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5年生授業編②インタビュー【プロプロ☆プログラミング~初等部プログラミング教室を追え~episode 3】

プログラミング教育第二章

2021年度から本格的に始まった青山学院初等部のプログラミング教育。
2022年度——いよいよその2年目が始まった。
今回は5年梅組の授業見学後、大学教育人間科学部教育学科教授・杉本卓先生と初等部教諭・井村裕先生にお話を伺った。(5年梅組の授業の様子はこちら

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大学教育人間科学部教育学科教授・杉本卓先生

 

授業を見学して、印象的だったのは……

──杉本先生、先ほどの授業終了後、アシスタントの学生が先生に挨拶されていましたね

杉本先生 実は私のゼミ生なんです。教員を目指す学生など教育に関心を持って学んでいる学生が、教育実習や学校ボランティア以外で、初等部の授業の補佐が出来る。この仕組みを上手く確立してくださったのが井村先生です。学生達はアルバイトが出来、その上、勉強にもなる。こうして初等部と大学が良い部分で結びつくのは、総合学園ならではと言えるのではないでしょうか

──まさにwin-winの関係ですね。さて、プログラミング教育について話し合うのは以前の”あおやますぴりっと“(青山学報264号の取材)の時以来ですね。初等部では実際にスキル学習が始まりましたが、まずは授業をご見学されて、いかがでしたか

杉本先生 青山学院初等部では、プログラミングが必修化される前から準備を進めており、4年くらい前はドローンを使ったプログラミング体験という、“実物をコントロールすることでプログラミングを学ぶもの”でした。それが、今は“画面上でのプログラミング学習”です。当然抽象度が上がり、その分ハードルも高くなっています
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ドローンを使った授業

 

 

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画面上でのプログラミング

 

杉本先生 しかし今日、初等部の授業を見学した限り、私達が考えるほど、初等部生達は「抽象的で難しそう」とは思っていないようでした。ゲームを自分で作るということが、ある意味において具体的なのでしょう。
授業についていくのがいっぱいいっぱいで大変そうだな、という児童はごくごくわずかだったように見えました。分からない児童達も周りにヘルプを求めたり、なんとか自分で答えを出そうとしたり、それぞれの状況に合わせて解決しようとしていました。また、周りの児童達は積極的に教えてあげようとしている。そんな姿がよく見られたのが印象的でした
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杉本先生 これは単に先生が教えて出来るようになるのとは、ずいぶん違います。具体的なものを作る、自分で作る作業やその過程を学ぶということが関係していると思います。
だから分かった時や出来た時に、「あーなるほど!」「気持ちいい」「本当だ」と声を上げている児童もおり、通常の教科の授業ではなかなか見られない光景でした
井村先生 子ども達の中では意識されていないことですが、今日の授業で算数の授業につながる考え方がありました。今は、あくまでゲーム感覚でしかない。でもその後の算数の授業で、点と点がつながるように「あー、あの授業でやったことだ」と気づく子も出てきます

──すごいですね! 授業中でも目標とするところを超えて出来てしまう児童達がいる。そういう児童達はみんな積極的に教えてあげていましたね

井村先生 昨年、この授業を始めた時、「出来る人は困っている人に教えてあげてね、ただしプログラムを作ってあげてはダメだよ」と教えました。出来る子も教えることで、説明する力がつきますし、出来ない子も友達からの説明を聞いて分かれば、そこから理解力が上がっていきます
杉本先生 後ろの席の友達に説明を聞こうとして、その児童が説明する前に「あっ、分かった」と言っている児童がいましたね。分からない児童も、どこが分からないのかを発することで、自分で気がつくことがある。
インターラクション(相互作用)では、単に教えてもらうのではなくて、分からない状態だというのを外に出すこと、あるいは対話者がいることで、自分で気づくことがあるのです。児童同士が対話したり、教え合ったりするのはとても大事だと感じました
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井村先生 私に質問してくる子には「どこが分からないのか」と聞くようにしています。そうすると友達に聞く時も「ここが今、分からない」と質問するようになる。とにかく、どこで行き詰まっているのか、どこを困っているのかを、言えるようになることが大切です。一度自分の中で整理することで、質問された子も教えやすくなりますし、杉本先生がおっしゃられていたように、自己解決するかもしれない。こういう点を学ぶのは、他の教科では難しいところかもしれません
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杉本先生 分からない児童は、どこが分からないのか「考える」。あるいは、どうやって周りから助けてもらおうか「考える」。出来る児童は分からない児童へどう教えようか「考える」。この授業で児童達は皆よく頭を使っていました。あそこまで集中して、考え、取り組むというのは、なかなかすごいことだなと感じます

