聖書入門の羅針盤『聖書人物おもしろ図鑑 新約編』
2019/04/18
「キリスト教本屋大賞」という賞があります。新しく発行されたキリスト教書の中から、全国のキリスト教書店の店員が「いちばん読んでほしい本」を選ぶものです。「キリスト教本屋大賞2016」の大賞は大島力(学院宗教部長・大学経済学部教授)監修の『聖書人物おもしろ図鑑 旧約編』でありました。その本の続編『聖書人物おもしろ図鑑 新約編』(中野実 監修)をご紹介したいと思います。
小さいころから聖書に親しんできた私ですら、なかなか聖書の物語を理解することは難しいと感じてきました。その理由の一つに、日本人には馴染みのない名前の人が聖書にはたくさん出てくることにあると思います。おそらくそれは私だけが感じていることではないでしょう。多くの人に馴染みのあるクリスマス物語を高等部の聖書の授業で扱っても、ヘロデとアウグストゥスの関係が分からない生徒、ヘロデ大王とヘロデ・アンティパスという人は別人であることを知らない生徒など、人物像で混乱している生徒が少なくないことを感じています。私は名前や人物像を覚えることが大変苦手で、人間関係が複雑な洋画などは、上映の途中で誰が誰だか分からなくなることがしばしばあります。そのような時に大変役に立つのがパンフレットなどです。
まさに本書は新約聖書の物語を読み進めるにあたり、複雑な聖書の主要な人物像を、分かりやすくしかも明快に説明してくれます。
まず本書を手に取って感じることは、カラフルで見やすいこと。文字だけの人物紹介ではなく、味わい深く親しみやすいイラストで、聖書の人物を見事に表現しています。例えば主イエスの弟子のひとりであるペトロは手に鍵を持って描かれています。そしてそのイラストの横には鶏が描かれています。これはペトロが天の鍵を授かったという聖書の証言を思い出させ、またペトロが主イエスのことを三度知らないと言ったときに鶏が鳴いたという聖書の記述を思い出させます。イラストを見るだけで聖書に描かれているその人の人物像を見ることができます。
もちろんイラストだけではありません。人物紹介の記事も端的にしかも興味深く書かれています。主イエスの母マリアの紹介を見るとヨセフと婚約中であったこと、エリサベトと親戚であったという基本情報はもちろんですが、マリアという名前に「神様の贈り物」という意味があることまで、聖書の登場人物を身近に感じることでしょう。
本書のもう一つの特徴は、タイトルは『聖書人物おもしろ図鑑』となっていますが、人物を紹介するだけの内容にはなっておらず、新約聖書の全体の内容が網羅されていて、100ページほどの手ごろな書物でありながら、新約聖書全体をコンパクトにまとめています。もちろん本書の「はじめに」にも記されていますが、これですべて足りるわけではありません。しかし、青山学院に入学して初めて聖書に触れた人にとって、また聖書の物語を理解することに困難を覚えている人にとって、間違いなく聖書を読み進めるための良い入口になることと思います。
本書の編者が望むように、皆さんが聖書という大海原への航海に出るための「簡単な海図、羅針盤、測鉛線」と本書はなることでしょう。
中野 実 監修
日本キリスト教団出版局 2016年
1,500円+税