Column コラム

音楽による地域活性化【青山学~青山から考える地域活性化論~第6回】

青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授

宮副 謙司

青山学院の青山キャンパスでは、ランチタイムに構内放送で「Amazing Grace」が流れている。この曲を聴いて、この曲にまつわるストーリーをはじめ、それに関連して、音楽テーマでの地域活性化を進めている米国テネシー州ナッシュビルでのエピソードを思いだし、さらに青山学院との関係などを考察してみた。

 

1.アメイジング・グレースについて

「Amazing Grace」は、今や世界中で歌われている名曲である。
Amazing Grace!
(how sweet the sound)
That saved are wretch like me!
I once was lost,
but now am found;
Was blind, but now I see

「Amazing Grace」の1番の歌詞には「自分のようにみじめな者」、「かつては、自分は道に迷っていたが、今は(神によって)見出された」というように、罪深い自分が神を信じて変えられたことが書かれている。
この曲は、実はメソジスト派と大きな関係がある。ジョン・ウェスレーやチャールズ・ウェスレーから大きな影響を受けて、英国国教会の牧師となった元奴隷船の船長、ジョン・ニュートンが作った讃美歌が「Amazing Grace」なのである。
この「Amazing Grace」は、ジョン・ニュートンが任務を終えて英国に帰国する船に乗っていた時、嵐に遭い船が難破しかけたが、辛うじて難を逃れ帰郷出来た体験(船上でただ神に哀れみを乞うしかなかった自分、また若い頃から道を逸れ、ついには奴隷船の船長という仕事で、多くの奴隷に非人道的な扱いをしてきた自分を悔い、それでも神の恵みによって許されて、生きて帰郷出来た経験から彼は牧師になる道を歩んだ)から生まれた讃美歌である。
ジョン・ニュートン自身はメソジスト派には加わらず、国教会の牧師のまま生涯を終えたが、考え方や彼の礼拝スタイルはメソジスト派に極めて近かった。それゆえ、彼の讃美歌の内容は、メソジスト派の教義の特徴である「人間は罪深いもの」として「悔い改め」が強調されている。
メソジスト派は、当時の流行歌に歌詞をつけ、口語による平易な讃美歌を普及させた。メソジスト派の礼拝において、讃美歌を歌うことは非常に重要な意味を持っている。それゆえ、「歌う教会」との別称もあるほどだ。

 

2.ナッシュビル:音楽による地域活性化

私は、2019年3月に、米国テネシー州ナッシュビルを訪問した。ナッシュビルはカントリーミュージックなどのライブハウスが多く所在し「音楽の都」としてその名を知られている。しかし、当地は、実は別の側面として、「バイブル・ベルト」と呼ばれる米国南部州の中でも、「バイブル・ベルトのバックル」と呼ばれるほど、米国のキリスト教界において重要な意味を持つ都市であることを教えられた。
市内には700か所以上のキリスト教会があり、それ以外にも神学校数校、また多くのクリスチャンミュージック関連会社もある。南部バプテスト連盟、合同メソジスト教会、ナショナル・バプテスト・コンベンション、ナショナル・アソシエーション・オブ・フリーウイル・バプティスツ、国際ギデオン協会、世界最大の聖書出版社トーマス・ネルソン等の各本部は、実はこのナッシュビルに置かれている。
市内中心部で私が見た合同メソジスト教会の建物は、コリント式円柱が並ぶギリシャ神殿を模した造りで、まさに青山学院の間島記念館にそっくりで、とても親しみを感じた(写真-1)。

米国テネシー州ナッシュビルのメソジストの教会
写真-1 米国テネシー州ナッシュビルのメソジストの教会

 

3.メソジスト派と音楽

メソジスト派は、18世紀のイギリスでジョン・ウェスレーを指導者として起こった信仰覚醒運動(メソジスト運動)を基にしている。「メソジスト(几帳面屋)」という呼称は、オックスフォード大学クライスト・チャーチでジョンの弟、チャールズ・ウェスレーたちが始め、兄ジョンが継承した「神聖クラブ」(Holy Club)のメンバーにつけられたあだ名であった。
メソジスト会メンバーは、当時の英国国教会の形骸化した儀式や教理に対して、自らの神の恵みの体験を重んじ、愛と奉仕による社会事業、教育活動を積極的に行うことを善として、労働者の自覚と向上を促した。社会から貧しい大衆が顧みられなかった時代に、メソジストたちによって大衆に精神的な救済が差し伸べられたのである。その後、米国に伝わったメソジスト運動は、19世紀の工業化と経済成長に伴って次第に中産階級に浸透し、米国最大のプロテスタント教派となるほどの飛躍的発展を遂げたと言われている。

 

4.音楽によるつながりと地域活性化

青山学院では学院連携本部による活動として、青山学院のOB・OG、保護者、教職員、青山学院の支援者などが参加可能なゴスペルワークショップが毎年開催されている(写真-2)。ゴスペルを通じて、広く社会に福音の種まきをしようというその活動は、まさに「歌う教会」メソジスト派の大学に相応しい活動であろう。ゴスペルを通じて、青山が地方や海外とつながり、地域の生活充実が図られるならば素晴らしい。青山学院らしい地域活性化活動の取り組みと言えるだろう。

青山学院ゴスペルワークショップの風景
写真-2 青山学院ゴスペルワークショップの風景

 

「青山学報」269号(2019年10月発行)より転載
【次回へ続く】