井村先生 ええ。集中して頭をよく使っています。それでいて皆、楽しんでいますよ

ブロック型とコード型から見える、ツールの大切さ

杉本先生 ところで、教え合っている児童達を見て面白かったのが、教えている児童は女の子が圧倒的に多かったことです
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杉本先生 一昔前までプログラミングと言うと男性が強いと言われがちでしたが、今日このクラスでは女の子達の方が積極的で、ちゃっちゃとこなしていました。どちらかというと男の子達はプログラムを理解して、きちっとこなしていくというのではなく、プログラムをいじって変えてしまう傾向にあるようです。
クラスには様々な児童がいる。いろいろな特性が混じり合って作ったり、分かったりしていくというのがまた良いですね
井村先生 女の子の方が得意だという傾向は、このScratchを使ったプログラミング、いわゆるブロックプログラミングだからかもしれません。コードを打つとなると、女の子の方が食わず嫌いの傾向があります。ブロックプログラミングはどちらかと言うと国語の世界。そのため、女の子の方がちゃちゃちゃちゃっと出来てしまうようです
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杉本先生 プログラミングは、日常でも使う論理を明確化したり、抽象化したりして思考力を洗練させていくものです。ただ同じ論理でも、コードを書くのか、ブロック型なのか、ツールによって少しずつ形が違います。食わず嫌いや拒否反応が起きないよう、どこの段階で何を使うのかというのは結構重要となる。やはりツールって大事ですね

英語を使ったプログラミング

杉本先生 初等部では英語でプログラミングを組んでいましたね。そこはどうして英語に?

井村先生 理由は高校に進学したら英語でコードを書かなくてはいけなくなるからです。そこに繋げるという意味であえて英語で行っています。民間のプログラミングスクールでは日本語でプログラムを組むところもありますが、青山学院初等部では1年生から英語も学んでますし、高校に行ったら、自分で英語に直さないといけない、一からやり直さないといけない。そうなるくらいなら、最初から英語でスタートした方がいいと考えたからです

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画面上のコマンドは全て英語で表示

 

杉本先生 確かに。この先、自分でコードを書くとなると、英語で書くのが普通でしょうね。元々のプログラミング言語自体、英語をベースに出来ているので、逆に日本語にすると不自然になることもある。そう考えると、青山学院初等部の子ども達は英語を普段から学んでいますので、日本語で行う必然性はないし、メリットの方が多いですね

プログラミングを見た学生たちの反応は?

杉本先生 大学の授業中、学生たちの面白い反応があります。
Scratchの原型は半世紀近く前には出来ていました。LOGO(ロゴ)というプログラミング言語で、Scratchと同じくMITで作られたものです。
大学の教職の授業で「80~90年代の日本の学校でLOGOを導入していたところもある」と言って実践レポート等を見せつつ、LOGOを紹介します。「プログラミングって新しいと思っているだろうけど、40年も50年も前にあったんだよ」とか「本質的には変わっていなんだよ」と言いつつ見せます
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LOGOに見られるコード形式のプログラミング(イメージ)

 

杉本先生 LOGOは、ブロック型ではないので、「前に進む」と言う場合、forward 100とか、「右に90度曲がる」だとright 90とか入れなくてはいけない。それを見た学生はみんなひいてしまいます。
でも使っている英単語はたかが知れているし、実は基本的なコマンドの数も両手プラスαくらいしかないのですが……

