見などを解消、解決していくべきではないでしょうか。炊き出しのボランティアの際、ホームレスの方からは、勤めていた会社が倒産した後に再就職先が見つからず、このような生活を送るようになってしまったという話を聞きました。夜中に空き缶や石を投げつけられたり、火をつけられたりしたこともあったと聞いたときはショックでした。ホームレスになりたくてなる人などいません。また、健常者は障がい者と接する機会がないまま大人になる方も多く、コミュニケーションの取り方が分からず、いつまでも距離が縮まらない社会のシステムにも問題があると思います。
ヤマウチ 谷さんのように留学がきっかけとなってボランティアへの意識が変わるということは、言い換えれば日本に問題があるということですよね。アメリカでは、普通に障がい者の方たちと一緒に授業を行うクラスがあります。障がい者とともに暮らすことがごく当たり前のこととして行われる社会であってほしいです。
日本のニュースを見ていると、平和だなあ、と思ってしまいます。もっと報道すべき社会の問題はたくさんあるはずなのですが……。
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