Interview インタビュー 青山極め人

頭脳×体力×技術 錬磨により頂点へ〈大学・中村 真緒さん〉

ボルダリング

子どもの頃から、アスレチックなどで身体を動かすことが好きだった中村さん。小6の時に家族と体験したボルダリングに熱中するようになり、ボルダリングジムで練習を重ねた。本格的な大会デビューは高1の時。決して早いスタートではなかったという。そんな中でも、自身を“負けず嫌い”と評す中村さんは国内大会で優勝、ワールドカップ出場という結果を残している。
ボルダリングの魅力を「登れた時の達成感と、会場で応援してくださる観客との一体感! 会場全体が盛り上がる中、観客席から『ガンバ!』の掛け声が飛び交っていて、その声援一つで、できないと思っていたことができてしまう」と話す。
今後は「ワールドカップで表彰台に上りたい。そして将来はボルダリングを含むクライミングを広める活動をしたい」と意気込む。「スポーツクライミングがオリンピック競技に加わったことで世間の認知度が高まり、活動しやすくなった面があるので、下の世代の子たちがより良い環境で競技ができるように、さらに広めていきたい」と次世代への想いも語った。

 

中村 真緒さん

青山学院大学総合文化政策学部4年

◆主な戦績
IFSCクライミング・ワールドカップ(B)ベイル2019 6位/Top of the Top 2020―スポーツクライミング日本代表の頂上決戦― 優勝/第16回ボルダリングジャパンカップ 4位 他

「青山学報」276号(2021年6月発行)より転載

 

Episodes ―こぼれ話―

紙幅の関係で掲載がかなわなかったインタビューをご紹介いたします。

中村真緒さん

 

──ボルダリングを始めたのは、ご家族など身近な方の影響ですか?
もともとスポーツが好きだったのですが、小学校6年の夏休みに子犬を飼い始めて、そのお世話でずっと家にいて外出しなかったので、家族が家の近くのボルダリングジムに連れて行ってくれました。それが楽しくて、それ以降は一人で遊びに行くようになりました。

──どのようなトレーニングをしているのでしょうか。
普段は朝のランニングと、週1日、筋トレをするためにジムに通っています。大学のフィットネスセンターも利用しています。登るトレーニングをするのは週5日、1回4~5時間です。

──体重や体型、運動神経の良し悪しは関係するものですか?
体重が重すぎると腕に負荷がかかりますし、軽いと筋肉がなくなってしまうので、そこのバランスをとるのが難しいです。でも最近はうまくコントロールができるようになったので、調整の苦労はしていません。夜にお腹がすくことがあっても、多少はガマンしています(笑)。
運動神経についてはあまり関係ないかもしれません。

──大会の時、ホールド(壁に取り付けられている突起物)がどう組まれているか、どのタイミングで見れるのでしょうか。
試合開始のタイミングで初めて見るので、試合時間4分の中、最初にどう登るか考えます。経験値が一番大きく、日ごろの練習の時の動きを覚えていて、そのパターンを当てはめていく。でも「こう動こう」と決めてスタートしても、実際「あれ、動けなかった」ということもあります。
自分の番までは隔離されていて前の選手の競技の様子を見ることができないので、競技の順番に有利不利は関係ありません。競技後は、あとに出場する選手の様子を見られるので、「ああすればよかった!」ということはけっこうあります。
体力はもちろん、頭もかなり使いますが、考えるのは得意な方だと思っています。

──試合時間4分、短いように感じますが。
登れなかったら、それは実力不足だって思います。

──命綱なしで登るとは、見ていてハラハラドキドキしてしまいます。ケガなどすることはあるのでしょうか。
筋肉があまりないと痛めてしまいますが、ある程度筋肉をつけて、無理やり動かそうとする動きを自分で制御できるようになれば、ケガをすることはそんなにありません。
ねんざをしたことがあるのですが、性格上休んでいられず、登ってしまうんです。ギブスをつけて、国体に出場したこともあります。
痛みは、“アドレナリンが出るから大丈夫かな”と。でも痛かった(笑)、結果は2位でした。

──思い通りに身体が動かなかったり、結果がふるわないなど、スランプの経験はありますか?
世界ユースの大会では、毎回予選落ちしてしまいます。大人も一緒に戦う世界大会では成績が悪いわけではないけれど、ユースでは結果を出せない、世界的にユースの世代は強い選手が多いです。
心が折れそうになったこともあります。みんなができている課題が、自分には全然できなくて、泣きながら登ったこともあります。

“今日は身体が重いな”と思っていても、予想以上にできる時もあって、大会当日、隔離された中での練習ではできなくても、いざ競技が始まったら、「あれ、けっこういけるじゃん」ということもあります。最近は「もう大丈夫でしょ」と前向きな気持ちで挑めています。

──負けず嫌い?
すごく負けず嫌いです。家族の中で負けず嫌いは自分だけで、姉が車のマニュアルの運転免許を取得したので、私も負けたくなくてマニュアルをとりました(笑)。

──新型コロナウイルスの感染拡大で、練習や大会に影響はありましたか?
緊急事態宣言中、大会は延期、クライミングジムも休みで、1か月以上登っていませんでした。宣言が解除されてから久しぶりに登ったら手が痛すぎて……“クライミングってつらい!”と感じました。初心者になった気分で、1週間ぐらいで感覚は戻ったけれど、体力が戻るには1か月以上かかりました。

──思い出に残っているエピソードを教えてください。
ワールドカップで決勝に残った時は、正直びっくりしました。何戦も行うのですが、初戦の時にお粗末な成績をとってしまって絶望していたんです。でも徐々に感覚を取り戻していき、最終戦で決勝に残ることができて、とてもうれしかったです!

──大会ではだいたい同じ顔ぶれになるようですが、他の選手はライバルのような存在なのでしょうか。あるいは仲間意識があったりするものですか?
ライバルという意識はあまりありません。みんな仲が良くて、クライミングジムでよく一緒に練習します。海外遠征でたまにオフが取れた時は、みんなで観光地巡りなどして過ごしています。

──クライミングがオリンピック種目に加わって、意識はしましたか?
競技がテレビで放送されるようになって、“オリンピック”という影響力がすごいと思いました。
オリンピック出場に関しては、パリ五輪が開催される時は24歳、年齢的にオリンピックを目指すなら最後の年です。クライミングは全身を使うので、大会に出場しているのは、8割ぐらいが10代で、選手生命としてはあまり長くないんです。

──“Top of the Top 2020”で優勝もされましたね、おめでとうございます!
日本代表内での大会だったので、けっこう軽い気持ちで臨もうとしたら、想像以上の本格的な大会でした。
私より明らかに実力が上の選手も出場していたので、まさか勝てるとは思っていませんでした。
自分が思っている以上に、まわりの反響が大きくて、「見たよ~!」とたくさん連絡をもらえました。

──今後は?
今年度の1年生に、クライミングをやっている子が入学したんです。大学戦に出たいなってずっと思っていましたが、一人だけでは出られなかったので、一緒に出場したいです。
卒業後に就職が決まっている会社では、競技を続ける時間も組み込んでもらえるので、ありがたいことにボルダリングは続けられそうです。

──これからの活躍も楽しみにしています。