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青山学院とSDGs 地球の未来を 創造する教育

2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標であるSDGs。人類が共生し地球の未来を守るために関わるべき、普遍的な目標です。青山学院では本学の理念に基づき、SDGsの達成に向け多くの活動を進めています。

今回は山本与志春院長と阪本浩大学学長に本学の教育方針とSDGsに共通する理念や、各学校における現在の活動、そして今後の展望を語っていただきました。

 

Sdgs17の目標
Sustainable Development Goals(17の目標)

 

青山学院教育方針とSDGsの共通点

──SDGs という国際目標の意義や設定された17の目標について、どのようにお考えでしょうか。
山本 2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)は、飢餓や貧困の撲滅など発展途上国を対象とした目標が多く、15年間である程度成果を上げたと言われています。一方、SDGsは先進国も含むすべての人が関わる取り組みですので、「全ての人の幸せを実現するための目標」と言えます。

17色が一つの円をかたどっているSDGsのロゴには、17の目標はすべてつながっているという意味が込められています。つまり、すべてをクリアしなければ「全ての人の幸せ」は実現できないということです。また、MDGsは国が主体でしたが、SDGsは企業も積極的に関わっている点が特徴だと思います。

──本学の教育の歴史的観点からもSDGsの精神に共通する部分は多くあるようですね。
山本 青山学院の教育方針である「愛と奉仕の精神をもってすべての人と社会とに対する責任を進んで果たす人間の形成」は、SDGsの17の目標と軌を一にしています。責任を進んで果たす人、それはSDGsの実現を自分事として関わっていく人でもあります。AOYAMA VISIONの「すべての人と社会のために未来を拓くサーバント・リーダーを育成する総合学園」もこの教育方針から生まれていますし、スクール・モットーの「地の塩、世の光」も同じ精神です。つまり、私たちはSDGsという言葉が誕生する前からSDGsに取り組む人たちを育てているのです。

世界各地で開催されるグローバル・ゴールズ・ウィークに合わせ、各学校の礼拝でSDGsに関連するテーマで説教していただいたり、講演会やセミナー、渋谷区や相模原市などの地域や企業、校友との関連イベントを開催し、気運を盛り上げることも可能ではないかと思います。

山本与志春院長
山本与志春 青山学院院長

 

──多くの大学でもSDGsに取り組んでいますが、本学で取り組む意義はどこにあるのでしょうか。
阪本 大学ではSDGsについて、本学の理念に基づき「『地の塩、世の光』としての教育研究共同体」として教育、研究、社会貢献を推進しています。17の目標については、すでにさまざまな科目や研究で意識せずに行われてきました。今後はさらに、サステナビリティ(持続可能性)をこれまでの研究テーマの中に位置付けるという意識の転換が必要でしょう。高校までにSDGsを当たり前に身につけた若者たちが進学してくる際に、さらにはコロナ後の留学生を受け入れるにあたっても、受け皿としての大学のSDGs教育の強化は必然と思われます。そして学生たちが卒業した後、大学で学び実践したSDGsを実社会や教育の中で活かしてくれたら、そこに意義があると言えるのではないでしょうか。

 

SDGsを取り込んだ青学ならではのアクション

──大学で行っている取り組みを教えてください。
阪本 本学では20年近く前から「次に取り組むものはサステナビリティがテーマになる」と話題にしてきました。その具体的な表れが、2015年に開設した地球社会共生学部です。まさにSDGsと関わりが深い学びと直結している学部で、地球社会のさまざまな課題に挑戦し、世界の人々と協働できる人を養成することを目指しています。2019年に開設したコミュニティ人間科学部も、地域活動を推進したり、地域を活性化したりすることができる人を育てることを目標にしていますので、〝SDGsを推進する学部〟とも言えます。また、法学部に人権に焦点を当てた学科の開設も計画中です。

阪本浩学長
阪本浩 大学学長

 

大学院国際マネジメント研究科(青山ビジネススクール:ABS)は、2020年度にMBA課程のアクション・ラーニング新科目として「SDGsコミュニティ・マーケティング」を開講しました。この授業では企業、団体、地域、行政などとの連携や交流を一層深め、社会の価値創造・伝達・提供(マーケティング)を進化させていきます。受講生は、SDGs社会活動の本質を理解し、自分事として活動を構想し、さまざまな関係者をコーディネートする能力を獲得することができます。

