中国語②「白熱カルタ取り 中国語教室」【青山学院中等部3年生選択授業】
2021/12/03
1971年に始まった中等部3年生の「選択授業」。中等部生たちの個性をいかし、将来の可能性を伸ばすよう、様々な分野の授業を用意しています。
詳しくは、まとめページをご覧ください。
今回は半年ぶりに2回目の「中国語」の授業を取材しました。
中国語の授業で“カルタ取り”が行われると聞いた。
“カルタ取り”と言えば、読み上げられる文章の頭文字の書かれたカードを探す遊びで、お正月などでよく行われる。はたして中国語のカルタはどんな絵柄なのか? 期待感が否応もなく膨らんだ。
11月の初旬の水曜日、6限――いよいよ中国語の“カルタ取り”が行われる。
会場はここカフェテリア。
まだ誰もいない。
消灯され、戦の前の静けさに包まれている。
5限の終了チャイムが鳴った。
地下の教室から生徒達がやってきた。柳本先生の姿もある。
カフェテリアに明かりが灯された。
「6限のチャイムが鳴ったら始めるから準備して。さあ、みんな陣取りをして。それも作戦の1つだからね」
“陣取り”“作戦”という言葉に生徒達が臨戦態勢に入った。
3人1組、全3班は各々動き始める。
1班が前方、少し離れたところに3班、1班と3班の斜め後ろに2班が陣営を張る。
「授業開始と共に始められるようにカードを並べて」
先生の号令で各班がカードを並べていく。
木目調の床に拡げられていく白いカードを見て驚いた。
絵がない。
書かれているのは字だけだ。中国語の様々な単語が書かれている。それも手作りらしく、手のひら大に切られた紙に、勢いの良い大きな楷書で書かれている。
生徒達は中国語のノートや資料を広げながら、
「わたしが調べ係をやるから」
「カードの並べ方だけどさ、文法順の方が良くない?」
「とりあえずカードを置いた場所を覚えよう」
「一番初めに取る係をやる」
と各班、戦略を練り始める。
その時、6限のチャイムが開戦の刻限を告げた。
先生が移動式ホワイトボードの前に立つ。
「今から中国語を読み上げます。カードを組み合わせ、読み上げた文章を正確に並べて作ってください。出来たら手を挙げる。そして正しく発音出来れば点をあげます。文章が合っていても、発音が正しくなければ点は取れません。カードを並べる時は声を上げずに黙って行い、発音に自信がある人が発音すること。それでは第1問」
先生が中国語で文章を読み上げる。1学期に取材した時の単文レベルではないことは明らかだ。
わたし達には一言半句も理解できないが、生徒達は先生が発音すると同時にカードの上を飛んだ。素早く文字の書かれたカードを拾い集めていく。
「はいはいはいはい!」
並べたカードを前に飛び跳ねるようにして先生を呼ぶ。
「好久没有联系。(hǎojiǔ méiyǒu liánxì.)」
綺麗な発音が響く。
「完璧、1班」
先生が満足そうに頷いた。
「じゃあ次行くよ」
先生の言葉に全班慌ててカードを元の位置に戻した。
すぐ動けるように中腰になり、聞き耳をたてる。
「――(中国語)」
立て続けに2問、3問、4問と先生が中国語を読み上げる。
その度に生徒達がカードの上を舞うように動き、素早くカードを集めていく。
先生の中国語を読むスピードが速い。が、聞いているそばから動く生徒達も速い。
みな一様に文章を理解している証拠だ。
3班が2~4問ともに点を稼ぎ首位に立つ。しかし全ての班がほぼ同時にカードを並べ、作り上げている。
つまり全員のレベルが格段に上がったことを示している。4問目が終わったところで小休止が入った。
このカルタ取りは頭だけでなく、身体も相当使うらしく、みな肩で息をしている。
だが、小休止とはいえ、各班次の戦いの準備に余念がない。
「文法的に並べなおした方が良くない?」
「名詞だけ取る人とか、動詞だけ取る人とかに分けない?」
「無理だと思ったら体力温存しよう。それからさ、一回休んで3班がどんな感じか見てみない?」
と1班が戦略を練っているかと思えば、
「同じ場所だけずっと見よう」
「単語と全体を見て」
と2班も作戦会議を行っている。
3班独走態勢を何とか崩したいらしい。
小休止が終わった。
立て続けに第5問、6問、7問、8問と読み上げられる。どの班も懸命に中国語を学んできている。
つまり実力的には拮抗している。ただ素早くカードを集め、並べることが勝負の決め手となっているのだ。
「“回信”(huíxìn)あった!」
「“告诉”(gàosu)ってどこ?」
といったカードを探す声に徐々に「疲れた」「暑い」という声が混じるようになった。
11月とはいえ、20度を超える暑さである。冬用の制服で飛んだり跳ねたり頭を使ったりと、カフェテリアの気温が5度くらい上がったような気がする。遂に先生がまた小休止を入れた。
「みんな、ちゃんと休んでよ」
だが、各班休むというより、どうしても作戦会議に熱が入ってしまうらしい。
小休止が終わった。
読まれる文章がどんどん長くなっていく。
「次の問題はあえて入っていない単語を入れます」
第13問を前に先生が宣言した。ここからさらに難易度が上がる。
生徒達はカードを集めながら、そこにない単語を白紙に書かなくてはならない。
緊張が走る中、第13問、14問は1班が得点した。
独走態勢の3班の戦略を真似る作戦が功を奏したらしい。
得点を稼ぎ喜ぶ1班が、
「わたし達、成長していない?」
息を切らせながら聞く。先生がにこやかに頷いた。
「でも疲れてきた、体力がもたない」
「ここにさらに70枚のカードを追加したら大変なことになりそうね。
今日はカードを追加するのは止めにしましょう」
「ここに、カードって何枚あるんですか?」
生徒の一人が床に拡がったカードを見渡した。
「そこにあるだけで100枚はあるの」
「全部書いてくださったんですよね、3班分とも全部。ありがとうございます」
先生がうれしそうに微笑んだ。
最後の10分は、1回に得点できる点数が2倍になった。
解答する際、最初は中国語の文章を発音させるだけだったが、今や先生は日本語の訳も答えさせている。格段に難しくなってきた。
「訳を考えながら組み立ててよ」
間違えた班に先生の激を飛ぶ。
結局、3班が独走態勢を貫き、そのまま優勝した。
3班圧勝の結果に「純粋にすごい」と拍手を送れる生徒達も純粋にすごかった。
「これは検定の対策、特にリスニング対策にもなるから、またやりましょうね」
先生の声にみんなが笑顔で頷いた。
想像していたカルタ取りとは違う、白熱のカルタバトルが終わり、先生に声をかけた。
1学期に取材した際には、“在”を習っている時で、まだみんなおぼつかない感じだったのが、今回のカルタ取りでは、あの時に習っていた“在”をみんな余裕で聞き取り、カードを取っていた。そして格段に発音が良くなっている。数か月でここまで来るとは……。
先生は微笑みながら「みんな小テストを頑張ってきましたから」
確か合格の基準点が高いテストのことだ。
語学はリスニング力が重要とよく言われる。話すことは自分の知っていることしか出てこないが、相手がネイティブの場合、その発言には自分の知らない言葉も当然出てくる。だから聞き取れることは大切だ。このカルタ取りを通じ、生徒達のリスニング力はまた上がったに違いない。
秋晴れの陽が差し込むカフェテリアで先生が優しく頷いた。
「大学での学びにつながってくれれば」
15歳の秋。先生は既に生徒達の先を見据えてくれている。