Column コラム

地域活性化のマーケティング【青山学~青山から考える地域活性化論~第1回】

青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授

宮副 謙司

地域活性化の取り組みの現状

地域活性化や地方創生がいろいろな場面で唱えられ、取り組まれてから久しいが、近年の動きをみていると、新たな局面に入ってきたように感じる。例えば「B級グルメ」のイベント。2006年の第1回大会で優勝した「富士宮やきそば」は当時インパクトがあり、その後人気は定着した。しかし、それ以降、モツ煮込みや鶏唐揚げなどいくつも登場したが、一過性の話題に終わり、既にその多くが忘れ去られている。大会への出展者も来場者も次第に減り、2017年には大会自体がなくなった。同じことは、全国に広がった「地域ゆるキャラ」「YOSAKOI」のイベントなどにもいえることで、表面的で一過性の話題作りでは地域は活性化しない。地域活性化とは、地域における生活を本質的に豊かにし、継続して取り組むべきこととして認識される時代になってきたのである。

 

地域活性化のマーケティング

一般的に地域活性化とは、次のような要素を高い状態にすることと捉えられている。すなわち、①経済効果(お金を生み出す)=生産額・消費額・雇用創出数・設備投資額、②集客効果(人が来る・にぎわう)=イベント集客数・観光客数、③評判効果(人に薦める)=消費者認知・評価・イメージ、テレビ・雑誌等の情報発信量、④定住効果(人が住む)=居住人口などである。そのいずれか、あるいは全てが地域活性化指標として一応の整理ができる。
本質的で持続的な地域活性化の実現、その取り組みの手がかりとして、価値の創造・伝達・提供の仕組みをテーマとするマーケティング論の立場で捉えると理解しやすい。すなわち、地域が持つ資源に着眼して価値のあるものに編集(構成、関連づけ、調整など)して、その価値を消費者などに確実に伝達し、モノを届けたり体験をさせたりして価値を実現するという捉え方である(図表─1)。

地域活性化のマーケティングモデル

 

地域活性化は、地域ブランド化の実現などの「価値の創造」にとどまらず、「価値の伝達・提供」まで目標として取り組むべきである。しかも「価値の伝達」は、マス向け認知向上型の情報発信から進んで、消費者一人ひとりの共感を呼び、想いを残せるような体験・参画型とすることが求められる。地域活性化の目標(あるいは評価)も、従来の経済効果ではくくれない新しい指標、例えば社会に与える定性的指標(地域住民の行動・意識や生活満足度の変化など)も考慮すべきではないかと考える。
筆者は、2011年の東日本大震災以降、マーケティング研究者の立場から地域にできることは何かないだろうかと考え、「地域活性化のマーケティング」という科目を、大学院ビジネススクール※で立ち上げた。学部生メンバーともアドバイザー・グループ制度を活かしながら地域のフィールドリサーチ活動を進めている。

 

青山はどういう地域なのか

青山は地域活性化の面ではどうだろうか。世界的なブランドや個性的なファッションや、高感度な生活雑貨の店舗が集積している。緑あふれる空間環境を活かしたレストランやカフェは特徴的であるが、新規開店したかと思うと数か月で消えていく場合も多くみられる。青山の地域の特徴を活かし、良さを引き出し、住民や通う人々にとって本質的に望ましい活性化の方向性を常に考えていく必要はあるだろう。
青山にある企業としては、「紀ノ國屋」「青山フラワーマーケット」などこの地で創業した企業もあれば、「Honda」「伊藤忠商事」「ワールド」など他の地域から進出した企業もある。「エイベックス」「スパイラル」「ナチュラルハウス」「DEAN & DELUCA」など先進的な生活提案をする企業も多い。こうした企業が着目する青山の顧客層は、先進的でクリエイティブで良識をもつ層ということであろうが、いかにしてそのような顧客層が生まれ育ってきたのか、要因や背景を認識することが重要である。

 

青山の地理と歴史から地域活性化を考える

青山の地理(立地・空間)や歴史を起点として考えるなら、その影響を受けた文化とビジネスが生まれ、そこに住み、通う人々の感性や生活意識・スタイルが醸成されたと説明できよう。青山は海抜30mの丘陵にあり、江戸時代からその稜線に沿って街道が整備され、有力な大名の屋敷が配置された。それらは明治以降様々な用途に活用された(青山キャンパスはかつて伊予西条藩松平家の敷地であった)。戦後は近くにできた米軍関係施設の影響から西洋の文化が流入し、さらに東京オリンピック期の都市計画を機に大きく変貌して現在に至っている。クリエイティブやファッションに携わる人々が行きかう、まさに日本の伝統工芸から米国的、国際的な感性まで触れられる街へと発展したのである(図表─2)。

青山顧客層の形式要因

 

この連載では、こうした青山の地理や歴史を深く知ることから始め、今後の青山のさらなる地域活性化を考えたい。それは、青山が地方とつながる、あるいは海外とのつながりをより広めることになるのだろう。

「青山学報」264号(2018年6月発行)より転載
【次回へ続く】