また、国際政治経済学部公認の学生団体「SANDS」は飢餓ゼロ(Zero Hunger 1016)キャンペーンを実施しています。

そして、ボランティアセンターでは現在、シビックエンゲージメントセンターの設立を目指しています。これはボランティアセンターとサービス・ラーニングを融合させたもので、いずれ正科に成長させていければと思っています。昨年9月にはNPOとの共催で、SDGs達成のための工夫や課題について学ぶ「国際協力プランナー入門」が開催されました。

──外部機構との連携はいかがでしょうか。
阪本 2020年10月に日本赤十字社とボランティア・パートナーシップ協定を締結しました。国際社会における人道的課題に取り組むボランティアの育成をより充実させていきます。余談ですが、国際赤十字の創設は奇しくも本学と同じく約150年前ということで、当時の時代の精神を感じます。創設者アンリ・デュナンは若い頃カルヴァン派の熱心な信者だったそうで、本学の精神とも通じるものがあるのかもしれません。

自治体や企業との連携は今後も積極的に進めていきたいと考えています。社会情報学部は相模原市、株式会社ノジマと連携し、環境をテーマにしたプログラミングコンテスト「さがみはらエコ・プロちゃれんじ」を開催しました。産官学が連携し、環境をテーマとしたプログラミングコンテストを実施するのは全国で初めてのことでした。

その他、SDGsに関連する研究を支援するために、本学が独自に創設したSDGs関連研究補助制度の拡充や、寄附講座での関連科目の開設、また内外向け広報にも力を入れていく予定です。

 

──大学以外でも学院ではさまざまな取り組みが行われています。
山本 幼稚園は幼いころからの教育が大切だと考え、貧困、飢餓、保健、教育、ジェンダー、エネルギー、平和などの問題に関し、保育のカリキュラムの中に意識的に取り入れています。例えば、物語の中の役割自体に男女の刷り込みがなされていることが多いのですが、劇の配役を決めるときなどは男女の区別をつけず、演じたい役の希望をとっています。

初等部は今年度から、5・6年生の総合活動の一つに「SDGsプロジェクト」を作ったほか、各教科においてもすでにSDGsに関連した取り組みが行われています。グローバル教育としては、最近The American School in Japanの高校生との関わりが始まりました。

中等部は年間を通して各教科で取り組んでいます。今年度は3年生の選択授業「社会E(ソーシャルイノベーション入門)」で、9月の2日間、大和証券グループ本社と朝日新聞社から講師を招いて「SDGs債」について学びました。11月にはパラスポーツ「ボッチャ」の大会を行い、SDGsのボードゲームを全員で体験しました。

高等部では自主的活動や海外プログラム、ボランティア活動、SGH、LogBookなどを通してSDGsと関わっています。家庭科でエシカルファッション(地球環境や労働者の人権に配慮したファッション)を学ぶほか、制服では女子生徒にズボンを導入しました。また色覚に配慮したUD(ユニバーサルデザイン)フォントやUDチョークを採用しています。教員のためのLGBT研修会なども行い、セクシャルマイノリティへの理解・配慮を促しています。

女子短期大学は歴史的にジェンダーとの関わりが深く、開講している科目のかなりの数がジェンダーに関わる授業です。「共生社会実習D」の授業では、アジアの現実を体験するツアーを通して「共に生きる」ことを学んでいます。なお、総合文化研究所内のジェンダー研究所は大学に移管され、2021年度からはスクーンメーカー記念ジェンダー研究センターとして活動を継続します。女子短期大学が長く大切に実践してきたジェンダー教育は未来にもつながっていきます。

──学院としての取り組みを教えてください。
山本 ハード面の取り組みとしては、2003年5月に開学した相模原キャンパスが2005年度の「サステナブル建築賞(住宅賞)」国土交通大臣賞を受賞しています。キャンパス内の各建物などの省エネを評価されての受賞でした。同年度には青山・相模原両キャンパスに「省エネルギー推進委員会」を設置し、以来、組織的に「エネルギーの浪費をなくす運動」に取り組んでいます。直近で建築が始まる新図書館棟も省エネを考慮した建物となります。しかし、サステナブルと一言で言っても簡単なことではありません。ランニングコストを抑えるためには、初期費用が必要になります。エネルギーと食糧問題に関しては大きな変革が必要です。そこに新たな創造が生まれ、希望へとつながっていきます。

