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社会貢献活動を多角的に学ぶ青山学院のサービス・ラーニング

本学には、これまでの約150年におよぶ歩みからも、ボランティア活動は当たり前のものとして関わってきている校風があります。そしてボランティア活動とも関わりがあるSDGsについても、本学において既に活動している項目も多く、SDGsの理念は、本学の教育・研究と相携えたものであり、大きく貢献していくことになります。
企業においては、CSR(企業が組織活動を行うにあたって担う社会的責任)の一環として、またSDGsの取り組みとしてのボランティア活動が浸透しています。
このボランティア活動は、主に個人または課外活動として行われてきましたが、青山学院大学では正課としてカリキュラムへの導入を果たしました。授業の単位を取りつつ、ボランティア活動を行うことができる、それがサービス・ラーニングです。
その全学的導入を牽引してきた外岡尚美先生(大学文学部英米文学科教授)と、実際にサービス・ラーニングの授業を受け、卒業後に青年海外協力隊の道に進んだ篠田奈都さんに、サービス・ラーニングについて、また本学における活動そして今後の展望についてお話を伺いました。

(インタビュー 2020年10月24日)

 

最初はサービス・ラーニングとボランティアの違いの理解から

──外岡先生はサービス・ラーニング(以下、SL)検討委員会委員長として、これまで個別にあるいは課外活動として行ってきたボランティア活動・社会貢献活動を、正課としてカリキュラムに導入する検討を取りまとめられました。どのような話し合いが行われたのかお聞かせください。

外岡 まず、学院全体でSLを展開していくためにSL検討委員会が発足しました。主要な検討事項は、大学では社会活動を組み込んだ授業を正式な授業である正課としてどこまでできるのか、ということです。正課ですと、大学で学ぶ学問的専門知識と活動とが連動していなければなりませんし、学生の安全も確保する必要があります。また、活動させていただく地域やNPOなどの団体との安定した信頼関係も不可欠です。半期あるいは年間の授業の枠内で活動に行かせていただくので、必ずしも地域のニーズにぴったり合った時期に活動できるわけではありません。そのため、教育の一環だということをご理解いただき、受け入れ先との十分な信頼関係を作った上で、どのように科目として成立させることができるか、これが検討事項でした。

SL検討委員会の提言を受けてSLパイロットプロジェクトができ、パイロット科目(試験的導入)を作るところまでを、政策・企画課やボランティアセンターの協力もいただきながら数年がかりで進めました。

外岡尚美教授

外岡尚美教授

上智大学文学部英文学科卒業、同大学院文学研究科英米文学専攻博士前期課程修了、ハワイ大学大学院演劇学専攻博士課程修了。Ph.D.(演劇学)。1990年青山学院大学文学部英米文学科専任講師に就任。2016年6月1日、本大学初となる女性副学長に就任(2019年12月まで)。専門分野はアメリカ演劇。

 

──苦労されたことはありますか。

外岡 「SLという概念そのものが腑に落ちない」という声があったことです。ボランティアと正課のSLとしての活動の違いが理解されにくいようでした。しかし、キリスト教理解関連科目の中には、宗教主任の先生方の指導のもとで設置されている『サービス・ラーニング』という科目がすでにありました。また、大学の3、4年のゼミや大学院では、正課の科目で既に地域連携の実践を組み込んだ授業もあり、それらと連動して考えていただくことで、少しずつ理解されていきました。

──SLの定義や、ボランティア活動との違いをお教えください。

外岡 SLは「社会貢献活動」と「学習」を結び付けた教育的取り組みです。一つの科目の中で理論と実践を組み合わせます。ガイダンス、事前学習、ボランティア活動、参加者間での共有、振り返りを主にした事後学習、という流れになります。

