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忘れ物問題をプログラミングで解決せよ~まとめ【プロプロ☆プログラミング~初等部プログラミング教室を追え~episode 5】

プロプロ☆プログラミングへようこそ

2021年度から本格的に始まった青山学院初等部のプログラミング教育。
2年間のプログラミング授業を経て大きく成長した青山学院初等部生達は、
2023年最終学年6年生となり、ついに集大成とも言うべき課題に取り組んだ。
(前回のお話はこちらからご覧ください)
2023年12月、6年桜組の発表会後に井村裕先生と、授業を見学された大学教育人間科学部教育学科教授・杉本卓先生、杉本先生の学生、院生に話を聞いた。

杉本先生は今まで何度も初等部の授業を見守ってきた。
また、杉本先生のゼミ生の何人かは授業のアシスタントとして活躍している

 

授業を見学して、印象的だったのは……

──先ほどの授業(発表)を見学されていかがでしたか? ご感想をお願いします

学生Aさん 大学生の頃、4人チームで、1か月ちょっとかけて、Scratchを使った課題をこなしたことがあるのですが、最初の1~2回は全く分かりませんでした。今日、初等部生達の発表を見て、小学6年生がたった2回の授業で、プログラムを作るだけでなく、発表資料まで作ったことに驚きました。今までの積み重ねの成果があったのだなと感じました

発表前の準備。画面にはプログラムが映し出されている

 

学生Bさん 2時間でこのクオリティはすごいと思いました。また全体を通して言えることは、“問題をどうすればなくすことができるのか”“どう解決するのか”をきちんと考えていたところです。楽しくすれば問題がなくなるなど、解決する方法も工夫して考えていました

課題の与え方について

院生Cさん 今回、忘れ物をなくすためのアプリを作るというのは、井村先生からのご提案だったのでしょうか? 率直な質問ですが、児童達が自分の生活の中で、問題を見つけて解決するということにしなかったのは何故なのでしょうか?
井村先生 実は、自ら問題を見つけて解決させるというのが最終目標でした。しかしこの3年間、授業を進めていくなかで、「日常の中の問題を見つける」という部分が難しいと判断して、今回は、日常で起こりやすい“忘れ物をなくす”というテーマを与える形に変更しました。本来は段階を追って、自分達で問題を見つけて解決するということを、プログラミングの授業の中で行いたかったのですが……
杉本先生 小学生がプログラミングをどの程度できるか分からない中では、自由度がありすぎると、かえって考えられなくなるため、ある程度制約を与えることは必要です。枠の中で考えさせるようにする方がいい。とは言え、その制約もあまりにガチガチにすると、自由に考えられなくなってしまう。その兼ね合いが難しいですね。この辺りは、とにかくやってみないことには分からない
井村先生 そうですね。4年生で初めてプログラミングの授業を行った時は、ゲームを作らせました。4年生には簡単にできるゲームを、“小学1年生でも楽しめるようにするにはどうしたらいいか?”をテーマにして、ある意味ガチガチの制約の中でプログラムを作らせました
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「小学1年生でも楽しめるゲーム」をテーマに、2つのゲームのどちらかを選び改造する課題に取り組んだ(4年生当時)

 

井村先生 5年生に進学した時には、ある程度自由度を持たせたゲーム作りに取り組ませました。“2人でも楽しく遊べるようにすること”。交代で遊んでもいいし、とにかく2人で楽しく遊べる、がテーマでした
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画面を2分割し、2人で遊べるように工夫している(5年生当時)

 

井村先生 6年生になった今年度、与えたのは“忘れ物をなくす”ということだけです。それ以外の時間割の表示やリスト表、チェック表などは児童が自らアイデアを出しました。今日ご見学された桜組以外のクラスの中には、『忘れ物をなくす方法は既に限られているから、アプリを使ってもらう方策に力を入れた』というところもありました。
子ども達に課題を与える際、制約と自由度の兼ね合いはとても難しい問題です。クラスによって個性もありますし、多少調整が必要でもあります
杉本先生 プログラミングの授業が通常の教科の授業と大きく違うのは、教科書もなければガチガチのカリキュラムもないところです。とにかく課題を見つけ、解決策を模索する、目標を達成させられるようにする、それがプログラミングの授業の良さです。できた作品が思うようなものでなくても、その過程が大切なのです。決して完璧なプログラムを作ることが目的ではないわけですし、「こういうものも作れるのか」と考えられることが大切です
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忘れ物をしなければ、新たなキャラクターがもらえる仕組みを考えた班も

 

井村先生 Scratchを使って、物事を便利にできる、情報を整理できる、日常生活や仕事に使えるのだと気づいてもらえたらいいですね。プログラミングを使えば、あるいはこういう方法を取れば楽になるとか、手作業でなくてもいいのだ、自動化できるのだ、などと子ども達が気がつけるようにしたいと思っています。コツを知っているか知らないかで、かかる時間や効率も変わってきますので。子ども達にはこれからも、そのコツを教えてあげたいと思います

 

座談会を終えて

杉本先生 みんなは、日常生活の中でScratchを使ってみたことある?
学生Aさん はい、あります。サークルで使用するコワーキングスペースに誰がいるか分かるwebアプリを作ったことがあります
杉本先生 自分で作れると楽しいでしょ?
学生Aさん 確かにそうですね

 

学生Aさんは笑って頷いた。
プログラムが上手く機能した時の初等部生達の顔もそうだった。
なかなか思い通りにいかないと頭を悩ませながらも、プログラムや資料を作り上げた時の顔は実に嬉しそうで、そして誇らしげだった。
日常生活にある「あったらいいな」「こうだったらいいな」「この問題はどうしたらいいのかな」を児童達が自ら発見し、
プログラムを使って、あるいは他の方法を使って解決策を生み出す日も近い。
最後に井村先生が
「ここでの学びや経験が中学、高校、大学での学びにきっとつながります」
と晴れやかに言った。(了)