Now

日本女子ラグビーの未来を担うラガールたち

「にわかファン」が激増するほど日本中を興奮の渦に巻き込んだ、ラグビーワールドカップ2019日本大会。
男子選手の活躍に刺激され、その実力、人気に追いつけ追い越せと励んでいるのが女子ラグビー日本代表「サクラフィフティーン」です。
その日本代表メンバー入りを目指しているのが、本学大学ラグビー部に所属する3人のラガール、江渕まことさん、津久井萌さん、小西想羅(そら)さんです。男子選手と一緒に練習をすることで、外国人の女子選手と対等に戦うスキルを身につけています。ラグビーの魅力から2021年開催の女子ラグビーワールドカップへの思いまで、大いに語っていただきました。

【写真】 津久井 萌 さん(左) 江渕 まこと さん(中央) 小西 想羅 さん(右)

 

W杯でファン急増のラグビー その魅力はチームプレー

──日本で開催されたラグビーワールドカップは大変な盛り上がりでしたね。
江渕 女子のラグビーワールドカップとは大会の規模も観客の数も桁違いで圧倒されました。日本選手の活躍を見て、女子選手も実績を積み重ねていかなければと感じました。

津久井 ワールドカップ開催国ということで、多くの試合をテレビで観ることができてうれしかったです。日本の選手たちは「勝つ」という自信がみなぎっていて、すごいなと思いました。

小西 これまでにラグビーを知らなかった方々にも、たくさんの感動を与えたことが素晴らしいですよね。勝ち続けることでますます注目を浴び、結果を残すことの重要性を実感しました。

──江渕さんと津久井さんは2017年のワールドカップに出場していますね。
津久井 小西さんの言葉にもありましたが、結果を出すことは本当に大事なことです。2017年の女子ラグビーワールドカップに出場したとき日本は11位で終了しました。どんなに試合の内容がよくても負けは負け、結果がすべてだと痛感し、勝つことの大切さを学びました。

江渕 私もワールドカップに出場したときは「日本を背負っている、日本の女子ラグビー界の未来もかかっている」という責任感とともに、〝今までやってきたことを出し切って勝たなければいけない〟と思う気持ちが強かったです。日本代表という肩書きを背負って試合に出場するときは、いつもの試合以上に緊張します。

江渕まことさん
江渕まことさん

小西 私はワールドカップ予選会でメンバー入りしたものの、フィールドに立つ機会を得られませんでした。チームの本選出場が決まったときも気持ちは複雑で、自分の流している涙が本戦出場のうれし涙なのか試合に出られなかった悔し涙なのか、よくわかりませんでした。

──皆さんがラグビーを始めたきっかけを教えてください。
江渕 ラグビーを始めたのは高校1年で、あまり早いほうではありませんでした。それまでは陸上のハードル競技をしていたのですが、高校入学後はスランプで伸び悩みました。そのとき、「このままズルズル続けるよりは、今以上にきついスポーツに挑戦してみよう」と思い、ラグビー部に入りました。

津久井 兄がラグビークラブでプレーしていた影響で、5歳から始めました。中学ではラグビー部がなかったため、陸上部に入りました。ラグビー部があったら迷わずラグビーを選んでいましたね。

小西 私も5歳のとき、ラグビースクールの見学に行く兄に付いて行ったのがきっかけです。その後、柔道にも打ち込み、ケガや脳震とうを防ぐ方法を学び、高校からはラグビーに専念しました。

──ラグビーの魅力はどんなところでしょう。また、皆さんの得意とするプレーも教えてください。
江渕 チームスポーツなので、ほかのメンバーのトライも自分のことのようにうれしく思えることがラグビーの大きな魅力だと思います。
私が得意としているのは対戦相手にぶつかるコンタクトプレーで、タックルで相手を止めたり、ラックに体を突っ込んでいったりするのが好きです。特に相手を仰向けに倒せたときは「よし!」と思いますね。顔をケガすることが多いのが難点ですが(笑)。私のポジションであるプロップはディフェンスなので敵を止める役割ですが、ボールを取り返し攻撃の起点となるようなディフェンス、というイメージでプレーしています。スクラムもただ組んでいるだけではなく、実はすごく奥が深くて技術も必要で……この辺は話し出すと止まりません。

小西 江渕さんは普段はのんびり、おっとりしている感じなのに、試合では別人です。狙いを定めると、ものすごい勢いで突っ込んでいきますよ(笑)。私もコンタクトプレーは好きですね。2017年まではポジションはロックでしたが、現在はフランカーとナンバーエイトです。
小さい頃に参加していた、年に一度開催されるガールズラグビーフェスティバルというイベントには、年上の女子選手たちが手伝いに来てくれていました。今、その方たちと日本代表として一緒にプレーできていることは不思議な感じもしますが、とてもうれしいです。