差別やジェンダー、平和などに関する事柄は、礼拝やボランティア活動で関連する事柄としてよく語られます。学生や生徒たちを見ていると、「ほかの人のために自分の力を使おう」という奉仕の精神は、学院で過ごす中で自然と深められ、日頃より在校生たちのその自主性を見守り、指導する先生方には感謝の念に堪えません。

小さなことですが、給食を残さず食べられるようにパンでお皿をきれいにしたり、食べきれなくて残してしまうなら最初から盛り付けを控えめにして余った分をほかの子が食べられるようにするなど、幼少期からの意識付けもとても重要です。

 

平和を作る人を育てる

──SDGsとの関わりについて今後の展望や、持続可能な世界となるために青山学院で学ぶ者たちに期待することをお聞かせください。
阪本 本学の教育はキリスト教信仰に基づいていますが、SDGsの根底にもキリスト教の思想があるように感じています。それは、ローマ教皇フランシスコが『回勅 ラウダート・シ』で述べていることがSDGsとほとんど同じだからです。回勅には「ともに暮らす家を大切に」とあり、この家は地球を指しています。また、「神様から与えられたものは大切にしていかなければならないし、すべてのことは関わり合っている」「誰もが神様の子どもで、誰にでも尊厳がある」とも言っています。

本学はプロテスタント系ですが、キリスト教の長い伝統を踏まえて、これからの持続可能な発展の基礎付けができたら、本学の大きな貢献になるのではと思います。

 

山本 私もSDGsはキリスト教の精神が基盤にあると思います。また、キリスト教では「愛と奉仕の精神」「見えない働き」が大切にされています。人前で目立つスタンドプレーをするのではなく、隠れた善行を大事にしていると感じることが多くあります。

しかし、すべての人と社会のために進んで責任を果たすためには、「サーバント」「地の塩」の働きだけでは十分とは言えません。同時に「リーダー」「世の光」としての働きも求められているのです。「ともし火をともして升の下に置く者はいない。燭台の上に置く。そうすれば、家の中のものすべてを照らすのである」ともありますよね。「自分の持っている光は人と比べたら小さな光だ」というのは謙遜しているようでいて、実は「神様から与えられたものはつまらないものです」と言っているのと同じで、傲慢な姿だとも言えるのです。「いただいた光は小さなものかもしれないけれど、ありがたく素晴らしいものだから捧げます」と進み出ていくことが必要です。青山学院で学ぶ人たちは、協調性を持って行動したり、多様性を受け入れる能力は優れていると感じています。今後はぜひその能力を活かし、リーダーシップをとる働きにも期待しています。

世界を変革していくときに、多くの人にとって自分ができることはほんのわずかだと思います。しかし、微力であっても無力ではありません。自分ができることを担い、みんなが支えあって活動していくという姿勢が大切なのだろうと思っています。

阪本 院長が言われたことに尽きますね。各大学におけるSDGsへの取り組みは、手段や手法は違ってもその目指すところや精神はみな同じです。それを踏まえたうえで、学生の皆さんには本学でSDGsを学ぶ意味を考えてほしいですし、そして「自分たちはこの大学だからこれに取り組んだ」と胸を張って社会に出て行ってもらえたらと思います。
山本 「すべての存在が大切、すべての命を大切にしましょう」というのがキリスト教の愛の精神です。SDGsも「大切な命なのだから共に生きていける社会を作っていきましょう」ということです。青山学院では、誰もが分け隔てなく幸せになれる世界を作る人、平和を作る人を育てたい、そう思っています。

 

山本 与志春 院長

1957年生まれ、埼玉県出身。
1980年駒澤大学文学部国文学科卒業。
埼玉県川口市立領家中学校教諭を経て1990年青山学院中等部教諭に就任、2006年中等部部長(~2014年)。2013年キリスト教放送局日本FEBC 理事。2014年青山学院常務理事。
2018年7月、青山学院第15 代院長に就任。同年11月、文部科学大臣表彰受賞(私立中学校高等学校教育振興功労者表彰)。

 

阪本 浩 大学学長

1954年生まれ、宮城県出身。
1978年青山学院大学文学部史学科卒業。1982年東北大学大学院文学研究科西洋史学専攻博士課程退学。文学修士。
1985年青山学院大学文学部史学科専任講師に就任、1999年教授。2016年文学部長、大学院文学研究科長、2017年大学副学長を歴任。2019年12月、大学学長に就任。

 

「青山学報」275号(2021年3月発行)より転載