社会D「地理」『”ブラミズノ” 今昔街ものがたり』【青山学院中等部3年生選択授業】
2021/12/13
1971年に始まった中等部3年生の「選択授業」。中等部生たちの個性をいかし、将来の可能性を伸ばすよう、様々な分野の授業を用意しています。
詳しくは、まとめページをご覧ください。
社会D「地理」
今回は、社会D「地理」の授業についてご紹介いたします。
担当の水野祐輔先生のインタビュー、そして2回の授業(巡検)同行レポートをお伝えいたします。
──授業のねらいを教えてください。
その土地その土地の特徴を知ってもらうことでしょうか。
歴史的な部分や、土地の改変の流れ、人の動きもありますが、その関連性を分かってもらえるようにしたいと思っています。
巡検(地理学で「現地調査」を意味する用語)に出るのは、実際にその場を歩かせる方が見て分かりますし、歩いて体感した方がより分かりやすくなるからです。
準備に時間はかかりますが、この授業には地理がすごく好きな生徒がいます。“歴史好き”は多いのですが、“地理好き”は実はあまり多くいません。地理を学びたいと強く思っている生徒たちの希望も満たせられればとも思っています。
──巡検は1年に何回行っているのですか。
学期に1回ずつ、年に3~4回巡検に行けたら良いなと思っています。
巡検後には、まとめを行います。ただし中学生が一人で全てのことをまとめるのは大変ですので、テーマをいくつか用意し、一人1テーマを選ばせます。そして各生徒がそのテーマについて調査を行い、まとめを作り上げ、発表を行います。最後にみんなの発表をまとめたポスターを作成します。
──巡検の下調べが大変そうですね。
ルート取りは以前通ったことのあるルートを再構成して作っていますが、地図アプリを使用しルートを辿って4kmに収めるようにしています。今はレパートリーがあるので良いのですが、新たなレパートリーを作るとなると大変になると思います。
──どのような文献を参考にされているのですか。
例えば『東京23区凸凹地図』(旺文社)です。表参道の部分は、坂や土地の高低、川についてなどが書き込まれていて分かりやすくなっています。最近では他の地域でもそういった地図が出ているようです。
また今では古地図もインターネットで表示されるようになって、便利になりました。
冊子の地図や江戸時代の切絵図など用途に合わせて使い分けています。
私は地図も好きなので、切絵図などを集めていますが、昔の地図と今の地図を比較するのも好きです。ちなみに江戸時代以降のレプリカなど、旅先で集めています。
──巡検以外ではどのようなことをしているのですか
学院の敷地内の気温の測定を、4月、梅雨時期、10月、と定期的に行っています。冬にも測定を行う予定で、年間を通しての測定値で、等温線をつなげ、地図を作成する計画です。
また、お店の分布など、PCを使って地図を作ることも考えています。
──どのように地図を作るのですか
Excelで情報を打つと地図に出来るソフトがあります。例えば牛丼屋さんの分布を地図にすることもできます。都道府県単位の地図を作ろうと思っています。
また、もう一つ考えているのが表参道周辺のキッチンカーの分布です。調査項目を精査してから調査を行い、地図を作れればと思っています。
授業では一本筋が通っているというよりは、様々なものを取り入れていければと思っています。
──先生は本当に地理がお好きですね。
きっかけは、中学の時の社会科の先生の影響ですね。高校2~3年生の頃から特に地理が好きになりました。自分の専門は農業地理なのですが、「作る作物が土地土地で違うのは気候や都市との距離が関係する」という言葉を聞いた時、腑に落ちました。「この土地にはこの作物が多い」それが理論的に説明できる。それがストンと自分の中に入ってきました。
地理は文系の科目ですが、実は他の文系科目は苦手で(笑)。文章や本を読むよりも数学など理論的に説明できる科目の方が得意です。とは言え、地理ではその地域の歴史も見てく必要があるので、文献などで歴史的背景も調べるようにしています。
──大学でも地理を学ばれたのですか?
