Story ストーリー

雪山に学校を移して始業式を 青山学院初等部「雪の学校」

毎年2月の初めころに、長野県黒姫で実施している青山学院初等部の「雪の学校」。3年生~6年生の全児童、約500名が参加し、4泊5日で行われます。2020年の今年、48回目を迎える伝統行事です。
どのような目的で、どのような活動が行われているのか、動画を交えてご紹介いたします。

 

90秒動画「雪の学校を見る」

動画撮影:佐々木淳 初等部教頭、編集:アオガクプラス編集部

 

歴史

「学校を雪山に移して、3学期の始業式をしては」。1971年1月、当時の初等部部長、伊藤朗先生が新年の所感の中で発したこの言葉からはじまった。
これを実現してしまうところが、当時の先生方のすごいところ。翌年に候補地の視察・選定が行われ、1973年1月に実現する。
「教育がただ教えることだけでなく、子どもたちにより多くのチャンスを与え、動機づけをすることであれば、学校だけが教育の場ではない」という発想のもと、青山キャンパス以外のもう一つの学校と位置づけ、行事の目標、活動内容等を定めた。

青山学院初等部雪の学校
かつての“最後の夜のセレモニー”の様子

 

 

行事の目標

当初の大きな目標は次の三つ。
1.子どもたちに多くのチャンスを与え、都会の学校では求められない経験をさせたい
2.雪山の美しさ、厳しさの中で心身を鍛えながら、冬の大自然との出会いをもとめよう(スキーはより深く自然に入るための道具として捉える)
3.縦割りのグループを作り、上級生・下級生の交わりと親しみを深めよう

 

場所

初回からずっと「ラボランドくろひめ」で実施。
ラボランドくろひめは、長野県の黒姫山麓の10万㎡の広さをもつ森林にかこまれたロッジ形式の宿泊施設。森林の中に大小26のロッジが点在。
青山キャンパスから、バス12台に分乗しての大移動。かつては、鉄道にて青山学院初等部専用列車で移動していたこともある。

青山学院初等部雪の学校

 

安全のために

ドクター

現地では、ドクターと看護師が常駐(多くの場合、保護者の方が応募してくださる)。

アシスタントリーダー

大学生のアシスタントリーダーが子どもたちの補佐をする。かつて初等部生だった大学生が多いのが特徴。

児童

事前の学習で雪に対する知識を身につける。ミーティングを頻繁に行い、注意点をさらい、そして仲間意識を深めていく。食堂給食では、行事が近づいてくると雪の学校のパーティーごとの編成になる。上級生は下級生の面倒をみる役割が与えられる。

集団単位
 ・パーティー…1ロッジで寝食を共にする縦割りの約20名の児童で編成。
        24個のパーティーが作られる。
        アシスタントリーダーの大学生が2名ずつ入る。
 ・ブロック …3パーティーで編成 8個のブロックが作られる。

 このブロックごとに活動が行われる。
 学年ごとの活動もある。

先生

先生方の苦労は並大抵ではない。それを苦労と思わないのが青学初等部の先生だ。
「洋上小学校」や「海の生活」、「山の生活」なども、子どもの安全を考え、熟慮を重ねた準備が行われているが、体の動きがままならなくなる雪の中での共同生活に対して、複数回の実地踏査、教員間・アシスタントリーダー間の周到な打ち合わせを重ねる。実施期間中は天候や自然の様子で臨機応変に対応し、休む間も無く、早朝からの準備、事故の無いよう活動に付き添い、毎晩パーティーを見回り児童の体調を注視している。

 

活動内容

4年ごとに、活動内容は見直され、新しい企画が取り込まれていく“実験学校”。
【主な活動内容】例)2015年度の活動より
 3・4年生 … “雪を知り、雪で遊ぶ”
         スキー、歩くスキー、雪遊びが中心
 5・6年生 … “雪に親しみ、雪を活用する”
         雪用の道具を使い、冒険する
 
地元の小学校との交流、黒姫の産業や暮らしについて学ぶフィールドワーク、雪上運動会、スノーキャンプ、野外調理、スノーシューでの登山、体力の限界に挑戦する「ガリガリ鉄人レース」など、年によって様々な活動が行われる。

2年生が参加した年もある。

青山学院初等部雪の学校
袴岳登山

 

青山学院初等部雪の学校
イグルー(雪や氷でできた家)作り

 

青山学院初等部雪の学校
打ち刃物作りの名工を訪問

 

青山学院初等部雪の学校
料理が入った“食缶”をロッジまで運ぶのは一苦労

 

青山学院初等部雪の学校
時には吹雪の中で

 

 

クロージングセレモニー

青山学院初等部雪の学校

最終日の前日の夜に行われる礼拝形式の閉会式。
雪像作り担当の子どもたちが作ったセレモニーの舞台にくり抜かれた穴の中にろうそくの火が灯り、神さまや自然に感謝し、それぞれの雪の学校での経験を振り返る時をもつ。
礼拝後には花火が打ち上げられる。
6年生にとっては、初等部生活最後の宿泊行事となり、感慨もひとしお。

青山学院初等部雪の学校

記念バッジ

クロージングセレモニーの直前に子どもたちに配られるのが「参加記念バッジ」。児童からデザインを募り、その中から1点、その年度のバッジのデザインが決まる。例年300点以上の作品がエントリーされる。

※「青山学報」271号(2020年3月中旬発行予定)にて、参加記念バッジについてご紹介いたします。

青山学院初等部雪の学校
第41回から47回までの参加記念バッジ

 

結びに

子どもたちは、時に失敗し、それを糧に成功を収めていく。それまでできなかったことができるようになっていく。他者と寝食を共にする生活の中で、不自由さを知る一方、他者との協力の方法、共生の方法を身をもって知っていく。それらの経験に裏打ちされた実績を積み重ねることで、自己肯定感を蓄積し、親の愛情ゆえの過保護という名の手からすり抜け、成長していく。親からすれば寂しい限りだが、子どもたちは、周りの友人や上級生・下級生、大人たち、支えてくれる家族、そして自然や神さまからの恩恵を感じながら、それらへの感謝の念をもって、大人へと成長していく。そんな機会を与えてくれるのが、青山学院初等部の宿泊行事なのだ、と感じた。その子どもの成長を促す機会を作るために青学初等部の先生たちは苦労を厭わず、この伝統を守り、進化させ、繋げている。
時代が変わり、いかにITなどの科学技術が進歩しようとも、人間が成長するために、昭和、平成、令和、そして次の時代へと受け継がれていく大切な伝統なのだ。

今年も、2月3日(月)~7日(金)まで、48回目となる雪の学校が開校します。

 

参考文献
『信仰の盾にまもられて』青山学院初等部五十年のあゆみ 1987年 青山学院初等部
「青山学報」190号『雪の学校 ―総合的な学習に関する検証―』飛田浩昭 1999.12
「青山学報」228号『今も成長する「雪の学校」』古川武治 2009.6
「青山学報」256号『第10期「雪の学校」活動報告』喜多正裕ほか 2016.6

 

青山学院初等部雪の学校