井村先生 そうですね。今日のプログラミングで使用した英単語も20種類くらいだと思います。ブロックの数も、さほど使っていないはずです

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杉本先生 普段使うのはその程度なので、恐れる必要はないのです。しかし学生に画面上のプログラミング言語を見せると、英語では数語しかないのに「えっ、難しそう」とか「小学生には無理じゃないですか」と言い出します。その後に、ブロック型のプログラミングを見せると「これだったら出来そう」と変わってくる(笑)。
最初からブロック型を見せると、「えっ、こんなにブロックがあるの」と戸惑うので、初めは、一見すると難しめでとっつきにくそうなLOGOを出す。「これがルーツで今はこういう風な形になっているんだよ」とブロック型プログラミングを見せると、大学生も少しは親しんでくれます

──上手いですね、杉本先生。我々大人が抵抗のあるものを、今の子ども達は抵抗なく受け入れている。これからは、世代間における考え方など、違いが出てくるのではないでしょうか

杉本先生 出てくる可能性はありますね。
先ほどのアシスタントの学生もそうですが、自分達が小学生の時に習わなかったことを、教員になったら教えなくてはならない。そういう意味で今の学生達は大変な面もあると言えるかもしれません
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杉本先生 とは言え、コンピュータやプログラミングが山のように溢れている時代です。
例えば、スマホだって、若い頃や子どもの頃になかったとはいえ、今現在30~50代の人も平気でスマホを使いこなしている。だから、ある程度大人になってからでも出来るものです。初等部では井村先生が中心となって「プログラミング教育」を行っていますが、恐らく他の先生方も少しずつ出来るようになってくると思います。だから世の中、そんなに身構えない方がいいのでは、と思います

──日常で使っている論理を形にしたものであるので、プログラミングは我々大人も使えるのかもしれないですね

杉本先生 プログラミングには色々な使い道があると思います。今日の授業のようにゲームを作るというのだけではなく、日常的なものを色々とコントロールすることができる。プログラムを知り、自分で少しいじれるだけで、楽になったり、快適になったりすることがたくさんある

井村先生 プログラミングは4・5・6年生で授業をしていますが、今の5年生と6年生は同じ内容を学習しています。今の6年生が4年生だった時に、プログラミングについてのビデオを見せました。「プログラミング的思考ってこういうことだよ」とか「プログラミングってゲーム作りやソフト作りだけではなく、生活の中で、こんなことにも役立つんだよ」ということが分かるビデオです。それが今に繋がり、andやorの概念を教える授業では、ストンと頭に入るようです。5年生はビデオを見せていた回数が今の6年生に比べて若干少ないのですが、それでもビデオで触れていたので、腑に落ちてくれる。でも今の4年生は全くそれをしていないので、これからどうなっていくか、実は興味深いところがあります

杉本先生 目的が見えてくると、きっと面白いでしょうね。今、ニュースで、半導体が入ってこないということが話題になっています。半導体が足りないことで、コンピュータがなかなか入手できない。ここまではつながりやすい。しかしエアコンや冷蔵庫、洗濯機も入手困難になる。そこまで結びつくと良いですね。これは現在の家電類には、半導体が使われていて、全部コンピュータが関わっていて、制御しているからです。「こういう条件があって、こういう動きをしている」のだと、身の回りのことと結びついてくると、コンピュータのプログラミングも、特別なことではなくなってくると思います

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──将来教師を目指す大学生の授業でもプログラミングの知識や技能の習得は必須になっているのでしょうか

杉本先生 必須と言えば、必須なのですが、微妙な問題でもあります。実はあまり時間をかけて教えられる状態ではないからです。
「教育方法」に関する授業(本学では「情報通信技術の活用と教育方法(初等)」)が1科目2単位で、小学校の教職課程を取る学生には必修となっています。その中で「ICT」についても扱います
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杉本先生 その他、私の担当している教育学科の科目の中では、情報通信技術についてもきちんと扱うべきということで、視聴覚教育メディア論や教育情報学総論といった科目で、コンピュータについて扱う時間を増やしました。その中でプログラミングのことも扱いますが、何時間も取れるわけではない。少し触れる程度となっているのが現状です。
あとは各教科の中でも、ICTの活用を扱わなくてはいけないので、教科の指導法の中で行いますが、それもやはり少し触れる程度です。デジタル教科書や電子黒板については、ある程度時間を割きますが、プログラミングまでは、時間がなかなか足りずに少し触れるくらいになってしまう。教師になるために必要なプログラミングを学ぶ授業は特にないのが実情です