津久井 女子ラグビーは競技人口が少ない分、全国にラグビー仲間ができます。小西さんとも小さい頃から知り合いでしたし、毎週末に行われるラグビークラブの練習試合で各地のラグビー仲間と会えることがいつも楽しみでした。

スクラムハーフはつなぎ目の役目を果たしながらゲームメークするポジションなので、動きながら瞬時に状況判断するのは大変ですが面白さを感じています。ディフェンスの際はみんなの後ろに立っていることが多いため、ゲームを俯瞰して、各選手に指示を出すなど声かけをしています。

津久井萌さん
津久井萌さん

小西 その声が普段の姿から想像できないほどの大声なんです(笑)。

 

男子と一緒に練習できる 青学ならではの恵まれた環境

──青山学院大学に進学した理由をお聞かせください。
江渕 2015年の男子ワールドカップの日本対南アフリカ戦を観たことで、「自分も代表になりたい」という目標ができました。そこで、体が大きく技術力も高い外国人女子選手と対等に戦える力をつけるため、高校と同様、男子と練習できる環境を求めていろいろな大学に問い合わせをしました。その中で、青学のラグビー部が女子部員を受け入れてくれ、しかもコンタクトプレーまで練習が可能ということを知り、「この大学しかない!」と一般受験をして進学しました。女子部員を敬遠するラグビー部も少なくないので、本当にありがたかったです。

津久井 高校3年でワールドカップに出場したとき、外国人女子選手との実力の差を痛感しました。青学では男子選手と練習ができるので、迷わず決めました。

小西 私も、男子と一緒に練習ができるというのが進学した最大の理由です。ワールドカップ本選の代表に漏れたとき、これからは今までと違うことをしなければいけないと思いました。実はそれまでは、女子ラグビー部がある日本体育大学に進むだろうと漠然と思っていました。でも自分が変わるにはより険しい道を進むべきだとも思い、勉学にも励み、青学への進学を決断しました。

──男子と練習するメリットとデメリットはどんなところでしょう。
小西 女子だけで練習するときよりも、さらに頭を使ってプレーしている気がします。スクラムも対人で練習でき、ラインアウトでのリフトの練習にも加えてもらえていますし、この環境にはいつも感謝していますが、女子選手と一緒にプレーすることに戸惑いを感じている男子もいるかもしれません。だからこそ、常にポジティブな気持ちで練習に打ち込み、軽々しく弱音を吐かないようにしています。

小西想羅さん
小西想羅さん

津久井 青学ではない女子選手に「いつも男子選手と一緒に練習している」と言うと驚かれます。それだけ私たちは、恵まれた環境でラグビーに打ち込めていると言えます。また、男子は15人制と7人制で選手を分けられますが、競技人口の少ない女子は掛け持ちしなければならない選手が少なくありません。そのため7人制が好き、15人制が得意といった各々の好みに専念することが難しいのですが、大学ラグビー部に所属していることで、私が好きな15人制での練習を通年、それも高いレベルでできるのはうれしいですね。

江渕 ほかの国内女子選手が経験できないような高いレベルの練習が日常的にできるのは、私たちにとって最高に幸せなことです。一方、体の大きな強い男子選手とぶつかるので、常にケガのリスクはありますね。

──日本代表の合宿や試合に加えてラグビー部でのハードな練習、勉学との両立は大変ですか。
津久井 テスト前にはわからないところを教えてもらうなど、同じ学科の友人にはいつも助けられています。

小西 今年は前期授業の期間にニュージーランドにラグビー留学をしました。先生方の理解や友達の協力のおかげで、勉強も頑張ることができています。

江渕 現在はゼミだけですが、授業数の多い1年次の頃は勉強と練習でいつも忙しかったですね。地球社会共生学部では2年次後期に東南アジア留学があり、私はタイのバンコクに留学しました。タイで過ごした半年間は勉強以外にも学び得たものが多く、大きな財産になりました。タイのラグビー選手と一緒に練習したことなども、忘れられない思い出です。

 

W杯日本代表入りに向けて より強く、よりたくましく

──2021年のワールドカップに向け、来年にはアジア予選が始まります。世界で戦うために必要なことは何だと思われますか。
小西 外国人の女子選手との体格差は歴然としているので、体が小さい分、どれだけ一つ一つのプレーを丁寧にできるかということが鍵になると思います。よくコーチから「体は熱く動かしても頭はクールに」と言われます。実際、試合では集中しすぎて視野が狭くなりがちなので、スクラムハーフの津久井さんの後ろからの指示など味方の声をよく聞き、自分のすべきことを丁寧にこなすことを心がけたいと思っています。

