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4年生授業編①【プロプロ☆プログラミング~初等部プログラミング教室を追え~episode 1】

2021年2学期より青山学院初等部では、民間のプログラミング教室として5万人以上の児童にプログラミング教育を行ってきた株式会社CA Tech Kids(シーエーテックキッズ)とタッグを組み、プログラミング教育を本格的に導入することになりました(詳細はこちらから)。
4~5年生は、毎回1つのゲームを作っていきながら、プログラミングの基礎スキルを学んでいき、6年生では最大の目的である、問題解決にプログラミングを用いた総合的な学びを行っていく3年間のカリキュラムです。

今回は4年桜組の授業を取材しました。

4年桜組の教室へ

初等部3階の廊下は広々としていて、一筋の道のように緑の絨毯が敷かれている。
その緑色の絨毯の道をたどって4年桜組の教室へ——。
と、歩き出してすぐ驚いた。
廊下に面した教室に壁がない。どの教室も中が見えている。

落ち着いてよく見ると、引き戸のような扉が全開されているのだと分かる。本来はこの引き戸のような扉が壁代わりになるのだろう。今は新型コロナウイルス感染症対策のためか開け放たれている。

時期が時期なだけに仕方がないとは言え、こんなに風通しの良い、ある意味オープンすぎる教室で児童達の集中力は切れないのだろうか?
だが、そんな心配は不要だった。

“Scratch”でゲーム作り

井村裕先生がファイルやPCを手に現れると、児童達の目はいっせいに先生に注がれた。「これから何をやるのだろう」「今日は何を学べるのかな」ワクワクして輝く目がそう語っている。わたし達取材班が見ていることなど気に留める児童は一人もいない。

授業)
井村先生を見つめる児童達

井村先生が教卓でPCにログインをすると、児童達も慣れた手つきで一人一人タブレットを開き、ログインし始める。
そしてScratch(学習プログラミングツール言語)を立ち上げていく、覗いてみると全て英語で表示されている。英語版だ!
「今日何のゲームを作りたいかと言うと、これ」
井村先生が黒板にポスターを貼る。
そこには、“ぐるぐるバナナゲットゲーム”と言う文字が大きく書かれており、その下に猫とバツとバーのイラスト。そして、手順が9つほど箇条書きされている。

授業)
“ぐるぐるバナナゲットゲーム”のポスター

「ぐるぐるバナナゲットゲーム!?」
面白そうに笑う児童達に先生もほほ笑んだ。
「面白そうな名前でしょ。今日はみんなで同じゲームを作っていきます。“今はここをやっているよ”ことが分かるように赤い矢印を目印として手順に貼るようにするから、どこをやっているか分からなくなったら見てね」

授業)
“今はここ”と書かれた目印の赤い矢印を貼る

「それじゃ“ぐるぐるバナナゲットゲーム”がどんなゲームかスクリーンに出すよ」
井村先生が今度は電子黒板にゲームを映し出す。
「ボール(マウス操作)で画面の端にあるバナナを目指すゲームだ。もちろん、これはゲーム。すんなりたどり着けるわけではないよ。走り回る猫や中央で回転するバツとバーにぶつからないようにしないといけない。ぶつかるとゲーム終了(ゲームオーバー)になり、上手くバナナまでたどり着けると“GET”と表示されるように作るんだよ」

授業)

次いで、井村先生がScratch上でのファイルの保存方法(英語版)を説明する。
驚くべきことに
「どういう意味ですか?」
などと聞く児童はいない。説明を聞くそばからもう手を動かしている。
次々と立ち上がるScratchの画面に猫を走らせている児童さえいる。

“ぐるぐるバナナゲットゲーム”

電子黒板に映し出されたGOAL(ゲームの完成)を目指し、児童達の試行錯誤が始まった。
今や全員の画面に猫が現れている。
「あれっ、調整が難しいな」
素早く動いていた小さな指先が悩まし気に止まる。
画面を覗くと、猫の動きが速い。
これではボールがすぐに猫に当たり、いつまでもバナナにたどり着くことが出来なそうだ。その後ろで困ったように、うなる児童の画面を見てみると、やはり猫の動きが速い。

