教皇フランシスコによる八つの文書を収録『パンデミック後の選択』
2021/04/24
2020年7月に緊急出版されたこの書物は80頁に満たない小冊子ですが、その内容は深い省察と新しい時代への希望にあふれた力強いものです。
ローマ・カトリック教会の教皇フランシスコが、新型コロナウイルスがパンデミックを引き起こし、世界が恐怖と不安に包まれ始めた時期、2020年3月27日から4月22日にかけて発した八つの重要な文書が収められています。バチカンで発刊されたのが6月であり、7月には邦訳出版がなされた点でまさに緊急出版と言ってよいでしょう。
原題Life after the Pandemicを訳すと「パンデミック後の生き方」となりますが、邦題は『パンデミック後の選択』とされています。そこには日本社会がこれからどのような選択をするのかという大きな問いが込められているように思います。
八つの文書のタイトルだけを列挙しておきましょう。
「なぜ怖がるのか」
「コロナ後への備えの重要性」
「新たな炎のように」
「目立たぬ兵士たち」
「再起計画」
「エゴイズム―より悪質なウイルス」
「ストリートペーパー関係者へ」
「地球規模の問題を乗り越える」
これらの文書に一貫して見られるのは、世界の中の弱者や貧者を配慮し続けようとする教皇フランシスコの姿勢です。
ウイルスは区別なくすべての人類を恐怖に陥れました。今回のパンデミックを通して私たちが認識させられたのは、苦しむ人々の間には違いも隔たりもないということです。ごく微小なウイルスによって世界の人々の肉体が蝕まれ、すべての者が自分で自分を救えないという現実を直視させられました。いのちの儚さや社会機能の脆弱さを感じざるを得ませんでした。フランシスコは言います。「この試練を、誰一人切り捨てることなく、すべての人の未来を用意するチャンスとしましょう」。
「今はエゴイズムの時ではありません」
「今は分裂している時ではありません」
「今は武器の製造と取引を続ける時ではありません」
「今は忘れる時ではありません。自分たちが直面しているこの危機を理由に、他の緊急事態(紛争、干ばつ、飢餓による移民や難民、人道的な危機に直面する人々、政治や社会経済や衛生の窮状に苦しむ人々)を忘れることがあってはなりません」
「無関心、利己主義、分裂、忘却、どれも今は聞きたくありません」
「今回の危機が、わたしたちが自分の生活を自分の手に取り戻し、眠っている良心を呼び覚まし、拝金主義をやめて人間のいのちと尊厳を中心にする人間的・環境的回心をする機会となることを願います」
これらの言葉は、今回のウイルス以上に世界に蔓延し猛威を振るっている「無関心のグローバリゼーション」への教皇の深い嘆きから出たもので、パンデミックによって、いま人類が次の時代をどのように選択すべきかとの岐路に立たされているという教皇の認識を示すものです。
COVID-19は、これまでの人類の身勝手さ、競争心、私利私欲、強者の論理だけでこの世界が進んできた様子を顕わにしました。しかし今こそ必要なのは、愛と正義と連帯というワクチンだと言います。
小さな書物ですが、パンデミック後の社会が、ただ単にパンデミック前に戻ることではなく、弱い人、貧しい人にいっそう寄り添う新たな世界の構築を選択できるようにとの教皇フランシスコの願いとメッセージが、十分に響いてきます。
平易な訳文と共に、読む私たちを覚醒させ、奮い立たせ、世界を思う深い祈りへと誘ってくれる一冊です。
教皇フランシスコ 著
カトリック中央協議会事務局 訳
カトリック中央協議会 2020年
550円(税込)