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裏庭の想い出~青山学院幼稚園裏庭 最後の1日によせて

2023年4月24日月曜日──幼稚園裏庭最後の日

青山学院幼稚園では現在、園舎の建て替え工事がすすめられています。2024年9月には新しい園舎での保育がスタートし、翌2025年春には現園舎の跡地に自然がいっぱいの園庭が完成する予定です。
青山学院創立150周年の記念事業でもあるこの新園舎の建築計画にあたり、幼稚園教諭が中心となって、どんな幼稚園舎をつくっていくのかというイメージを、長い時間をかけて思案してきました。そうして新園舎建築事業の基本となる考え方が決まりました。「神さまの守りの中で遊びが生まれる園舎~光・風・木のぬくもりを感じて~」。このコンセプトに基づいて設計された新幼稚園をいま皆が心待ちにしています。

その一方で、これまで62年にわたって園児たちを見守ってきた現園舎に別れを告げるときも同時にやってきます。
園舎建て替えの工事がいよいよ始まるという日を前に、ひと足早く子どもたちが慣れ親しんだ裏庭が閉鎖されることとなりました。そして裏庭最後のこの日、年中組と年長組の子どもたちが裏庭に集まって最後の礼拝を行いました。

幼稚園主事の石橋エリ先生が園児たちに、この庭で長い間たくさんの子どもたちが過ごしてきたこと、神さまがお守りくださっていたことをお話ししてくださいました。

裏庭の木の上に住む鳥さんたちに「もうすぐなくなるからお引越ししてね」とみんなで教えてあげました

代表の園児がお祈りを捧げました

最後に迫田敏幸先生のアコーディオンの伴奏でみんなで讃美歌を歌いました

礼拝が終わると、子どもたちは裏庭での最後のときを思い思いに過ごしました。駆けまわったり、ダンゴムシを探したり、お砂場で真剣に砂と向かい合ったり。いつもどおりの裏庭の風景がそこにはありました。

ダンゴムシを発見して色めきたつ子どもたち

捕まえた元気なダンゴムシたちを誇らしげにみせてくれました

青山学院幼稚園の保育にとって庭というのは、とても重要な“場”のひとつ。園庭での自然の植物や生き物とのふれあいや、泥だらけになって夢中で遊んだ経験は、子どもたちの成長にとってなくてはならない大切なものなのです。
1961年の幼稚園創立からこの最後の日に至るまで、長年子どもたちの自由な遊びの場であった裏庭の想い出の風景を、保育者の庭に対する思いとともにご紹介します。
 

幼稚園の砂場と園庭

幼稚園教諭 迫田 敏幸──「青山学報」2022年冬号より抜粋

学院の東門を入ったすぐ左側にある幼稚園。坂を少し上がったところから見える園庭は「裏庭」と呼んでいます。園舎を挟んで反対側には「表庭」があり「裏庭」の三倍程度の広さがあります。この表庭と裏庭を合わせて、幼稚園の園庭なのです。園庭の表面は土で覆われており、表庭にも裏庭にも砂場が一つずつ設置されています。砂場でも園庭でも、子どもたちは好きなところで砂や土、水、泥に触れ、親しみながら遊びを展開しています。

裏庭

表庭

私自身この幼稚園の卒園生であり、この園庭の魅力を実感して育った者でもあります。当時私はこの園庭、砂場で遊ぶことが大好きで、母に聞くと全身泥だらけになり1日に3回着替えをしたことも多くあったそうです。そのような私が保育者としてこの場に戻ってきて、当時も今も思うことがあります。それは砂や土、泥は、自分(遊び手)の思いを存分に受け止めてくれる存在(素材)である、ということです。自分が力を加えた分だけ形を変えていく可塑性(かそせい)という性質がありますが、子どもたちはこの可塑性のある素材に出会い、その感触の心地良さに触れ、思い思いに手を加えながら変化していく不思議さと面白さを感じていくのです。

泥の冷たさと、太陽の光の温かさを全身で感じます

裏庭での川づくり
砂場でも園庭でも、「掘って水を流す」という遊びを好んで楽しむ子どもたちです。初めはシンプルにその行為を楽しんでいきますが、次第に「もうひとつ穴を掘ろう」「水を流してふたつを繋げてみよう」となることがあります。やろうとしていることがうまくいかなければ「なんでだろう?」「わかった! こうしてみよう!」と考え、実践してみる経験を、遊びの中で積み重ねていきます。

