初等部の給食で未利用魚の活用を始めました
2023/03/24
初等部では、「フードロスをなくそう」というSDGsの取り組みを開始しました。株式会社ベンナーズ(所在地:福岡県福岡市)の協力のもと、給食で「未利用魚」を活用していきます。
初回となる3月7日に「オオニベ」を使った「魚の山椒揚げ」が供されると聞き、取材に行きました。
※上のイラストは、木本さん(6年)が描いたオオニベ
一般社団法人大日本水産会のウェブサイトによると、
とのことでした。
FAO(国際連合食糧農業機関)の2020年の報告書によると、世界の全漁獲量の約30~35%が廃棄されているそうです。
日本では「廃棄」することは少なく、飼料や肥料になることがほとんどであると、一般社団法人大日本水産会のウェブサイトに書かれていました。
また、東京大学の食料安全保障問題を考えるとある学生チームは、未利用魚を「経済的な理由・未利用魚の特性から,市場価値が0に等しい魚のこと」と解釈して、未利用魚問題の解決への取り組みを提言しています。
今回の取り組みの橋渡しをしてくださったのは、読売新聞東京本社の松尾大輝さん。未利用魚を提供してくれる株式会社ベンナーズさんと、青山学院初等部を結び付けてくださったのです。
その松尾さんと一緒に、最初の未利用魚が供される給食の取材のため、初等部の食堂を訪れました。
未利用魚を供する中心となっているのが給食室です。秦京子給食主任にその経緯などを聞いてみました。
〈秦給食主任の話〉
今日が初めての未利用魚を使った給食になりますが、オオニベ(大鮸。スズキ目ニベ科ニベ属)という魚を使います。
オオニベは、西日本ではなじみがある魚で、宮崎県などでは養殖もされています。淡白でいろいろな味付けができる魚です。
ベンナーズさんによると、揚げ物やムニエル、ソテーに向いている魚だということで、1週間前に試作をして、子どもたちが食べやすいように、今回は揚げ物にしてみました。山椒揚げは、普段から供しているので子どもたちも慣れていて、山椒の風味が加わって食べやすいと思い、献立を決めました。
あるウェブサイトによるとオオニベは、
と書かれていました。
数日前のビデオ礼拝の後にSDGsプロジェクトの児童が、未利用魚の紹介をし、献立表にも未利用魚の説明文を入れて、ご家庭にもお知らせしたそうです。
秦先生が試食用にと、私たち二人に揚げたてのオオニベを用意してくれました。
子どもたちが食べる前に食べてもいいのだろうか?
良心の呵責もなんのその。ドキドキしながら口に運ぶと、先ず山椒の香りがふわーっと口から鼻に広がり、ふっくらした触感の身が、衣の塩味とあいまって、とてもおいしい!
「揚げたてだから、さらにおいしいですよね」と秦先生。
「給食とは思えないおいしさです」と松尾さんは目を丸くして感想を述べられました。
秦先生へのインタビュー後、先に各教室の様子を見に行きました。
ちょうど配膳が始まっていて、子どもたちが並んでいるところでした。
黒板には、SDGsプロジェクトの児童が描いたオオニベの紹介イラストなどが貼られていました。
食前に「今日は未利用魚を使った揚げ物をいただきます。フードロスの解決につながるよう、このような取り組みが世界に広がりますよう願っています」と児童が神さまにお祈りを捧げました。
6年生の教室では、未利用魚についての解説動画を見ながら、黙食で給食をいただいていました。
食堂に戻ると、食事が始まっていて、3年生杏組と桜組の代表児童による未利用魚の調査レポートの発表が行われていました。前日の社会科の授業で未利用魚を取り上げたそうです。初等部では、行事前の事前学習を徹底しています。
私と松尾さんも用意された席に座り、二人の児童が緊張しながらも献立の紹介や給仕をしてくれました。
こちらも背筋を伸ばして児童の説明に聞き入り、感謝を述べた後、早速給食をいただきました。
今日のメニューは、オオニベの山椒揚げのほかに、沖縄の郷土料理「人参しりしり」が添えられ、ごはんにけんちん汁、そして文旦(ぶんたん)。文旦は、高知県でSDGsの取り組みをしている農家から直接仕入れており、無農薬で育てられているそうです。
本日2回目のオオニベの山椒揚げ! やはりおいしい!
人参しりしりには鰹節がふられ、けんちん汁は、野菜のうまみが伝わってくる、無添加のすっきりした味。文旦は、自然の力強さを感じる。
どれもとてもおいしいくいただきました。
食堂給食では、従来は2学年8クラスが集まり、一つの大きなテーブルに8名の児童と先生がつき、食事をいただいていたのですが、このコロナ禍になってからは、1学年2クラスのみ。1テーブルに児童がはす向かいに2名が座り、静かに食事をしていました。
「おいしいねえ」といった会話ができない。
異学年間の交流もなかなかできない。
接触の機会を減らすため、おかわりもできないそうです。
この状況が2年以上も続いています。
しかし子どもたちは、その状況を受け入れ、自分なりの過ごし方を身につけています。
ひるがえって大人にとって黙食というものが、いかに辛いものかを肌で実感したときでもありました。
松尾さんと「おいしいですねえ」といった会話ができない(アイコンタクトで語り合いました)。
コミュニケーションをとる時間でもあると考える大人にとっては、二人で席についていても一人で食べているようなもので、大変居心地が悪く感じました。
早く、かつての活気のある楽しい給食の風景が戻ってくることを願わずにはいられませんでした。
食後に3年生の児童に、今日の給食の感想を聞いてみました。
「普通の魚と変わらなくてすごくおいしかったです。また食べたいです」
「ほっぺが落ちそうになるくらいおいしかったです」
子どもたちにも好評だったようです。
秦先生によると、生産者の方々に声を届けることで励みになればと、児童の感想文を送っているそうで、今回のオオニベや文旦も、生産者の皆様へ子どもたちの感謝の気持ちが伝わることでしょう。
一方で課題もあったようです。
オオニベは、前日に段ボール箱で届き、真空パックされていたものを解凍。その真空パック170袋を開ける作業に少し時間がかかったため、一つの真空パックに何尾入れるかなど、細かい点で調整を行っていくそうです。
今後、毎月1回か2回、未利用魚を使った給食が提供される予定とのことで、また来年度には、ベンナーズの井口剛志社長による出張授業が計画されているそうです。その出張授業の時、また取材をしたいと思います。
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