次世代Well-Being〈1〉Project Scope
2019/07/01
文部科学省の平成28年度私立大学研究ブランディング事業に、青山学院大学「次世代ウェルビーイング〜個別適合をめざした統合的人間計測・モデル化技術の構築〜」が選定され、5年計画で活動しています。
本事業では専任URA(University Research Administrator)を置き、研究以外のブランディング活動や内外との遣り取りをURAに任せることで、研究者が研究に専念できる体制を整備しました。私は本事業においてURAの任に当たっており、第1回目は、本事業の概要についてご紹介します。
本事業は、センサ等から取得したデータを個人に対して役立てる研究を行っています。センサと情報技術というとIoT(Internet of Things)という概念が提唱されています。様々なセンサからデータを収集、蓄積することでビッグデータを作り、これらの膨大なデータについて人工知能(AI)を活用しながら処理・分析等を行うという未来が予測されています(図1)。IoT というとビッグデータやスマートシティ、自動運転など、社会インフラとしての印象が強いかと思います。本事業では、健康、福祉、スポーツ、教育、技能研修など、本学で主に個人分野で先進的な研究が行われていたことから、これを大学全体のブランドとしていくことを目指します。ヒトを対象とする場合には、センシング、情報提供、環境調整等に独特の課題が発生します。
Well-Being というと通常は身体的な健康をいいますが、本事業では身体的な健康に加えて、精神的な健康、更には社会的な健康を含めて「次世代Well-Being」と考えています。
今までのWell-Being 実現の為のサービスは主として不特定多数に対するものでした。サービスを提供する側は、個人の経験・知識に基づいて対象者に必要なサービスを判断し、画一的なサービスを提供していました。或いは医療、福祉、教育等、個々人に対する対応が必要な分野では膨大な人手を掛けて、個別対応を行っているのが現実かと思います。本事業は、不特定多数に画一的なサービスを提供するのではなく、個々の対象者に最適なサービスを提供するシステムを目指しています。
例えば、よく眠れるベッドを考えてみます。今までは寝具企業が一般の人が良く眠れるベッドを開発していました。しかし、ベッドや周囲のセンサから睡眠者の状態を推定し、睡眠者に最も良い眠りをベッド自体が調整してくれたらどうでしょうか。
その為には ①まず、対象者の状態を計測します。そこから ②ある分野に共通なモデルを導き出します。ここでいうモデルとは、各種センサ等のどの情報源をどのように解析、処理したら有用な情報に変換できるかを数理的に表現したものです。そのモデルに対して、③個々人の特徴、特性に合わせたパラメータ(変数)を決め、調整することによって、個々の対象者に最適なサービスを実現します。これを本事業では「個別適合」と呼んでいます。この枠組みを総称して、我々は「次世代Well-Being」と名付けました(図2)。
先程のベッドの例でいうと、まず(1)様々ある中でセンサの選択が必要です。そして、(2)快眠という状態を定量的にどう表すのかという工学的な数値化も必要です。その情報を元に(3)ベッドや空調をどう動かしたら最も効果的かという課題もあります。
従って、我々の研究課題は大きく分けて3つあります。
(1)対象者の特性を図る様々な計測、センシング技術
特に人間を対象とする場合には、装着・設置の容易性やコスト面を意識する必要があります。
(2)計測した結果やセンシングしたデータをモデル化して処理する技術
人間など生体から取得できるデータは多岐に亘ります。例えば、睡眠を考えてみても、心拍、呼吸、体表面温度、深部体温、寝返り、いびき等が考えられます。どのデータをどう処理するか、人間生理の知見も必要です。
(3)モデルとパラメータ(変数)に基づいて対象者もしくはその環境に働き掛けるアクチュエーション(個別適合)の技術
人間にとって心理的に受け入れやすい情報提供方法や安全かつ効果的な環境調整を検討する必要があります。
本事業は今現在、理工学部、教育人間科学部の2学部4学科の教員が研究者として参画しています。大学内に留まらず、地方自治体をはじめとした地域連携、海外の大学との共同研究、そして企業との共同研究も併せて推進しています。
次回から、本事業の3つの応用分野「健康福祉分野」「知識教育分野」「技能研修分野」のそれぞれの研究内容についてご報告させていただきます。