人馬一体で挑んだオリンピック〈卒業生・北井 裕子さん〉
2019/06/05
──本学に入学後は馬術部に所属されていましたが、アシエンダ乗馬学校ではご自身の馬をすでにお持ちでした。なぜ入部しようと思われたのですか?
馬術部のコーチと父が親しく、私のいないところで知らない間に入部する話が決まっていました(笑)。それまでずっと実家である乗馬学校の甘えられる環境で育ってきたので、体育会の馬術部には随分鍛えられましたね。上下関係は厳しく先輩には怒られてばかり、朝の作業は毎日6時半からでした。馬の手入れから馬房の掃除まで、すべてをこなさなければならなかったですね。現在馬術部の厩舎と馬場は横浜市の緑区にありますが、当時は同じ横浜市でも綱島にあったので、近所に引っ越して部活動に明け暮れる日々でした。きつくて何度も辞めたいと思いましたが、厳しさに耐えられずに辞めたと思われるのが悔しくて、根性で続けました。
振り返ってみればすべてが良い思い出で、同級生だけでなく先輩や後輩とも、今でもお付き合いが続いています。入部して間もない新入生歓迎会で「夢はオリンピック出場」と挨拶したのですが、北京オリンピックの代表に決まった際は、みんな「新入生歓迎会のときに言った夢を実現させたのはすごい」と、自分のことのように喜んでくれました。
──息抜きや気分転換はどうされていたのですか。
週末に実家に帰って自分の馬に乗るのが、良い気分転換になりました。上級生になってからは許可を得て、その馬で競技にも出場させてもらえるようになりました。また、たまに友人たちと食事に行ったりするのも、貴重なオフタイムでした。大学生の娘は馬術に興味を示さず、部活三昧だった私とは全く違う学生生活を送っていますが、見ていると「毎日楽しそうだな」とうらやましくなります。
大学では勉強が大変だったというのも強烈な思い出で、いまだに試験で焦っている夢を見ることがあるほどです(笑)。試合と重なって出席できなかった授業は、友人にノートを見せてもらったり教えてもらったり、随分助けてもらいました。
──リオオリンピックが終わったばかりですが、周囲からは早くも2020年の東京オリンピック出場を期待する声も上がっています。
当面試合に出場する予定はなく、正直なところ、今はまだ「東京も目指します」と断言はできないですね。北京、リオと目標であり憧れであったオリンピックに2度出場できたことで、達成感があるのも事実です。
また、今回のオリンピックで、日本の馬術が世界のレベルに追いつくには、まだまだ時間がかかることを改めて痛感しました。あと4年で、オリンピックの予選から次の第2ラウンドに進めるレベルまで実力を付けるのは難しいというのが現実です。さらに、競技を続けるとなると新たな馬も購入しなければならず、お金もかかりますが、馬術のようなマイナーなスポーツでは、スポンサーになっていただくのも難しいというのが実情です。
東京オリンピックには若手の育成という形で関わるのも、一つの道だと考えています。実は今、中等部の生徒がアシエンダ乗馬学校に通っていて、オリンピックを狙えるのではと、期待しています。昨年の全日本ジュニアでは2位、今年も3位の成績で、夏休みにはドイツへの遠征も行いました。
一方、私自身の東京オリンピック出場も「絶対ない」とは言い切れません。もともとドンローレアン号に出会うまでの1年ほどは、競技から離れていました。それが2015年の秋にドンローレアン号という優秀な馬と出会ったことから「オリンピックに出たい」という気持ちに一気に火が付いたのです。ですから自分のモチベーションが高まり、かつ素晴らしい馬との出会いがあれば、また東京も目指したくなるかもしれませんね。
──もしかしたら東京オリンピックでは、教え子と一緒に出場、しかもお二人とも本学出身という、夢のような光景が見られる可能性もあるということですね。
リオオリンピックの団体メンバーは4名だったのですが、東京ではまた通常の3名に戻ってしまうため、ハードルは高いです。でも実現したらいいですね。
──最後に、在校生へのメッセージをお願いします。
「継続は力なり」という言葉通り、何事もあきらめずにやっていけば必ず夢は叶うと私は思っています。在校生の皆さんもぜひ、あきらめずに夢に向かって頑張ってください。くじけそうになるときもあるでしょうが、望み続けることが大切です。
そして何よりも欠かせないのが行動力です。私は北京オリンピックの際、企業がスポンサーについてくださった時にそれを痛感しました。馬術というマイナーな競技の選手では無理なのではと思いつつも、やれるだけやってみようと積極的に動いて自分を売り込んだ結果、スポンサーになっていただくことができました。ただ待っているだけでは、そのご縁もありませんでした。皆さんもぜひ自ら行動し、強い気持ちを持って、夢を叶えてください。
神奈川県生まれ。青山学院大学経営学部卒業。在学中、体育会馬術部に所属。
2008年中国・北京において開催された第29回オリンピック馬場馬術競技に出場し、団体戦9位、個人戦45位。
2016年6月、リオオリンピック日本代表選考会にてトップの成績で代表入りを決める。同年8月にブラジル・リオデジャネイロで開催された第31回オリンピックに馬場馬術競技団体戦のアンカーとして出場、団体戦11位、個人戦48位。
現在はインストラクターとして若手の育成にも関わっている。
馬場馬術競技:演技の正確さや美しさを競う
障害馬術競技:様々な障害物を決められた順番に飛越、走行する
総合馬術競技:馬場馬術競技・クロスカントリー競技・障害馬術競技の3種目を同一人馬のコンビネーションで行う