ボールキャリーしている小西さん(白と青のユニフォーム)
ボールキャリーしている小西さん(白と青のユニフォーム)
〈写真提供:大学ラグビー部〉

津久井 代表合宿などで取り入れているのは、コンタクトのスキルアップです。2017年のワールドカップに出場するまでは、自分の体力には自信がありました。ところが試合では外国人女子選手のコンタクトの強さが想像以上で、当たり負けしてみるみるうちに体力を奪われたことがショックでした。そこを改善すべく、現在は体づくりも含めたスキルアップを図っています。

フォワードがスクラムから出してくれたボールをバックスに投げている津久井さん
フォワードがスクラムから出してくれたボールをバックスに投げている津久井さん
〈写真提供:大学ラグビー部〉

江渕 今回のワールドカップにおける男子日本代表の活躍を見てつくづく思ったのは、一度の努力はできても継続した努力はとても難しいということです。男子日本代表は、2015年の南アフリカ戦で「ブライトンの奇跡」と呼ばれる劇的な勝利を収めました。その4年後の今回、予選リーグで全勝し、ベスト8に残る快挙を成し遂げることができたのは、ひとえに選手たちが4年間、たゆみない努力を続けていたからです。女子の日本代表も努力を継続することが、未来につながっていくと思っています。

太陽生命ウィメンズセブンシリーズ(7人制)に出場したときの江渕さん
太陽生命ウィメンズセブンシリーズ(7人制)に出場したときの江渕さん
〈写真提供:大学ラグビー部〉

──どんな気持ちでラグビーという競技に向き合われているのでしょう。
江渕 誰かのちょっとしたパワーの源になるようなプレーができたらうれしいし、ラグビーで「元気」を発信できればと思っています。

津久井 小さな頃からラグビーが大好きで、プレーするのが当たり前の生活を送ってきました。今までもこれからも、ラグビーと関わらない人生は想像できません。

ラグビー選手は個性的な人が多いと感じています。その個性を生かせるポジションがあるのが、15人制の強みでもあり魅力でもあると思います。個性を抑えるのではなく、生かし伸ばせるというスポーツは、とても貴重ではないでしょうか。

小西 私はラグビーを通して、自分がここに居られることに感謝しなきゃいけないなという気持ちが強くあります。チームメンバーはもちろんですが、応援してくれる家族や周りの人たちが私の誇りです。

──最後に、ラグビーに興味を持ち、挑戦したいと思っている後輩たちへのメッセージをお願いします。
津久井 ラグビーは観るのも楽しいけれど、プレーするのはもっと面白い競技です。いろいろな人と出会えて世界が広がります。女子は競技人口も少ないので、誰もが日本代表になれる可能性を秘めています。ぜひ挑戦してみてください!

小西 ラグビーのルールはやや複雑なこともあって、「0から1」にするのがすごく大変なスポーツと言われています。一筋縄ではいかないからこそ、ラグビーは面白いのかもしれません。今回のラグビーワールドカップをきっかけに、ラグビーに興味を持ってくれる人がひとりでも増えたらうれしいです。

江渕 日本の女子ラグビーが強くなっていくためには、ボトムアップが不可欠です。だから「頑張ってね」ではなく、「一緒に頑張っていこう」と伝えたいですね。

──皆さんの今後のご活躍も期待しています。本日はありがとうございました。

[Photo:片山よしお]

 

江渕 まことさん

1997年生まれ、福岡県出身。福岡県立福岡高等学校卒業、大学地球社会共生学部4年。高校1年からラグビーを始める。
2017年女子ラグビーワールドカップ日本代表選手として出場。ポジションはプロップ。
2019年11月に行われたヨーロッパ遠征で、女子日本代表として出場。
スコットランド戦でトライを決め、日本の勝利に貢献しました。

津久井 萌さん

2000年生まれ、群馬県出身。東京農業大学第二高等学校卒業、大学文学部史学科2年。5歳からラグビーを始める。
2017年女子ラグビーワールドカップに史上最年少(17歳4カ月)で日本代表選手として出場。ポジションはスクラムハーフ。
2019年11月に行われたヨーロッパ遠征で、女子日本代表として出場。
イタリア戦、スコットランド戦ともにスクラムハーフとしてフル出場しています。

小西 想羅さん

2000 年生まれ、東京都出身。國學院大學栃木高等学校卒業、大学経済学部経済学科2年。5歳からラグビーを始める。
高校3年のとき、7人制で全国初優勝、三冠を達成。ポジションはフランカー、ナンバーエイト。
2019年11月に行われたヨーロッパ遠征で、女子日本代表として出場。
スコットランド戦では、3連続のダウンピックで残り7分からの逆転勝利に導きました。

ラグビーのポジション

「青山学報」270号(2019年12月発行)より転載