次世代Well-Being〈3〉知識教育分野
2019/09/11
前々回から2回にわたりご紹介したとおり、青山学院大学次世代Well-Being は5年間の予定で、一昨年から研究ブランディング活動を続けております。我々の研究室は、昨年度より、センシング技術を知識教育分野へ活用する研究を行っています。今回は個々人の状態に着目した学習という題でお話しします。
IoT(Internet of Things)では、実世界の情報を正確に取得することが必要です。そのために必要なものがセンサです。このセンサが、我々が身に着けるセンサ、すなわちウェアラブルセンサとなると、生活の中でその時の状態に応じて我々個人のデータを取得できます。例えば、日中の体調に関するデータを取得し、それに応じてその日の夕食に最適な料理を提案してくれるというシステムも考えられます。いわば「生活カスタマイズ」が可能となります。
一方で、20世紀末までに整ったインターネットにより、時空間の垣根は取り払われ、諸産業、生活は一変しました。教育・学習も例外ではなく、インターネットによる講義動画配信システムが急増してきています。昨今、大学の授業も、ビデオ放映形式で提供されることがあります。学習というものが対面式の一斉授業ではなく、コンピュータやネットワークを使って進めていくことが一般的になってきました。このような状況の中、画一の教材ではなく、個々人に合わせた教材、あるいは自分の進度に合わせた教材の提供が可能になってきました。例えば、ある事柄を学習したい人の中でも、背景知識や理解力は人それぞれです。こうした個人差を考慮することで、より効率的な学習が可能になります。
この研究ブランディング事業では、「個々の人の状態に即したサービス」を提供することを目標としているので、まさしく知識教育にもすんなりとフィットします。固定の教材を使ったり、一方的な知識伝達に頼らずに、学習者のその日、その時の状態に応じて、提示する教材を変化させられないかと考えました。
授業がオンラインに切り替わった際には、先生は人間かAIかは分かりませんが、何らかの方法で学習者の状態を把握し、それに合わせて教え方を変えることでしょう。優秀な庭教師であれば、お子さんの顔色や反応を見ながら、話す内容を変えているのではないでしょうか。家庭教師に限らず、一斉授業の教師でも、やはり受講者の反応を見ながら話の内容を変化させているでしょう。
ある学習者の進度を判断するためには、理解度という尺度があります。理解度は一般的にテストによって計ることができます。しかし、テストは授業後に実施されるものであり、授業時間中の学習者の状態を知る目的には不向きです。授業中に何回もテストを行うことは難しいですよね。現在の家庭教師や講師の授業を考えてみても、それほど頻繁にテストを行っているわけではないでしょう。したがって、テストだけで授業中の学習者の状態を判断するのは、難しいと言えます。
そこで、学習者の集中度に着目しました。最初の取り組みとして脳波を使った集中度計測を研究しています。学習者の集中度を判断し、集中できないということであれば補足講義動画を流します。補足動画というのは、内容を噛み砕いて説明したり、他の観点で説明したりする動画です。
〈上図〉本システムは、受講者の集中度と理解度に基づいて、教材間の連携方法と教材内の小単位(ユニット)を制御する。教材はユニットという単位に区切られ、ユニットは受講者の集中度と理解度に依って分岐点Dで分離し、統合点Mでその流れがまとまる。
最終的に本研究では、学習者の集中度だけではなく、理解度も含めて、ある講義の中でユニットに分けられた教材のコンテンツ制御を行っていくことを実現していきます。
本プロジェクトは残り2年半で、今後の展開として色々な方向性を検討しています。まず、多数の学習者のデータを取得すると似たような傾向の学習者が出てきます。この学習特性データをクラウド上に配置します。これに基づいて学習者に応じて更に細かな制御を行います。
第一歩として脳波による直接的観測に着手しましたが、ほかにも体の動きといった間接的観測を取り入れられることも考えています。将来、脳波計が体温計、体重計同様にコモディティ化して簡便に使えるようになる可能性も含めながら、多角的観測で人の状態を推定していきます。さらに、瞬時の状態だけでなく、長期的観測から人の癖をとらえて、学習システムへ取り入れていくことも考えたいと思います。