東京学芸大学教育学部で社会科教員になるための勉強をし、教育学研究科修士課程まで学びました。修士論文は「三浦半島における農産物直売所の地域構造」というテーマでした。
学生時代、教授方に連れられて、大学周辺の国分寺や武蔵小金井などを巡検で回りました。また新大久保を回ったり、練馬あたりの都市農業を見たり、小平の農村景観や新田作り跡などを調査しました。
今、生徒を連れて巡検に行く場所は大学時代に授業で連れて行ってもらった場所や、教員になってから実習で行った場所などの一部を切り取ったり、再構成したりしたところです。
──1学期の「渋谷・表参道」は新たな巡検のレパートリーですね。
渋谷・表参道は青山学院中等部に勤めるようになってから、開拓しました。休日に遊びに来がてら調べました。表参道は文献も多く、調べやすかったですね。
先日、巡検で訪れた神保町は東京学芸大学付属高校で非常勤講師として教えていた時に、学校の「一日地理実習」の日に回った場所です。当時、高校生たちは右回りルートと左回りルートと二手に分かれて、一日かけて回っていました。その時のルートの一部を再構成し、巡検で巡りました。
──先生の好きな街や通りなどがありましたら教えてください。
一番は、箱根と小田原ですね。ここにはセットでよく行きます。
次は、浅草のかっぱ(合羽)橋ですね。調理器具を買いに行きます。問屋街が好きですね。魚をさばきたいので出刃包丁や刺身包丁などを見立てに行きます。
次は、下北沢です。古着屋や劇団、面白い雑貨屋さんの多い街で、学生時代に古着を買いに行っていました。
──下北沢に古着屋や雑貨店が多いのはなぜなのでしょうか。
調べたことがないので分かりませんが、もしかすると、劇団が多いことで、芝居で必要となる衣料や雑貨のお店が周りにできていったのかもしれませんね。
──箱根が一番という理由はなんでしょうか。
小学3~4年生の頃の教科書に伝統工芸品の職人を紹介しているページがあり、そこに寄木細工職人が出ていました。私の地元は神奈川県なのですが、家族に「教科書に載っている職人さんの所に行きたい」と言ったら、連れて行ってくれました。その職人さんとは未だに交流があり、2~3年に一度は訪れ、寄木細工を購入しています。以来、伝統工芸品が好きになりました。
また地場産業にもとても興味があり、地方に行ったら必ず買うようにしていますし、購入目的でその土地を訪れることもあります。よく訪れる京都では西陣織を、石川では輪島塗、青森の津軽ビードロを、といった具合です。
またお茶も好きなのでその関連で、九谷焼や常滑焼、笠間焼に益子焼など焼き物にも興味があり、ついつい買ってしまいますが、妥協はしません。伝統工芸品は、どうせ買うなら自分が納得できるものが良いですから(笑)。
──懐具合が厳しくなりそうですが、本物を生徒たちに見せることもあるのですか。
実は焼き物の一部を社会科のMS(メディアスペース)に飾っています。ある時、長く飾っていたのでそろそろ下げて良いかなと思って下げたところ、生徒から「あの焼き物はどうしちゃったの?」と聞かれたことがありました。生徒達も見てくれている、興味があるのだなと思いました。
──日本全国を回っていらっしゃるのではないでしょうか。
旅先での街歩きも好きですが、地方ですともっぱら車で回ります。他の人が訪れるような神社仏閣はもちろん押さえますが、地理の観点から、あまり観光では行かないようなところを訪れます。例えば最近SNSで話題になった埼玉・群馬・栃木の三県境や、秋田の八郎潟などです。
いわゆる“三県境”は山の上ですといくつかあるのですが、平地ですと埼玉・群馬・栃木の三県境だけです。1歩で三県跨いだり、左手は群馬に置いて越境したりして遊びました(笑)。
また八郎潟は、北緯40度線と東経140度線の交会点です。10度刻みでの交会点が陸地にある日本唯一の場所なのです。
──先生の巡検の授業を“ブラミズノ”とお呼びしてしまいますが、NHKの「ブラタモリ」はよくご覧になられますか。
見る時間がなくて、ずっと録画を撮り溜めたままになっています(笑)。気になるところから観たいとは思っているのですが……。
地理は人文地理と自然地理に大別され、私の専門は人の営みによってどう変わっていったかを調べていく人文地理なのですが、ブラタモリで紹介される地形や石、火山などの自然地理の部分も楽しく見ています。
──先生は伝統工芸品や職人さんがお好きですし、ご自身も玄人肌で、こだわりをお持ちのようですが、授業でもこだわっていることはありますか。
選択授業だけではなく通常の地理の授業でも、生徒達に手作業をさせるようにしています。色を塗ったり、線を引いたり……。1年次には色使いを教えます。例えば地図にブドウと桃の分布を描く際、「ブドウを桃色で、桃を紫色で描いたら見づらいよね」とか「物が集中しているところを青に、少ないところを赤にすることは通常はしないよね」などと言って、色の表現方法を教えます。
最終的には「地図を描いて、人に伝えられる」という技術を習得してほしいと思っています。
