プロサーファーから公認心理師を目指す〈大学4年 澤田七奈緒さん〉
2024/07/31
5月30日に行われたサーフィンのプロテストに見事合格し、プロ選手となったばかりの澤田七奈緒さん(教育人間科学部心理学科4年)。プロになるためには日本プロサーフィン連盟(JPSA)が主催するトライアルに出場し、基準をクリアする必要がある。その合格率はなんと2%という狭き門。
JPSAウェブサイトの「ショートボード女子」のプロ選手を数えると61名。その中の一人に選ばれた澤田さんにお話を伺った。
プロ合格、おめでとうございます! 今のお気持ちはいかがですか。
素直に嬉しいです。ようやく恩返しができた、という気持ちです。
誰への恩返しですか。
両親や、ずっと見てくださっているトレーナーさん、地元の人たち、スポンサーの方への恩返しですね。
地元・茅ケ崎の方とも仲がよさそうですね。
はい。サーファーの仲間たちで、幅広い年齢の方々と仲が良く、親以上の年齢の方々にもよく見ていただいています。
なぜプロを目指したのですか。
今、大学で心理学を学んでいるのですが、将来メンタルトレーナーとして働きたいと考えています。そのときに、ある程度の実績が必要だなと考えてプロを目指しました。
オリンピック出場は目指しているのですか。
目指していません。今は心理師になるために大学院試験の合格を目指しています。
ゼミは小俣和義先生で家族心理がテーマです。卒論のテーマは、サーフィン選手の心理的特徴についてまとめようと思っていて、アンケート調査を行う予定です。
アスリートに寄り添う立場になりたいと思っています。
以前は空手に打ち込まれていたと聞いています。
兄の影響で3歳から小学6年生まで習っていました。
兄に付き添って道場に行っていたら稽古の先生に声をかけられたのが始まりです。
最初は断っていたものの、あるとき「やる」と言ったそうで、私の記憶には無いのですが……。それから通うようになりました。
楽しかったですか。
両親の話では、始めたころはずっと泣いていたそうです(笑)。
大会に出るようになって、勝てるようになると楽しくなってきました。
地元の大会ですか。
地元の大会や地区大会、県大会出場までいきました。
そんなに進んだのですか? そこまでいったら、もっと極めたいと思われたのでは。
思わなかったですね(笑)。満足しちゃった、という気持ちでした。
そうなると、サーフィンを本格的に始められたのは中学生からですか。サーフィンに出会ったのはいつ頃だったのでしょうか。
小5の夏から始めました。
なぜ始めたのですか。
パリ・オリンピック日本代表選手の松田詩野さんとは幼馴染なんです。小さいころから一緒に水泳教室に通ったりしていて。詩野は先にサーフィンをガッツリやっていて、「大人になっても一緒にいられるきっかけがあるといいね」というノリで、サーフィンのスクールに行きサーフィン体験をして、ハマってしまいました。
どこに魅了されたのでしょう。
“波の上をすべる”という感覚が楽しかったですね。
ということは、最初からうまく乗れた、ということですね。
(笑)小学生ですから。ロングボードでしたし。
松田さんとはそれ以来ずっと一緒だったのですね。
実は、私たちが生まれる前から、母同士で仲が良かったようです。
お母様もサーフィンをされるのですか。
しないんですよ。父も兄も。私だけです。
詩野がいなかったらサーフィンはしていませんでしたね。
波に乗る感覚以外でサーフィンの魅力はありますか。
そこで出会った友達と一緒にワイワイ海に入ることが好きで、小学生の夏休みには「とりあえず朝起きたら海に集合ね」といった生活をしていました。
羨ましいですね。
それが楽しかったですね。
夏でしたら日の出とともに、4時半頃から海に入ることもあります。
冬もですか?
はい、1年中入ります。
好きな季節はいつですか。
夏の台風シーズンですね。
台風が来たら遊泳禁止ですよね(笑)。
行ってはいけない期間の直前と直後に行きます。
せっかく良い波が来ているから行きたくなりますよね。
これまでに行った海の中で一番好きな海はどこですか。
宮崎の木崎浜です。様々な大会が行われる場所でもあります。大会に出場するときには、少し長めに時間をとって行くほどです(笑)。
なぜ木崎浜なのですか。
まず波が良いですね。そしてサーフィンがしやすい環境です。シャワーもありますし。
波が良い、というのはどういう状態なのですか。
“めんつる”という状態です。風が吹いていない状況のことを言います。風が吹くと水がざわざわするのですが、“めんつる”は、連続でアクション(技)を入れられる“きれいに割れる波”です。
スキーで言うと“パウダースノー”という状態なのでしょうね。アクションをいっぱいしたいのでしょうか。
はい(笑)。カービングターンやリッピングですね。
※カービング…サーフボードを波の面に沿って滑らせ、上下左右に動かす技
※リッピング…波のリップ(頂上で巻き始める波)付近で決めるテクニックの総称
難しそうな技の名前ですね。オリンピック代表の五十嵐カノア選手が、空を飛んでいるシーンを観たことがあるのですが、神業ですよね。
エアーですね。あれは難しいです。でも今では女子でもできるレベルになってきていますね。私もチャレンジしたことはありますが、全然できません。飛んだら板と足が離れてしまいます。
海外の海に行ったことがありますか。
海外だとオーストラリアとハワイとバリに行ったことがありますが、その中ではバリが好きです。波が良いですね。
海外にすごく高い波ができる場所がありますよね。
ポルトガルのナザレが有名ですね。見ているだけで十分です(笑)。
私は、ジャンク(風が吹いて波の面がデコボコした状態)で辛いコンディションは好きではないですね。
行ってみたい海はありますか。
まだ行ったことが無い日本海に行ってみたいです。北海道も波が良いと聞いています。夏でも海水は冷たいようですが、行ってみたいです。
場所や時間などでも海のコンディションは変わってくると思いますが、どのような条件がいいのでしょうか。
潮の満ち引きやうねりの大きさによっても違ってきます。
時間だといつが好きですか。
朝日が昇る時間や夕日が沈む時間が好きですね。その瞬間は自然が一番きれいに感じます。
朝や夕方は風が吹いていなかったりして凪となって、波が良くなります。
海に入れない時はどうしていますか。
体幹トレーニングなどサーフィンに関わるトレーニングを心掛けています。たまにスケートボードもしています。海に行かなくても家でできることをします。
ちなみにボードは何本お持ちですか?