SLで非常に重要になるのが事前学習と事後学習です。事前学習をした上で受け入れ先に伺い、活動することで発見したことを振り返り、それが自分の学びにどう活かせるか、あるいは自分が今後何をし、何を学ばなければいけないのかという大学での学びの先鋭化を図ります。準備する、活動する、考える、そしてまた準備するというサイクルの中で、学問的にも人間的にも成長し、最終的には進んで人と社会に仕えるサーバント・リーダーとなることを目標にするのがSLです。

一方、必要なときに必要とされている場所に行き活動し、現地のニーズに応えるといった自発性に基づくのがボランティアです。活動は一度きりでもよく、「できるときにする」のが基本です。

SLの現地での活動は必ずしもニーズがあるときばかりではありません。何度か通わせていただくことによって、学生が社会との関わりを考えていくための土台を作ります。SLとボランティアでは目的が異なりますが、どちらも大切なものです。

──SLの授業について教えてください。

外岡 SL科目は、青山スタンダードの科目として、全学部・全学科の2年生以上の学生が履修できます。現在、「サービス・ラーニングⅠ・Ⅱ」(青山・相模原)、「サービス・ラーニングとしてのボランティア活動」(青山)が開講されています。昨年度のパイロット科目は主にNPO・NGOに関することを専門に学ぶものだったので、様々な市民活動団体に受け入れ先としてご協力いただき実施しました。

今年度はコロナ禍という状況のため、リモートでゲスト講師の話を聞いたり、ネット上で調査を行ったりといった学びが中心となり、学外での活動はかなり限定された形で実施されています。また受け入れ先での実習の代わりに、オンラインでインタビューを実施し、社会課題について学んでいます。

年間授業計画(例)
年間授業計画(例)

 

──本学の歴史的な精神風土をも表す特色ある授業ですので全員履修が望ましいように思えますね。

外岡 受け入れてくださる団体あっての科目のため、なかなか全員は難しいですね。一度に何人もの学生を受け入れられる団体も、そう多くはありません。大学側と受け入れ先、相互の関係を構築するには、全員履修は現実的とは言えないでしょう。当面は限られた受け入れ先との信頼関係を大切に育てていきつつ、学生が「SLの科目を履修して良かった」と思えるような科目にしていくことが大切だと思います。

──SLにおけるボランティアセンターの役割を教えてください。

外岡 本学の学生や教職員のボランティア活動を支援するために開設されたボランティアセンターは、SLにおいても極めて大きな役割を果たしています。その最たるものが地域や団体とのコーディネートで、事前の打ち合わせなど大変な時間と労力のかかる部分を担ってくれています。また、学生が活動先に赴く前に、コーディネーターに相談したり、助言を求めたりすることもあります。ボランティアセンターなしにSLの科目は実施不可能と言ってもいいほど、とても大事な存在です。

 

SLを経験して定まった青年海外協力隊という進路

──篠田さんがSLの授業を履修したきっかけを教えてください。

篠田 就職活動が始まった3年生の3月、私は「将来は国際協力の道に進みたいものの具体的にどうすればいいのかわからない」という状態でした。そこでゼミの高橋良輔先生に相談したところ、SLの授業について教えていただきました。「NGOの活動を学ぶいい機会になる」と勧めてくださり、4月から受講しました。発展途上国に興味を持ったのは、小学生のときに観たテレビ番組がきっかけです。大学では授業やマレーシア留学、そしてボランティアサークルでの活動などを通じて、途上国についての知識を深めていくことができました。

篠田奈都さん

篠田奈都さん

2020年3月青山学院大学地球社会共生学部卒業。青年海外協力隊2020年度2次隊(新型コロナウイルスの影響により活動停止中)。2020年8月までNGOでインターンシップ、アフリカ女性の活動支援に携わる、その後、広報を学ぶため、出版社にて勤務。

 

