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日本の英語教育が目指すもの

大学の英語教育のあり方とAI・ARの可能性

木村 次に、これからの大学英語教育についてですが、1、2年の教養課程レベルの英語教育はどうあるべきでしょう。どこの大学もこのことを最大の眼目にして様々な改革をしているようです。言語運用能力の定義にはいくつかありますが、Cummins(1980)のバイリンガルを対象として行った調査研究の用語が分かりやすいので使います。バイリンガルには2つの言語能力、BICSとCALPがあります。
BICS(Basic Interpersonal Communicative Skills)は日常生活で人間関係の維持のための、口頭による情報を伝達する際に用いる技能で、特にリスニングとスピーキングがこれを支えます。CALP(Cognitive Academic Language Proficiency)は言語構造の知的理解能力を意味する知的・学問的言語能力です。4技能のうち、特にリーディングとライティングがこれを支えます。BICSは、自然な状況で必要な情報を伝えながら言葉を習得する場合に育つもので、知能はさほど大きな意味を持ちません。一方CALPは、教室内で英語の構造を知的に理解し、規則を適用して言語形式の操作を行い、意味の理解と伝達を主に文字媒体を通して行うため、知能が必要になると言われています。仮にBilingual-bicultural (複言語・複文化)を外国語教育の目標にした場合、BICSだけでは、伝達能力の育成に貢献しません。特に大学専門課程においては、当然のことながらCALPの力が必要になります。多くの大学が改革を急ぐ余り、BICS習得のみのプログラムを外部産業に委託する傾向が続いています。また専門課程では英語が使用されないという状況も生み出しています。国際交流の観点からも、教養―専門を一貫したEMI(English Medium Instruction:英語を媒介言語とした教育)化が必要だと思います。教科学習と英語の語学学習を統合したアプローチである内容言語統合型学習、通称CLIL(クリル)(※注1)の可能性について、髙木先生、いかがでしょうか。

髙木 1、2年の段階から、CLILを中心とした教育ができるようになればいいと思います。そして3、4年生への橋渡しができるよう、語学教育担当者専門の先生と連携しながら1、2年のカリキュラムを考えられればさらに効果的だと思います。

木村 ただ、日本で行われているCLILは日本語なので、アウトプットが英語ではありません。肝心の英語力そのものの習得が中途半端になるという不安はありませんか。

髙木 1、2年ではあくまでもCLILの要素も入れた言語教育ということです。何を身に付けたいかという目標がないまま、漠然と4技能を取り入れるということではないですね。

嶋津 CLILの良い点は、第一言語を使うことだと僕は考えています。これまでは第一言語の使用は否定され、英語だけでやりましょうと言われていましたが、今では肯定されています。早い段階でのアウトプットを期待せず、コンテンツ重視で行っていくのが良いと思います。

木村 従来の国の政策は「英語の授業は全部英語で行うこと」で、私自身もそのような指導を受けてきました。CLIL的な発想で第一言語を用いるとなると、英語教員の発想も変える必要があるでしょう。

嶋津 僕は高校時代、オールイングリッシュの授業には全くついていけませんでした。ちなみに僕が通っていた高校に木村先生が講演に来てくださり、先生と知り合いました。その時に「青学に進学しよう」と決めたのです(笑)。

 

※注1 CLIL
Content and Language Integrated Learning (内容言語統合型学習)の略称。教科科目やテーマの内容(Content)の学習と目標言語(Language)の学習を組み合わせた学習。第一言語と目標言語の使用比率が課題。(木村)