Column コラム

企業の地域活性化とその青山からの発信【青山学~青山から考える地域活性化論~第3回】

青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授

宮副 謙司

 

1.企業による地域活性化の高まり

最近の地域活性化の動きで注目されるのは、大手で全国的な企業が、特定の地域で活性化の取り組みを行う、あるいは特定のテーマでの全国的な地域活性化を支援する取り組みを活発化させていることである。
かつて大手企業の地域との関わり、地域貢献といえば、工場や事務所の地域への進出によりその地域での雇用を生む、材料・資材を現地で調達することなどが地域活性化として捉えられてきた(コトラーほか(1996)『地域のマーケティング』東洋経済新報社 など)。しかしながら、近年では、企業・製品の特性と地域の特性の適合から地域資源に着眼し、それを企業の本業の製品企画や販売に生かしたり、本業のビジネスにつながる情報発信やキャンペーンを行ったりする動きが増えてきた。

 

2.パナソニック

最初に取り上げる事例は、パナソニックである。同社は、このほど「ごはんの国と生きる炊飯器。」をコンセプトにした新しい炊飯器を開発した。その発売企画として、「OKOME STORY MUSEUM」というイベントを、青山のスパイラルで開催した(2018年10月)。
この新製品の炊飯器は、「Wおどり炊き」という独自の炊き技術で、コメ1粒1粒にしっかりと熱を加えて、もっちり甘い、ふっくら銀シャリを炊き上げる。さらに全国各地の様々な産地のコメの特性を理解し、そのコメが最もおいしく炊ける最適なプログラミング(火加減)機能を搭載しているというものである。
会場では、北海道産「ゆめぴりか」、新潟県産「新之助」、福井県産「いちほまれ」などの新米を、最新機種専用コースで炊飯した炊きたてご飯を来場者にふるまい、それを食べ比べるイベントが開催された。また47都道府県別に、その地元のコメと代表的な郷土料理をパネルで紹介する形で地域の情報発信が展開され、人気を集めていた。
パナソニックでは、炊飯器の技術開発に携わる炊飯科学のプロ「ライスレディ」を社内に配備し、炊飯器開発だけでなく、ときにはお米の開発段階から携わり、お米の個性を徹底的に研究する取り組みを長年行ってきた。パナソニックがコメの産地と手を携えて、日本の食文化を豊かにするというモノづくりの思いを伝える展示を行っていた。
確かに、日本各地の銘柄米はそれぞれに個性があり、マーケティング理論で言うポジショニングマップで描けるほどである。パナソニックは炊飯器を通して全国のコメ、さらに郷土料理や食器などを紹介する活動に取り組んでいる。

 

3.キリン

キリンビールは、2015年5月、「キリン一番搾り生ビール」の発売25周年を機に全国の9工場ごとに味の違いや個性を楽しめる〝地元生まれ〟の「一番搾り」を地域限定で発売した。顧客から「地域の食事に合う」「地元愛を感じる」などの好評を受け、2016年の春から夏にかけては商品開発の対象地域を全国の47都道府県に拡大し、「47都道府県の一番搾り」として製造・販売した。この新商品は〝地元の誇りを、おいしさに変えて〟をスローガンに、地域の顧客とともに地域の魅力を発掘しながらつくりだす、特別な「一番搾り」とした。
またそのプロモーションとしては、「47都道府県の一番搾り」をその地元の食材を使った料理とともに提供する場を南青山に設けた(2016年6月から期間限定)。

「キリン一番搾りガーデン」東京・南青山(2016年6-9月)筆者撮影
「キリン一番搾りガーデン」東京・南青山(2016年6-9月)筆者撮影

 

4.トヨタ・レクサス

トヨタ自動車の高級ブランド「レクサス」のブランド発信拠点「INTERSECT BY LEXUS-TOKYO」が南青山にある(2013年8月開業)。そこにはショールーム、カフェとレストランがあるが、その他に、レクサスが日本のモノづくりを世界に発信したいという意図で「CRAFTED FOR LEXUS」という取り組みをここから開始した。
レクサスは全国各地の伝統技術・モノづくり企業14社とコラボレーションした商品(18アイテム)を開発し、上記のブランド名で編集し、販売している。具体的には、木製デザイン雑貨「Hacoa」(福井県)、レザーグッズ「RHYTHMOS」(鹿児島県)、ライフスタイル雑貨「SyuRo」(東京都)などデザイン商品が多い。これらの商品は、会員向け雑誌にも掲載され、その産地や企業を車でめぐる旅も紹介され、まさにレクサス(トヨタ)版の地域活性化の取り組みと言うことができる。

 

5.青山からの発信─企業の地域活性化の取り組み

こうした企業の情報発信の場に、なぜ青山が選ばれるのか。それはこの連載で既に論じたように青山の共感度及び情報発信度の高い顧客〝青山顧客層〟の存在がある。企業は、彼らにまず関心を持ってもらい、共感を高め、自社のファン層にしたいということだろう。また〝青山顧客層〟から一般層へ拡散・浸透させていくインフルエンサー・マーケティング戦略が企業の狙いでもある。
世の中一般には、かつて一世を風靡したラグジュアリーブランドも需要の伸び悩み期に入り、その店舗群が集積する青山の街並みも、今後は「地域」に関連する拠点や情報発信が多く見られるように変化していくのかもしれない。

 

「青山学報」266号(2018年12月発行)より転載
【次回へ続く】