──SLの授業では、国際協力NGO「地球市民ACTかながわ(TPAK)」で活動されたそうですね。どのような授業でしたか。

篠田 まず座学でSLについて学び、次に受け入れ先団体について学びました。その後、実際にTPAKに行って活動し、最後に3、4人のグループで自分たちの活動を振り返り、かつ受け入れ先の評価や社会的役割まで考えました。「ボランティアをして終わり」ではないのが、SLならではだと感じました。

私が行かせていただいたNPOは「国際協力に興味のある人を育てたい」というスタッフの方の熱意が伝わってきました。質問するといつも丁寧に答えてくださいました。定年退職してボランティア活動をしている方も常に数名いらしたのですが、皆さんとても博識で、話題も外交問題から環境問題まで多岐にわたっていました。私も会話に参加したかったのですが、知識不足でなかなか加われなかったのは反省点です。

授業の様子
授業の様子(2019年度)

 

──履修後、ご自身が変わったと思われたことや、新たにできた目標などはありましたか。

篠田 ボランティアに対する考え方そのものが変わりました。そのきっかけとなったのは、TPAKで寄付された文房具を送るための仕分け作業をしているとき、スタッフの方から「使えない文房具は捨てていい」と言われたことでした。「途上国の人だから使い古しや汚れたものでもいいという考えで不用品を送って来る人もいるけれど、それは違う」という言葉は、強烈に心に残りました。それまでの私は、途上国の人は困っているから何かしてあげることに意味があると思っていたのですが、そうではなく、まず相手が何を求めているかを考えなければいけないのだと気付かされました。そして継続的な支援のためには「ボランティアをしてあげる側、してもらう側」ではなく「対等な関係」で、一緒に一つのゴールに向かって進むことが大切なのだと学びました。

インドのDV問題についても話を聞いて考えさせられました。いくら言葉で「暴力はいけない」と伝えても、文化や慣習の違う相手には響きません。スタッフの方は、女性の地位・立場を向上させることがDV防止につながる、そのために女性の学ぶ機会や働く機会を提供する必要があると話してくれました。「暴力がダメという当たり前のことがどうして通じないのだろう」ではなく、自分と他人の「当たり前」は違うことを前提に置いて解決方法を考えることが必要なのだと思うようになりました。

篠田奈都さん
NGOでの活動の様子
〈左〉老人ホームの方が編んだタワシを途上国へ届けるための仕分け作業
〈右〉タイランドフェスティバル湘南2019での販売のお手伝い

 

──SLの授業を履修したことで進路が明確になったのですね。

篠田 SLを履修したことで、漠然としていた国際協力への道が「青年海外協力隊の一員として海外に行きたい」という明確な目標になり、青年海外協力隊員になることができました。とはいえコロナ禍の現在、赴任先として決定しているセネガルにはまだ行くことができていませんが、晴れて現地で活動できる日が来たら、自分の「当たり前」を相手に押し付けず、共に考え、自分と異なる意見も聞き、受け入れたうえで共に最善の方法を探していけるような人間になりたいと思っています。

──篠田さんの実体験のお話からも、SLの成果がうかがえます。

外岡 お話を聞いて、とてもうれしく思います。実際に授業に出席し、自分のものにしてくれたのだと感じられて感動しました。しっかりした教育のプログラムを一歩踏み出せたという思いがします。

──SLではどのような達成基準を設けられましたか。

外岡 成績評価はプレゼンやレポートで行いました。成長部分については、「サーバント・リーダー育成指標」を作成しました。これはサーバント・リーダーに必要なものは何かをリスト化し、各段階において何ができていれば良いのか、もう一つ上の段階だとここまでできるなどといったことを明示した指標です。また、学生はSLでの活動を振り返るだけでなく、受け入れ先で学んだことをクラスメートと共有し、お互いを評価し合います。つまり指標には、他者の目から見てどうだったかというプロセスも含まれるわけです。学んだことから気付きを促すという事後学習のプロセスの中で、学生が自分に足りなかった部分や成長できたことなどを確認できるような指標になったと思います。