──そうなると、授業補佐のアルバイトは勉強になりますね

井村先生 そうですね。初等部では、「小学校のプログラミング的思考」の目標を超えた授業を行っています。中学生でもいいくらいのレベルまで進んでいます。高校だと、これをコードで書くのですが、そこまでには至っていません。
中学生のレベルなのですが、実は中学ではプログラミングは技術家庭科の中にはいってしまうので、恐らくここまで深くは扱えないでしょう。
本学の初等部生達はある意味このまま高校に上がっても困らない。文科省が言っている、情報教育の流れの中のプログラミングという意味では、このまま高校にはいれてしまうレベルです

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──すごいですね。中学でプログラミングの授業がないのがもったいないくらいですね

井村先生 難しいんですよ。技術家庭だから、木工も教えなければいけないし、その中でコンピュータもコンピュータスキルも扱わなければいけないので

杉本先生 小学校から高校までのカリキュラムをどうするのかという話と、ツールとしてどう使っていくかというのを、両方考えなくてはいけないですね。
情報の授業としては、高校の情報、そして中学の技術家庭科の中でわずかに、というのが現状です。文科省も「各教科の中でも(扱いなさい)」と、「考えるツールとして」使いなさいと言っているのですが、どう使うか、どう体系立てて教えていくかは、それぞれの学校に委ねられている部分です。本学のような総合学園では、縦の連携をきちんと取りながら、どう教育を行っていくかというのが、これからの課題と言えます
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杉本先生 初等部でせっかくこれだけ勉強しても、中等部では技術家庭科のなかで少ししかコンピュータを扱わないことにしてしまったら、有効に積み上がっていかない。技術家庭科以外の教科の中で、データ処理やセンサー制御など、様々な場面で色々なことができます、ただ、中等部、高等部共に、外部からの入学者が約半数おり、内部進学者と外部進学者への教育について、一貫校としてどう行っていくか、その仕組みをいかに作るかということが、なかなか難しい課題です
井村先生 初等部の中の動きで面白いのは、プログラミングの授業が始まったことで、先生方が、他の教科を教える際にそのプログラミングの知識やスキルを利用するようになったことです。
例えば、算数で、「直角を4つ合わせると、長方形が出来る」「面積を求められる」「内角と外角の差」などは、プログラミングを使うとイメージ出来るようになります。
このように、他の授業でプログラミングを使って学ぼうとすると、プログラミングの使い方を知らないと出来ないことですので、その点は私が授業でしっかり押さえます。すると他の先生方は、「これくらいは出来るよね。それじゃあ、こっちの問題を解いてみよう」と発展した授業が出来るようになっています
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井村先生 そしてもうひとつ、
中等部では、安藤昇先生がマインクラフトを使った選択授業を行っていらっしゃいますが、全く同じことを今日から、初等部の田中翔先生が理科で始めました。
今日も子ども達が「マイクラ」「マイクラ」と言っていて(笑)
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マインクラフト(イメージ)

 

 

井村先生 今までは私がScratchでプログラミングを教えてきましたが、今、子ども達は本当にワクワクしていますよ
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──プログラミングの面白さを伝えるための工夫は何かありますか

井村先生 やはりゲームというのが大きいですよね。子ども達の中でゲームは、すごく身近なものなので。初等部1・2・3年生は、ドローンなど実物を使って授業をしているのですが、4年生になると、いきなりScratchを学ぶ。当初、画面上だけで子ども達が理解できるか、すごく心配でした。でも、子ども達はゲームだからむしろ理解しやすいというのは意外でした。ゲームは二次元の中の遠い存在ではなく、AR、VRではないですが、自分の目の前で起こっていること、感覚的に自分がその空間にいるのと変わらない状況になっているのだと思います。大人だと違和感のあることでも、子ども達には当たり前のことなんですよね
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2021年度オリジナルゲーム発表会でのひとコマ。ゲームのデモではみんなが興奮した

 