DちゃんとEちゃんが裏庭の土を真剣な眼差しで掘り起こしています。私は近づき様子を見てみることにしました。すると小さな溝を掘り進めているのです。聞くと「川を作っている」とのこと。しかし「ここ(上流)から向こう(下流)に水を流したいのだけれど、それがうまくいかない」と二人は言うのです。裏庭は坂道部分と平坦部分がありますが、実は平坦部分にもわずかに傾斜があるのです。二人が上流に見立てた場所はその傾斜の下側だったわけです。何度か水を流すけれど一向に流れていかない。ここで二人はこれまでの経験をもとに考えます。「ここ(上流)に土を持ってきてもっと高くしたら良いんじゃない?」と、二人は仮説を立ててやってみることにしました。しかし初めは高さが足りなくて水は流れていきません。何度か繰り返すうちに上流側の土が固まっていき、最後には水が流れるようになったのです。わずか一メートルほどの川ではありますが、自分たちの仮説をもとに試行錯誤しながら開通させた二人の姿でした。

DちゃんとEちゃん。試行錯誤のすえ、水を流すことに成功!

足や手のみならず全身で砂、土、水、泥に触れることで感じる温度や感触、力を加えた分だけ形を変えていく不思議さと面白さ。子どもたちは繰り返し遊ぶ中でそれらを体感していくのです。この土台となる経験を重ねることで次第に「もっとこうしてみたい」「こうしたらどうなるのだろう?」「どうしてこうならないのだろう?」と自分の内側から欲求や疑問が引き出されて、自分なりに工夫したり試したりしていくようになるのです。自分なりの追求があり、時に友だちとの協力が生まれたりすることもあります。砂、土、水、泥の魅力は、その人自身が実際に足や手、全身を使って身を任せながら遊ぶことを通してこそ感じることができるのです。

 

自然の不思議に囲まれて

幼稚園教諭 西脇 京子──「青山学報」2022年冬号より抜粋

青山学院幼稚園は都会にありながらも園庭にはたくさんの自然があります。子どもたちは日々幼稚園の自然と出会います。庭の樹木から季節の移ろいを感じ、収穫の喜びを経験する一方で、子どもたちは園庭の虫も身近な自然物として親しんでいます。

ダンゴムシ
幼稚園で圧倒的に人気のある虫がダンゴムシです(厳密にはダンゴムシは甲殻類なので虫ではありませんが)。保育者が「こんなところにダンゴムシがいる!」と見つけると、あっという間に周りにいる子どもたちが集まって、地面や花壇の葉っぱをひっくりかえしては「ここにもいた!」「これは白い点々があるからメスだね」「ダンゴムシは足が速いんだよ」などと教えてくれます。登園時に、お母さまと別れ難くて、保育室に向かうことができず涙目の子どもも、そんな声を聞いて、すっと入ってくることがよくあるのです。どんなに優しい声や笑顔で保育者が「一緒に行きましょう」と誘ってもお母さまにしがみついて離れないでいても、この小さなダンゴムシの魔法にかかると、ふと気持ちが切り替えられるのです。本当に不思議なことです。

ダンゴムシ捜索中。みんな真剣そのものです

収穫
裏庭には、柿・ブドウ・ミカン・ユズ・グレープフルーツなどの果樹があり、実りの季節になると収穫することができます。お店に並ぶ果物とは違って、年間を通してその成長を子どもと一緒に見守っていきます。
裏庭ではたくさんの果物や木の実が収穫されます

6月に入る頃にはすでに、ブドウや柿の小さな実ができています。この時期は柿の実が大きくなるために自然淘汰されて小さな実は落ちてしまいます。小さくても柿の形をした実が落ちていると、子どもたちは拾い集め、大事そうに箱に入れたり、鞄に入れて持ち帰ったりします。秋になり、柿やブドウの色が変化してくると「もう食べられる?」と熟すのを楽しみに待つ子どもたちです。今年の秋は、裏庭の柿を幼稚園で食べました。収穫したばかりの柿をみんなで食べると、笑顔が溢れました。自然が変化してゆく様子を、季節を通して身近に感じられるのは、豊かな経験となることでしょう。

裏庭での収穫感謝礼拝の様子(2022年10月)

子どもたちに様々な遊びの場を提供してくれた「裏庭」が、2023年新園舎建築のため閉鎖されます。虫採りや鬼ごっこ、果実や紅葉した葉っぱの収穫、三角遊具での楽しい思い出などを心に刻みながら、新しい園庭に希望を抱き、そこが引き続き子どもたちと自然の関わりが身近であるような庭になることを願っています。