7本持っています。
波の状態ごとに使い分けていて、今年は2~3本を使い分けています。
スランプはありましたか?
高校1~2年生のときにありました。1年間、出る大会はすべて1回戦で負けていました。
どうやって乗り越えたのですか?
負け癖がついていて、出ても負ける、ということを予想して出てしまっていたので、心の切り替え、自分は本当は勝てるんだよ、という自信付けが必要でした。宮崎でコーチングを受けて、そのすぐ後の大会で2位になれて……。でもその後こちらに帰って来てから、また勝てなくなって……。
トレーナーさんがいるのですが、メンタル的なトレーニングもやっていて、自分がするべきことは何か、ということを一緒に考えてくれました。
両親も大会にいつもついて来て、サポートしてくれました。小さいころからずっと一緒に大会について来てくれて、ありがたく思っています。
学業との両立のうえで心掛けていることはありますか。
時間の使い方ですね。バイト以外は先のスケジュールはあまり立てずに、「明日波が上がりそうだ」となったら、明日海に行くから、今、レポートをやっておこう、となります。
波が一番の中心なのですね。
クリスチャンだと伺っています。心の支えとなっている聖書の言葉はありますか。
スランプのときに「越えられない試練はない」(コリントの信徒への手紙 第10章13節)という箇所に救われ、もう一度「頑張ろう」と思い直せました。
また、試合に勝ったときや、プロになって気持ちが上がっているときほど「謙虚にいよう」と思います。
素人から見るとサーフィンは少しハードルが高いスポーツに見えます。先ず何が必要でしょうか。
私は茅ケ崎に生まれ育ったので、海は近くにありますし、サーフィンスクールに入るのも簡単でした。サーフィンができる環境が必要ですね。
スクールに入れば前進できますね。
はい、基礎を教えてくれますし。
海のそばに住んでいることが一番ですね。
大学の友達でサーフィンをしている人はいますか?
相模原キャンパスの年上の方にお会いしたことが1度あるくらいですね。
私もサーフィンをしていて、失敗して海にバシャーンとなるのが気持ち良くて。
うんうん、逆に。
生きてるなあ、って思えて好きです。
すごくわかります。
ハワイで大きな波に乗って、岸に帰ってきて砂の上を歩いているときに「生きてるー」ってなりました(笑)
愚問ですが、これからもサーフィンは続けていきますよね。
一生続けたいですね。
澤田さんにとってサーフィンとはどんな存在ですか。
難しい!
でもやっぱり、旅行先でも最初に波情報を見てしまうほどです。なくてはならない存在というか、常に気にしちゃう存在です。できなくなることが想像できないですね。
これからもめげずに、強く生きていってほしいなあと思います。
サーフィンと、海と、仲間ともに。
公認心理師を目指して頑張ってください。
経営者の中にはサーフィンを嗜む者も多いという。ビジネスと同じで、波の状況で瞬間瞬間、軌道修正しながら波に乗る、という点で似ているのかもしれない。いかに波を乗りこなすか、波が来ないときにはいかに辛抱強く待てるか、自分の手腕を試せるスポーツだ。
「ネイチャーフィックス」という言葉がある。自然との接触が人間の脳と心に良い影響を及ぼすというもので、自然の中で過ごすことによってストレスが軽減され、集中力が向上し、心地良い気分になることから名付けられた言葉だ。サーフィンがまさにそれを体現するスポーツだと言われている。自己肯定感が高まり、自信が持てるという効果もあるそうだ。
また、サーフィンの面白さを一言で表すと「究極のアクティビティ」という言葉がピッタリだと言う人もいる。サーフィンほど手軽に、自然と触れ合うメリットを享受できるアクティビティはない、とのこと。
かくいう私も49歳からサーフィンを始めた。
しかし、沖には怖くて行けない、いわゆる“さざなみサーファー”でとどまっている。
今回の澤田さんとの出会いで、勇気をもらった。沖に挑戦したい。
ぜひ皆様にも、サーフィンをオススメする。