文字だけではなく、図にして、あるいは地図にして表す技法を上手く使ってレポートを書いたり、プレゼンができるようになってほしいとも思っています。それらは、高校、大学、そして社会人になってからも必要となる技法だと思っています。
──これからやってみたいことがあったら教えてください。
今の状況で手いっぱいなのですが(笑)、1時間の授業でも選択授業を持てるようになるといいなと思っています。2時間持てると、巡検ができて良いのですが、1時間の時間の中で、巡検ではない、生徒が地理を好きになるような授業をしてみたいですね。
また理科の先生とは、一緒に授業ができれば良いな、と勝手に思っています。例えば校舎屋上の土地を使って農業園芸“選択園芸”などができればいいなと考えています。理科と地理は近い学問ですので、地理的×理科的観点でコラボができればと思っています。
──また巡検がありましたら、ぜひお誘いください。楽しみです。本日はありがとうございました。
2021年6月16日
地理学は仕組みや理論などを教室で学ぶ座学も大切ですが、実際にその土地に行き、実感することも同じくらい大切と語る水野先生。
社会D「地理学」の【渋谷・表参道】巡検に、配布された地図を片手に同行しました。
12:50 集合
大階段。水野先生からの注意事項説明。
12:56 出発
青山キャンパス正門へ。
12:58 国連大学前
歩道橋を渡り、国連大学到着。国連大学より、青山キャンパスを見る。先生が246の真ん中に中央分離帯があるのを示す。
13:00 国連大学の奥の道
国連大学の奥へと入っていく。
13:05 高層ビルの前
高層ビルの前、プレートがある。
13:15 SHIBUYA CAST./渋谷キャストの階段下
13:17 宮下公園への階段踊り場
宮下公園でしばし休憩。
13:33 宮下公園下
13:40 デパート(西武渋谷店)前
渋谷駅通過。デパートとデパートが空中回廊でつながっている。
13:50 SHIBUYA CAST./渋谷キャスト、アローツリー前
13:55 キャットストリートの上
14:05 キャットストリートの入り口
14:15 同潤会アパート
14:20 みずほ銀行前
14:30 中等部前の道
14:40 中等部に帰還
中等部到着、教室にて解散。
土地の高低差が実は、水の流れと関係していたり、地形を利用した商業施設造りがあったりと、現在の地図、古地図、さらには今いる地面や地形とを見比べつつ歩く授業は本当に特別でした。
写真を撮影したり、遠くから近くから見て頷いたりしていた生徒たちは今日の授業をまとめ、それが社会のメディアスペースに展示されるそうです。
渋谷の巡検の授業を生徒たちがどうまとめてくれるのか、楽しみです。
※巡検に同行した取材班は、くたくたになりました。
2021年10月27日
巡検向きの涼しい季節となりました。
今度は、【水道橋・神田】巡検に、配布された地図を片手に同行しました。
12:45 集合
大階段。先生から注意事項の説明の後、いざ出発。
12:55 出発
中等部門から出発。表参道駅へ。
13:05 表参道駅
半蔵門線に乗車。
13:20 神保町駅
都営三田線に乗り換え。
13:28 水道橋駅到着
地上へ。
電車での引率は気苦労が多いことが分かりました。
13:33 水道橋
白山通り沿いの道より水道橋上に立つ。先生が地図と水道橋を示しながら、昔は神田上水が架かっていたことを説明する。人が通る橋とは別の橋が架かっていたという。
13:35 外堀通り沿いの道
東京ドームを横に見ながら歩く。遊興施設が多い。
13:45 小石川橋
川を眺める。上流の川が二手に分かれている。また下流の川には船が浮かんでいる。先生は二手に分かれた川を指さし、
13:48 高層ビルの前
高層ビルの前、ビルには商業施設が多く入っている。先生は以前ここに神田町駅があったと説明。
13:52 あいあい橋
通過。
14:04 神保町駅
先生より、この辺りが古本の街となっていること、道が狭いため周囲に気を付けて歩くよう注意を受ける。
14:10 古本屋街
先生より古本屋街となった経緯を聞く。
14:14 靖国通り沿いの道
14:15 明大通り
明大通りを上る。カレー屋さんが軒を連ねている。食欲をそそるいい匂いが漂っている。
14:20 明治大学 リバティータワー前
明治大学アカデミーコモンを過ぎると、楽器屋さんが多くなっていく。
14:30 御茶ノ水駅
通過。
14:33 聖橋
聖橋から、線路や川を眺める。
14:45 旧万世橋駅
かつて存在した旧万世橋を見学。駅のホームが残っており、ちょうど中央線の電車が通過して行った。
14:53 地下鉄神田駅前
解散。学校に戻る生徒、家に直帰する生徒。
神田が古書街として発展し、喫茶店やカレー、ラーメン文化が華咲いた理由から、かつて存在した駅の歴史が名残として現在にも続いているところまで、街を歩きながらその成り立ちと発展を知ることのできる授業は本当に特別でした。
1学期の時と違い、生徒たちも写真撮影のスポットを心得ており、ここぞという場所で撮影している姿も印象的でした。
水野先生自身も古地図を探しに神保町に足を運ぶそうです。とにかく歩くスピードが速い。