Column コラム

青山企業の地域コミュニティ戦略【青山学~青山から考える地域活性化論~第4回】

青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授

宮副 謙司

1.企業による地域活性化

最近、注目される企業による地域活性化の取り組みについて、前回は、全国的にビジネスを展開する大手企業が、本業の製品企画や販売に地域性を取り入れ、その情報発信やキャンペーンで青山という場(街やそこにある情報発信スペース)を活用する事例をみた。今回は、青山に立地する企業(「青山企業」と名付ける)が、本業の対象顧客との関係を「コミュニティ」と捉え、その関係を形成し深める中で、日本各地の地域とのつながりも深めることになっている動きを取りあげたい。その代表事例が、「ナチュラルハウス」である。

 

2.ナチュラルハウスのコミュニティ

ナチュラルハウスは、オーガニック食品や化粧品・雑貨の専門店で、その旗艦店である青山店は、東京メトロ表参道駅からすぐの青山通り沿いに立地する。店舗入口付近には野菜や果物がマルシェのように品揃えされている。さらにグロッサリー、惣菜へと売場がつながりイートインスペースもある。また化粧品・ボディケアやサプリメントのエリアがある。
店内にはマクロビオティック健康法やベビーサイン教室(育児教室)などオーガニック・ライフスタイルの情報が掲示され、店内で定期的にワークショップも開催されている。同社はまさにオーガニックな生活提案を行い、その普及・浸透を進めている。

ナチュラルハウス 青山店
ナチュラルハウス 青山店

 

また同社は、オーガニック野菜及び食品を生産者から直接仕入れ販売するとともに、加工食品及び化粧品のPB(プライベートブランド)製造販売も行っている。例えば、PB化粧品であるBLESS THE EARTHシリーズは、パッケージ及びデザインが凝っており洗練されている。
同社のこのような店舗展開は、従来のオーガニック専門店と異なり、安全性や無農薬を押しつける雰囲気はなく、ロハスなライフスタイル・高品質で美容や健康に良い、というような明るくポジティブな印象であり、特に青山店においては場所柄もあって顧客は洗練された女性客が多いようだ。
そこで繰り広げられる同社と顧客及び仕入先との関係は図─1のように説明できる(この図は同社が発表しているものではなく筆者の読み取りによる考察である)。

 

□ 顧客との関係
同社では、店舗スタッフと顧客とのコミュニケーションが重要視され、店頭で製品知識を持ったスタッフが接客して詳細な説明を行い、試飲・試食及び購入を促している。オーガニック・ライフスタイルの価値を潜在顧客に向け伝達し(提案・啓蒙)、顧客とし、その初心者からしだいに熟達者へと醸成している。「顧客ベテラン」から同社スタッフや、オーガニックライフ専門家としてワークショップでの価値伝達側になるメンバーもいるという。まさに「顧客コミュニティ」の形成と発展といえるだろう。

□ 仕入先との関係
同社は、青果や加工食品の業界で有機栽培やオーガニック基準を満たした生産者と取引し、仕入先・取引先を選定している。化粧品や雑貨分野に関しても同様である。同社の価値の創造のための企業間コミュニティと言える。同社のオーガニック・ライフスタイルという商品政策の明確化が顧客コミュニティ、企業コミュニティを創りあげている。

□ CSA:都市と地方を結ぶコミュニティ
特筆すべきは、消費者と生産者を結びつけるCSA(Community Supported Agriculture = 地域支援型農業)の展開である。具体的には、「アップルヴィレッジ」という名称で、全国各地のオーガニック農産物生産者をつなぐ組織を形成し、「顔が見える生産者」として店頭で紹介することはもとより、オーガニック支持の顧客が有機栽培の農園を訪問する「産地交流ツアー」や交流イベントを開催している。例えば北海道のオーガニックフルーツトマト生産者、青森県のりんご有機栽培生産者、島根県で40年以上有機農業に取り組む農場、佐賀県のみかん有機栽培生産者など全国20以上の生産者がコミュニティのメンバーになっている。

 

3.コミュニティ型マーケティング戦略モデル

青山企業の特徴は、青山に住む、あるいは通勤・通学する高感度な顧客層に向け企業価値を発信し、青山顧客層の共感やさらに企業への反応を受信し、企業としてのマーケティング能力を高め、その価値を一層高めていく相互関係で成長してきたことであった(第1回「地域活性化のマーケティング」参照)
ナチュラルハウスのようなコミュニティの展開を参考に考察するならば、青山企業の動きは「コミュニティ型マーケティング戦略」というべきもので、さらに新たな戦略展開と見ることができる(図-2)。企業が創造する価値に共感する顧客がその企業(マーケティング主体)との関係を深めていくと、その顧客もまた情報の発信者となり顧客相互の交流を深めていくということである。とりわけ共感度と情報発信度の高い顧客は、その主体に関与を深め、地域メンバーと連携して新たな地域価値の創造活動に自らも参画するという循環に発展するというものである。この動きは、この青山から始まっている。

 

「青山学報」267号(2019年3月発行)より転載
【次回へ続く】