──大人と子どもの感覚の違いはどこからきているのでしょうか

井村先生 たぶん生まれてきた時の環境の差ではないでしょうか。身近に様々なデジタルデバイスがあって、そういう空間の中に物心ついた時からいるから、違和感がない。スマホもそうでしょうし、ゲームもそうでしょう
杉本先生 確かにそうですね。スマホは2歳、3歳くらいでもかなり触れている子が少なくないですね
井村先生 今は遊ぶツールがいわゆるゲームですよね。だからゲームが当たり前なんですね。私達の世代ですと、遊ぶと言えば“外”。あるタイミングから家庭用ゲーム機が出現し、ゲームに触れるという感じでした。ところが今の子ども達は生まれた時から、ゲームが当たり前に存在していて、兄弟がいれば、お兄ちゃんとかお姉ちゃんは常にゲームで遊んでいる。「遊ぼうか」となると、外ではなくて、ゲームで遊ぶという状況です
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杉本先生 昔、幼い子どもが、テレビを見ていて、テレビの中に人がいるのではないかと思って、テレビの裏に回って確かめるということがありました。ある時期から中に人がいるのではないと理解する。
でも今の子ども達は、例えばTVとタブレットを見てその違いが分かっているし、YouTubeで動画を観て、次を選んでいく。自分の世界と親和性が高いのでしょう。
それは今の大人も同じで、昔は地図を見て運転したり、道を覚えて運転したりしていましたが、今はカーナビを見ながら運転する。そうすると不思議と空間感覚が違ってきます。世界とつながる感覚も違ってくる。大人でそうなのですから、子どもにとってはもっとすごい影響があると思います
井村先生 そうですね。だから初等部では現実の体験も大切にしています。今はちょうど初等部6年生が洋上小学校に行っています(※インタビュー時、2022年5月31日)が、そういう体験を通じて学んでもらいたいと願っています。空間把握能力という部分については、子ども達は気にしていませんが、つながっているものです
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6年生の洋上小学校。
宿泊行事は1年生から行われ、6年間の宿泊行事を通して、自身の力だけでなく、どんな時も他者と協力して生活していく「生きる力」も身につけていく

 

杉本先生 最近、内閣府が発表したムーンショット目標についてや、何かと話題に上るメタバースやVRの世界について、今の大学生は夢の世界だと思っているようなので、「君達が大人になったら現実になるかもよ」と言っています。もっと前に現実化する可能性もありますが、今の子ども達にとっては夢の世界ではなく、“自分の世界と地続きのところにある”ように感じているのではないでしょうか

──プログラミング教育の必修化では、どのようにプログラミング教育を行うか、その方法は各学校に委ねられている状況だと聞きました。青山学院初等部のケースはロールモデルになり得るでしょうか
杉本先生 本学の初等部がロールモデルになるところと、難しいところがあると思います。ロールモデルになる部分としては、一見派手に見えますが、重要な点はきちんと押さえているところです。
例えば、ツール面では、特別なツールを使っているわけではないところです。Scratchはどこの学校でも使え、しかも無料のツールです。またタブレットやノートPCも高いものでなくてもいいのです。
すごく高度なことをやっているのですが、押さえるべきところ、「考え方や使い方をまずは身につけることが大事」というところを押さえている。そういうところはとても参考になるところだと思います

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杉本先生 しかしロールモデルとするにはやはり難しい部分があります。一つは人の要素がかなり大きいところです。コンピュータを使った授業やプログラミングの授業を積極的に行っている有名な先生が公立を含めて全国にいらっしゃいますが、それはその先生が突出してやっていらっしゃるケースが多いように思います。
本学の初等部でも井村先生の役割は非常に大きく、田中翔先生や他にも色々なことが出来る先生がたくさんいらっしゃいます。やはり人の要因というのは少なからずあると思います
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杉本先生 本当はいくつかのところで核になる人が力を発揮し、それが周りに段々と広がって、どこの学校でもある程度以上のことが出来るようになればいいのですけれども。そこまでのプロセスが、なかなか大変なのは確かです。
その中で青山学院初等部ではすごく意欲的にいろいろなことをやってきている。しかもスタンドプレーではなく、学校全体でよく理解しながら、「突出したことをこの先生がやっているだけ」という形ではないのです
井村先生 強みと言いう点では、私が、対象学年の全クラスを見ているところではないでしょうか。同じレベルでみんなを教えています。小学校で難しいのは、担任制なので、クラスの担任の先生の個性や技量、知識などで少しずつ差が出てきてしまうところです。
特にデジタルツールには危険性があり、その危険な部分も揃えて教える必要があります。あのクラスはOKだったのに、このクラスではダメという格差が一番良くない。その点、本校では私か柚村満先生が担当して教えていますので、言っていることは全クラスで変わらないわけです。そして私達が言っていることは他の先生達にも共有されています
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コンピュータの授業で教える専任の井村先生。教卓には担任の羽田滋幸先生がいる(2021年度4年桃組の教室より)

