Interview インタビュー あおやま すぴりっと

心惹かれたアフリカで農業の発展に尽力〈卒業生・竹越 久美子さん〉

アフリカの国々を支える 農業の発展に尽力

竹越さんの滞在国
竹越さんの滞在国

──東京外語大大学院を修了されてからは、NGO緑のサヘルのスタッフとしてチャドで勤務、そしてパリ第11大学大学院に進学されていますね。
外務省在外公館派遣員としてカメルーンに滞在して以来、パリの大学院で開発プロジェクトの進め方を学びたいと思っていました。パリの大学院に入学するまでは半年間あったので、その間に現地経験を積ませてもらえる「緑のサヘル」に所属しました。緑のサヘルはチャドで、スーダン難民キャンプ周辺の荒廃している森林の保全事業を行っていました。これはUNHCR(国連難民高等弁務官)事務局からの委託業務で、私もこの環境保全活動の調整業務やコーディネートを担当しました。

パリ第11大学大学院ではアフリカ開発プロジェクトマネージメントコースに進学しました。クラスのうち約半数はアフリカ人で、自国をよくしたいという志を持って学びに来ている人も少なくなく、彼らと交流できたのも貴重な経験となりました。そのうちの何名かは、今も出張先で顔を合わせることがあります。

──2009年からはJICAの専門家としてアフリカのプロジェクトに関わっていらっしゃいますね。
ブルキナファソでは長年、緑のサヘルが北部乾燥地域の農村の環境保全と農業生産性向上支援を行っていたので、私も継続して現地の活動を遂行しました。タンザニアは林野庁のプロジェクトで、そこに緑のサヘルから私が派遣されていた形です。同時並行だったので、2カ国を行ったり来たりして、その合間に日本に戻るという慌ただしい生活を送っていました。

JICAではマダガスカルにおける農業支援プロジェクト「中央高地コメ生産性向上プロジェクト」に専門家として約3年関わり、その後JICAブルキナファソ事務所の農業分野担当企画調査員として約2年半勤務しました。

これらの活動を通して、アフリカにおける農業の重要性を強く感じるようになりました。アフリカの人口の約7割は農業に関わっているので、農業が国を支えていると言っても過言ではありません。つまり農業の分野が発展しなければ国の発展もありえないということです。一番可能性のある分野だと思い、農業に関する活動に積極的に関わるようになっていきました。祖父母が専業農家だったため、昔から農業が身近に感じられたという私自身の環境も大きかったと思います。

SHEPアプローチの日本における研修でアフリカの行政官向けに講義を行う様子
SHEPアプローチの日本における研修でアフリカの行政官向けに講義を行う様子
ケニアにおける研修でマーケット調査分析を疑似体験するワークショップをフォローする様子
ケニアにおける研修でマーケット調査分析を疑似体験するワークショップをフォローする様子

 

理想はいつの日かこの仕事がなくなること

──アフリカを舞台に活動されてきた中で、忘れられない思い出もいろいろあるのでしょうね。
たくさんありますが、いくつか挙げると、一つはマダガスカルの仕事から離れて4年もしてから感謝状をもらったことです。マダガスカル農業省次官が来日する際、わざわざ持参してくださいました。マダガスカルで仕事をしていた時は、一緒に働いていた農業省の若い職員が異動になった際、お別れの言葉で「あなたと一緒に仕事をして、仕事に対する厳しい姿勢と、〝農家第一〟という目標を学ぶことができた」と言ってくれたのも胸に響きました。

マダガスカル農業省次官より、感謝状を受け取る竹越さんたち
マダガスカル農業省次官より、感謝状を受け取る竹越さんたち

 

また、カメルーンで出会った就職先がない優秀な学生が、路上販売から始めて携帯電話販売ショップを持つまでになったこと、ブルキナファソのとある村で、青年グループのメンバーが村の開発委員会代表にまでなっていることを知った時はうれしかったですね。

──その一方で、苦労されたことなどはありませんでしたか。
胃腸を壊すことはあっても、大きな病気はしたことがなかったのですが、2度目の滞在となったブルキナファソで初めてマラリアにかかりました。私は入院するまでにいたらず、4日ほど薬を飲んで仕事に復帰できました。ところが、マラリアは症状が落ち着いてからが怖いと言われるのですが、本当にその通りでした。血液にダメージを受けるために、貧血気味になったり病気にかかりやすくなったりしてしまうのです。私の場合、マラリアにかかった1カ月後に原因不明の病気になって入院、貧血についてはもう大丈夫と思えるまで2カ月ほどかかりました。

──今後の目標や夢をお聞かせください。
ずっとアフリカの農業に関わっていきたいと思いつつ、現地の人々が自立して、この仕事がなくなることが理想だということを念頭に置いて、仕事を続けていきたいと思っています。

また、日本で大学生にアフリカについて話をする機会があったのですが、その際、学生から「アフリカについて〝貧困〟というキーワードで勉強はしたけれど、実際にアフリカの人々がどういう生活をしているのか想像できない」と言われました。今後は日本国内でも、アフリカをより知ってもらう活動をしていきたいですね。

──最後に、在校生へのメッセージをお願いします。
学生時代にやりたいと思ったことは、まずやってみてください。社会に出てからでは難しいことでも、学生のうちならできることがあります。実際にやってみて、それが自分に合っているかどうかは、経験を通じて分かってきます。また、人と人とのつながりを大事にしてほしいですね。

そしてぜひ、海外に出てください。旅行でもいいのですが、やはり生活することをおすすめします。一度海外に出ると日本を振り返ることができますし、何より考え方の幅が格段に広がり、様々な角度で物事を見ることができるようになります。ぜひとも積極的に海外を目指してください。

竹越久美子さん

 

竹越 久美子さん TAKEKOSHI Kumiko

独立行政法人 国際協力機構(JICA)農村開発部
1979年、山梨県山梨市生まれ。
2001年青山学院大学文学部フランス文学科卒業、同年東京外国語大学大学院開発学専攻修士課程入学。
在学中に在カメルーン日本大使館付きの外務省在外公館派遣員として勤務。2005年東京外国語大学大学院にて開発学修士号を取得。同年4月からNGO緑のサヘルに所属しチャドに勤務。2006年パリ第11大学大学院アフリカ開発マネージメントコース修了。2007年からNGO緑のサヘルの職員としてタンザニアおよびブルキナファソに勤務、2009 年からはJICA専門家としてマダガスカルやブルキナファソで勤務。2015年よりJICA 農村開発部特別嘱託、2017年1月より市場志向型農業アプローチ広域アドバイザーとしてセネガルに赴任。

 

「青山学報」258号(2016年12月発行)より転載