学んだことを言語化することは、学生にとって大切なことです。指標をベースにしながらクラスの中で話し、活動先からもコメントをいただき、自分が行ったこと、学んだことを言語化します。それは学生にとって「こんなことができるようになった」という自信にもつながり、社会に出ていく前段階として自らを知ることにもつながります。

篠田 私は指標によって「傾聴はよくできたけれど発言力は不足」ということがわかりました。発信力不足は自分の課題だったので、それを再確認できたことは良かったです。

 

未来のサーバント・リーダーを輩出する土壌となるように

──篠田さんの今後の抱負を教えてください。

篠田 まずは協力隊に参加したいです。当初の予定より遅れましたが、来年には研修が始まる予定です。国際協力では、途上国に暮らす女性の環境改善、地位向上などを彼女たちと一緒に目指していきたいと思っています。マザー・テレサは、ご自身はカトリックですが、ケアする相手の方の宗教を尊重したと聞きます。私も相手の立場に立って考えられる柔軟な思考力をいっそう培っていきたいです。

──後輩たちへのメッセージをお願いします。

篠田 SLの活動先では普段あまり接点を持たない人生の大先輩と出会うことができ、話をする機会に恵まれます。特にNGOなどに関心がない人でも、積極的に履修してみるといい経験が得られると思います。

国際協力や社会貢献に興味がある人には、SLを強くお勧めします。ボランティア活動を行っている場合は、SLとボランティアの違いを、身をもって経験できる貴重な機会となるはずです。

──SLの今後の展望をお聞かせください。

外岡 今後は青山スタンダードにおいて、いくつかのSLが青山と相模原キャンパスの両方で履修できるようになることが望ましいと考えています。2年次にSLを経験し、その経験が3、4年次の専門科目での社会連携を含む授業において、学生自身の問題意識をより研ぎ澄まされたものにし、そして専門科目での教育がより学生に身に付くものとなる土台になればいいと思います。

──早速、篠田さんが、未来のサーバント・リーダーとして巣立ちましたね。

外岡 篠田さんのお話を聞いていて、授業は人生の中のわずかな期間ですが、そこでの様々な体験や出会いがきっと今後の篠田さんの活動に生きてくるのだと感じてうれしく思いました。必ずしも篠田さんのように協力隊で活動するわけではなく、一般企業に就職する学生でも、授業の経験が自分と社会の接点を考え、働く中で社会を変えるためにどんなことができるかを考える土台となってくれればと思っています。

人に仕えながら自ら考え行動を起こせる、そして気が付けばリーダーシップを発揮できているような人になってもらえたらうれしいですね。今後は社会と連携した大変面白い授業を実施されている先生方とも情報を共有し、学院全体でSLが盛り上がっていくことを願っています。

青山学院のサービス・ラーニング

 

SL検討委員会委員の方からのコメント

秋元 みどり さん 大学ボランティアセンター助手、SL検討委員会委員

「ボランティアなど市民活動に参加するためには特別なスキルがないといけませんか」という問い合わせや、「リーダーシップを発揮しないといけない」と思っている方もいます。実際のボランティア活動は特別なスキルがなくても誰もが参加できるものであり、決してハードルの高いものではありません。尻込みせずにぜひ参加してみてください。

 

中尾 匠吾 さん 大学学生生活部、SL検討委員会委員、SLパイロットプロジェクトメンバー

SLの実施に当たり、私は学院の中での調整役を務めました。SLは地域といかに、そして持続的に関わっていけるかという部分において、職員やコーディネーターの働きが大きなウエイトを占めています。SLは青山学院全体で取り組む授業であり、まさに「オール青山」という言葉を使うにふさわしい授業だと思います。

秋元さんと中尾さん
ポートランド州立大学で本学のSLの取り組みを紹介した時の中尾さん(左)と秋元さん(右)〈2018年〉

 

「青山学報」274号(2020年12月発行)より転載