 

──専科にしている強みですね

井村先生 そのメリットは確実にあると思います。本校がGIGAスクール構想の実現などをきちんと進められている所以でもあり、導入したツールが、今のところ大きなトラブルにならないのは、私達が子ども達に何を言っているのか他の先生達も知っていることが大きいのです

──先生の負担は大変になりますね

井村先生 情報担当の先生はどこの学校も大変なので……。担任を持った上で、さらに情報担当となると、どうにもこうにも回らなくなる。本校は中高と同様に、担任を持たずに専科にしているので、集中することができる。そこが大きいですね
杉本先生 負担といえば、授業を担当するだけではない負担もありますよね。それこそ導入するのに、どういうものを買おうかから始まって、補助金申請、メンテナンスなど、いろんなことを含めてたずさわらなくてはならない。本当はサポートの職員が必要なところを井村先生が様々なことをお一人でこなしていらっしゃる。そこがなかなか大変なところです。私立の学校であっても、一気に導入したけれど、あとが続かない学校も恐らく出てくるだろうなと思います

──コロナ禍でのオンライン授業でさらにプログラミングの授業が有益なものと認められたところもありますでしょうか

井村先生 プログラミングが認められたというよりは、コンピュータを使って何かをするということに対しての理解がすごく広がったと実感しています。それまでは、子ども達がどんどん好き勝手をしてしまうのではないか、良い影響より悪い影響の方が多いのではないかというイメージがすごくありました。でも少しずつ、良いことにいっぱい使える、こんな良いことが出来るのだなと教員の意識が変わっていったのが大きいです。そもそも、使うこと自体、そんなに大変なことではないと気づいたのも大きいですね

──デジタルとアナログの共存という部分では、初等部は宿泊行事を大切にしている一方、プログラミングの授業を積極的に行う。2つの世界が合わさっている感じですよね

井村先生 田中翔先生がノートを取るのを、タブレットでも紙でもどちらでも良いという条件で授業を行ったところ、タブレットで取る子と紙でノートを取る子が半々くらいだったそうです。
タブレットでノートを取る子達はどういう子達かというと、文字を書くのが苦手だとか、じっくり取り組みたい、工夫したいという子が多い傾向でした。
また、最初タブレットで取っていた子達の中で紙のノートに移行した子達が結構いました。
そういう子達になぜ移ったのかと訊ねたところ、「先生のやっていることって、紙のノートを前提に動いているよね」というのが理由でした

杉本先生 児童達は、ちゃんと分かって使い分けている。「ツールが一つ増えただけだよね」と言うだけなら簡単ですが、そういう状態にするのは結構難しいものです
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杉本先生 2020年度の終わりくらいに約2年ぶりに初等部に来て、挨拶のため校内をぐるっと回っていたら、「オンラインでこういう風にやりました」と先生方から生き生きとご報告され、「オンラインが大変」とおっしゃる先生はひとりもいませんでした。
軽く挨拶程度にひと回りするつもりが、各フロアでつかまってしまい、結局2~3時間いました(笑)。
初等部の先生方が、学年で協力し合い、電子黒板やタブレットを駆使し、オンラインでも積極的に対応される。すごいことだなと思いました

──すごく良い関係ですね。杉本先生がいらっしゃることで、モチベーションにもなりますしね。ぜひこれからも、よろしくお願いいたします。本日はありがとうございました

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