猫の動きがせわしない。
緑の旗をクリック(タップ)すると動き、赤いボタンをクリック(タップ)すると止まります

 

Scratch is a project of the Scratch Foundation, in collaboration with the Lifelong Kindergarten Group at the MIT Media Lab. It is available for free at https://scratch.mit.edu

首をひねりながらも児童達は自らの画面と配られたプリントを交互に見つつ何度も指を動かす。
「分かった!」
自信に満ちた入力音と共に声が上がり始めた。その声に画面を覗くと、猫の動きが明らかに遅くなっている。
「えー、分かんないよー」
クラスメイトの困惑の声に「分かった」と叫んだ児童が駆けつける。
気づけば教室のあちらこちらで、隣の席、後ろの席、前の席の児童に「分かった」児童が教え始めている。

授業)
教え合う児童

先生が声をかけた。
「猫の動きは、そのままだと速いよね。どうしたら遅くなる?」
児童達の手が挙がる。
「そう、move 10 stepsは10歩進みなさいだからこの数を小さくすると進む数が小さくなって遅く見えるよね。
じゃあ次、ボールを追加してみよう」
井村先生が電子黒板上で今度はScratchの言語(英語版)を解説していく。
「ボール、みんな出せたね?ボールが猫に触れたらゲームオーバーとなるようにしたいんだけど、どうしたらゲームオーバーに出来るかプログラミングコードを考えてみて」
猫だけではなく、バツもバーも表出させて、その大きさや速度を調整し、ボールに当たったらゲームオーバーとさせなくてはいけない。
児童達は手を動かし、試行錯誤し始める。

授業)
試行錯誤する児童

「もしかして分かるかも」
晴れやかな声が上がる。
児童によって進み具合が違い、バーの出し方が分からない児童もいれば、早くも全て終了し、提出方法を確認している児童もいる。だが、共通しているのは、どの段階であっても児童同士で教え合い、助け合っているのが教室のあちらこちらで見受けられることだ。

授業)
児童同士で教え合い、助け合う

「分からない」と聞けば、先生達(今回の授業には二人の先生が補助に入っていた)より先に「分かった」児童が駆けつけ、
「どこが分からないの?」
「無理じゃないよ」
と励ましながら、進めていく。
「これ、結構難しいな」
と言う声が徐々に、
「ありがとう、分かったよ」
「楽しい」
「帰ったらScratchやろうかな」
と言う声に変わっていく。

授業)
ぐるぐるバナナゲットゲーム

突破のための糸口

バツやバーそして猫を避けてボールをバナナまで動かす。
ゲームとしては単純だが製作するのは大変だ。
細かな設定を正しく行わなくてはならないからだ。
「出来ない」で諦めてしまうのは簡単だが、諦めずに考え、突破していくことは難しい。しかし、たとえ間違えたとしても何度でもやり直すことが出来、それでも出来なければ友達の手を借りて出来るようにする——。
この授業では困難の乗り越え方や突破するための糸口の掴み方、困っている子の助け方まで学ぶ授業にも思えた。

授業)

「完成したら、4年桜組のTeamsに入れておいてね。コメントをつけて返します。提出し終わったら改造していいよ」
井村先生の声を合図に、児童の一人は背景を宇宙空間のイラストに変えた。
「これは高度なゲームになっているよ!!」
補助に入っていた先生が児童の画面を覗いて舌を巻いている。
その時、授業が終わった。
あっという間の40分だった。
「今日のゲームは1週間後までに提出してね。明日、正解のビデオを公開するので今日上手く出来なくても、それを見ながら作れば修正出来るようになるからね」

プログラミングの授業は始まったばかり……。
今はforever(ずっと)ifthen(もし~なら)など基本的な必須言語を学んでいる段階だが、ここからどう成長していくのか、これからが楽しみだ。

Scratch is a project of the Scratch Foundation, in collaboration with the Lifelong Kindergarten Group at the MIT Media Lab. It is available for free at https://scratch.mit.edu

(取材:茂/香/M/聖)