忘れ物問題をプログラミングで解決せよ~その①【プロプロ☆プログラミング~初等部プログラミング教室を追え~episode 5】
2023/12/19
2021年度から本格的に始まった青山学院初等部のプログラミング教育。
2年間のプログラミング授業を経て大きく成長した青山学院初等部生達は、
2023年最終学年6年生となり、ついに集大成とも言うべき課題に取り組むこととなった。
2023年、10月——
「忘れ物をなくす」
というテーマを基に10月~12月にかけて授業が行われると聞きつけ、
6年桜組の教室へと向かった。
6年生の教室までの階段や廊下の色は、深海を思わせる青——
その中にある桜組の教室は、空高く昇った太陽からの光もあって、
ことのほか明るく感じる。
10月半ばとは思えない暑さだが、
教室を見守るように植わっている校舎の木々がそよぎ、
秋らしい涼やかな風が、窓から廊下に向けて優しく吹き抜ける。
そんな気持ちのいい空気の中、児童一人ひとりの机にはタブレット端末が置かれ、
みな慣れた手つきでログインし始めている。
授業が始まると、黒板の前に立つ井村裕先生が口を開いた。
「これから12月にかけて、忘れ物を減らすアプリを作りたいと思う」
アプリを作る?!(ダウンロードして使うのではなく?)
授業で、それも小学校の授業でアプリを作るというのに驚くが、
児童達は特段驚く様子はない。
井村先生が再び口を開いた。
「アプリを作るためにまず、具体的な忘れ物について考えてみよう。今日は、①どんな時にどんな忘れ物をするか、②どうしたら忘れ物をなくせるか、その解決策を考えるよ。班に分かれて、PowerPointで資料を作ってね。それを使って、忘れ物と解決策を発表してもらいます。その後で8班のうち共感できるものを2つ選んでもらうからね。それじゃあ、班に分かれて」
資料作りから発表、投票まで、40分でこれだけの内容ができるのだろうか?
そう思ったのもつかの間、
児童達は、早くも近くの席の子同士、膝を突き合わせ話し始めた。
「具体的にどんなものを忘れる?」
「例えば、宿題とか?」
「他は?」
よくある話し合いの光景だが、タブレットを見せ合っているのが新鮮だ。
しかも、
「ちょっと勝手に変えないで」
「今、ここの字を消したの誰?」
班ごとにPowerPointの画面を共同編集している。
大人顔負けの会議風景だ。
しかし、
「神頼みする!」
「日々の行いを良くするっていうのは?」
といった、忘れ物をなくすための解決策が可愛らしい。
15分経過すると、井村先生がクラス全体を見回した。
「そろそろ一回手を止めて。各班1分くらいで発表してもらうよ。みんな他の班の発表を聞きながら「この忘れ物分かる」「この忘れ物は困るよね」というのを覚えておいてね。後で2つ選んでもらうからね。それでは1班からお願いします」
先生に促され、1班が前に出てきた。電子黒板にタッチし、自分達の資料を表示させる。
「私達が考えたのは、特別な持ち物を把握していない時に忘れ物をしてしまうということです。具体的には急に帰りの会で言われたことを忘れてしまうなどです。解決策としては、忘れ物をしない人と仲良くすることなどです」
解決策のところで少し笑いが起こった。
1班の発表が終わると、すぐに2班の児童達が前に出、終わると3班の児童達が前に出る。サクサクッと発表が進んでいく。みな前に出るのにもたつくこともなければ、人前での発表を嫌がることもない。
円滑な発表を見守っていると、前の方に座っていた1人の児童が、発表が終わるたびに、電子黒板上に表示されている資料を閉じ、次の班の資料を出す手伝いをしている。
先生の「ありがとう○○くん」という言葉で気がついたが、
自分の班の発表のためではなく、特別な係というわけでもないらしい。
電子機器に強い児童が他の班へのサポートをしているのだ。
自主的な行動が流れるように自然だ。
また、ある班が発表前に、自分達が作った資料が電子黒板上から消えてしまうというアクシデントに見舞われた。彼らは驚きつつも、1番前に座っている席の子に助けを求めている。先生に聞くのではなく、近くの児童に聞く姿がいかにも、プログラミングの授業らしい。
友達からアドバイスを受けたおかげか、その後資料を電子黒板上に表示させることができ、無事に発表を終えていた。
どの班の発表も「連絡帳に書いていない特別な持ち物」や「特別な授業の持ち物」「急に変更された持ち物」など、忘れ物の特徴として「急に」や「特別な」というワードが頻出し、普段から色々な物を忘れるというより、イレギュラーな物を忘れやすいということが共通しているようだ。
しかしながら、その解決策はまちまちで「時間割を朝夕確認する」「きちんと書いておく」といった正攻法から、「ゲーム形式で確認」「ロボット型アプリ」といった独創的な物や、「先生と仲良くする」「運次第、ここまできたらしょうがない」といったコミカルなものまで多彩だ。
全ての発表が終わると、井村先生が教室の後方から声をかけた。
「今の発表を聞いて、共感できるもの2つ投票して」
電子黒板上に集計結果が表示される。
「このクラスは連絡帳や、特別な持ち物という話が多かったね。つまり連絡帳には書かれておらず、帰りの会で言われたことを書き忘れたなど、特別な忘れ物が多い。解決策としては記録するとか、誰かに教えてもらうというのが多かった」
教卓の前に出てきた井村先生が黒板に「記録する」「教えて欲しい」と書きながら、
・共感できる忘れ物1
☞特別な持ち物
・共感できる忘れ物2
☞帰りの会で急に言われて、連絡帳に書き忘れたもの
・対策は?
☞誰かに教えて欲しい。記録して欲しい
「記録するのと教えるのって機械が得意なことだと思わない?記録して教えてくれるアプリ。次回は、基になるアプリをみんなが実際の忘れ物と解決策に照らし合わせて見て欲しい。こんな機能があったらいいね、とかこんな機能が欲しいよね、というアイデアを出してもらいます。もちろん技術的にできるかできないかは無視して、アイデアだけでいいからね。それでは今日の授業を終わります」
あっという間の40分だった。
アプリを作るための話し合いが終わり、次回はいよいよ理想のアプリ作りのためのアイデア出しが始まる。果たして12月のアプリ発表会までに理想のアプリができるのか。