Column コラム

伊予西条にみる企業による地域活性化【青山学~青山から考える地域活性化論~第5回】

青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授

宮副 謙司

企業による地域活性化の取り組みについて、第3回(全国展開の大手企業)第4回(青山立地の企業)と見てきたが、今回は、地方都市における展開を見ていきたい。

 

1.青学ゆかりの伊予西条での地域研究

具体的な研究対象地域として、愛媛県西条市をとりあげる。その選定理由は、第一に、西条市には、全国的に事業展開する大手企業、及び、地域(愛媛県あるいは四国広域経済ブロック)での有力企業の双方が複数社進出していることである。具体的には、花王(日用雑貨)、クラレ(化学)、アサヒビール(ビール・酒類)、コカ・コーラ(清涼飲料)といった大手企業、及び、いよてつ髙島屋(百貨店)、四国電力(電力)、JR四国(鉄道)、伊予銀行(地方銀行)など四国地域の有力企業の拠点がある。
第二に、西条市の業種構造も製造業、商業、鉄道、金融など全般的に揃い、偏りが少ない。第三に、青山学院大学の青山キャンパスは江戸時代に伊予西条藩松平家の江戸上屋敷であったという歴史的なゆかりがある。ちなみに筆者の研究室では、西条市の協力・連携を得て現地にサテライト研究拠点を設け地域研究を行っている。本稿では、そのような地域における企業活動に関して、花王、クラレの2社について記述する。

 

2.花王(日用雑貨)

花王は全社的な社会活動方針として「次世代を育む環境づくりと人づくり」というテーマを掲げている。さらに具体的には「手洗い講座」「おそうじ講座」「環境講座*」(*広報部注:2021年7月現在は行われていません)を地域の学校への出張授業として行っている。例えば、小学校低学年向けの「手洗い講座」では手洗いの大切さを伝える講義から始まり、実際に手洗いの練習、更にはローションとブラックライトを用いた汚れ落ちの確認など、座学による知識提供だけに留まらない実習形式授業を行っている。「おそうじ講座」では家事の疑似体験を通じて、家族の中での自身の役割の理解、そして家族への感謝の気持ちの醸成を目指している。小学校高学年から高校生までを対象とする「環境講座」では受講者が身近な洗たく用洗剤を通して節水について考え、日々の生活で環境に配慮した行動に取り組むきっかけづくりを提供している。
西条市にある愛媛工場では、小学校などからの工場見学の受け入れとともに、「花王ファミリーコンサート」「新生児紙おむつ寄贈」や地域の祭り・イベントへの参画などの地域向け活動を展開している。

青山学院大学 宮副アドバイザー・グループ学生の花王工場訪問(2018年8月)
青山学院大学 宮副アドバイザー・グループ学生の花王工場訪問(2018年8月)

 

3.クラレ(化学)

クラレ西条事業所は、開設当初から地域の従業員に向けた福利施設が整備されており、現在の事業所敷地には体育館・野球場・テニスコートなどが備えられている。敷地内の桜並木は、春には地域住民に「観桜会」として公開されている。また近隣の学校などの工場見学を受け入れ、小学生向けの「わくわく化学教室」も開催している。他にも「クラレ文庫」として図書を寄贈するなど数多くの地域対応に取り組んでいる。
さらに特徴的なことは、クラレ西条事業所の従業員の福利厚生施設として発祥し、その後市民の施設として継承されたものがある。例えば、病院(現在の西条中央病院)、教会(西条栄光教会・西条栄光幼稚園)はその事例である。

西条栄光教会・西条栄光幼稚園
西条栄光教会・西条栄光幼稚園

クラレグループは、初代社長の大原孫三郎氏が設立した公益財団法人大原美術館の支援を継続しているが、西条市でも発祥地の倉敷と同様に民藝コレクション拠点「愛媛民藝館」が第二代社長の大原總一郎氏により設立され、その後も長年クラレ退職者が運営支援するなど文化活動を継続してきた。現在、民藝館はクラレの運営施設ではないが、これは、企業の地域での取り組みが、時を経て地域の住民や団体の運営となり地域の生活の資源になっている。企業による地域活性化の理想というべき取り組みではないだろうか。

 

3.まとめ─愛媛県西条市における企業による地域活性化

コトラーのマーケティング理論で、製品を3つの階層、すなわち、①製品のコア(顧客にとっての基本便益・機能)、②形態(コアを見えるようにする形状やデザイン、ブランド・ネーミング)、③付随機能(アフターサービスや使い方などのソフト)で捉える概念がある。企業による地域活性化の取り組みを、この概念で整理すると図表-1のように考えられる。第一に基本機能からは企業の理念やコンセプトを反映した活動が考えられる。第二に形態からの発想では、その製品戦略対象のセグメント(顧客層)への対応がある。例えば、花王の愛媛工場の製品である紙おむつなどの購入客対象は、若ママ層及び新生児であり、その層に向けたイベント開発は地域活性化のコンテンツになりそうだ。第三に付随機能からは、花王の「手洗い講座」「おそうじ講座」のように、製品使用の啓蒙活動が、地域の子供たちへの生活教育となっていると見ることができる。
また、この製品概念に製品生産を支えるマネジメント領域を加えて見るならば、クラレの従業員の福利厚生(図表-1)は、年月を経て地域住民にとって重要拠点になり、従業員の生活の活性化と充実は、地域の活性化につながっている。企業による地域活性化とは、文化・社会貢献として特別扱いするのではなく、本業に取り組むことで、それが自ずと地域活性化となることが示されたと言えるだろう。

 

「青山学報」268号(2019年6月発行)より転載
【次回へ続く】