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オリジナルゲーム作り2~その①【プロプロ☆プログラミング~初等部プログラミング教室を追え~episode 4】

プロプロ☆プログラミングへようこそ

2021年から本格的に始まった青山学院初等部のプログラミング教育も早1年。
5年生になった青山学院初等部生たちは格段に難しくなったプログラミング授業に奮闘している。

2022年、秋――。
ついにオリジナルゲーム作りに挑戦することになった。

約1年前(当時4年生)にも挑戦したオリジナルゲーム作りだが、昨年との違いは、グループ作業からペアで作業することになったこと。そして発表の方法も一工夫あるという。


まずは今回の課題について、井村裕先生にたずねた。

オリジナルゲーム作りのポイント

──井村先生、まずは今回の課題について教えてください。
既にプログラムが作られている簡易ゲームをもとに、改造してオリジナルゲームを作ります。この点は昨年と同じですが、作業は2人1組(場合によって3人1組)とし、発表はパワーポイントを操作しながらではなく、出力した紙をホワイトボードに貼りつけ、その前で説明する、いわゆるポスターセッションにしました。

──それではもととなるゲームについて教えてください。
5つのゲームのうち、1つを選んで改造していきます。改造されることを考えて、もととなるゲームはあえてシンプルな作りにしています。
お題A:ドラゴンが左右キーで動き、スペースキーで攻撃を加えられる。

緑ボタンでスタート。赤ボタンで停止。左右キーでドラゴンが動き、スペースキーでドラゴンが火をはく

お題B:左右キーで動き、スペースキーで雷を打てる。

緑ボタンでスタート。赤ボタンで停止。左右キーでネコが動き、スペースキーで雷を打てる

お題C:文字を重ねることができる。

緑ボタンでスタート。ドラッグ&ドロップで同じ文字を重ねていく。

お題D:Q and A クイズを出せる。

緑ボタンでスタート。ネコがクイズを出し、答えを入力するようになっている。

お題E:ネコをマウスで動かし、クマから逃げる。

緑ボタンでスタート。ネコをマウスで動かして、追ってくるクマから逃げる。クマに捕まると、ネコの動きがおかしなことに(?)

──改造のポイントは?
改造のポイントは

2人で遊べるようにすること
☞スコアを用意したり、操作できるキャラを増やすなどの工夫が必要

クオリティを上げること
☞アイテムや敵キャラを増やす、スタートやエンディング画面を作るなどの工夫が必要

遊びやすさを上げること
☞ハンデ機能をつけたり、難易度を変えられるようにしたりするなどの工夫が必要

になります。

プログラミングの改造、ポスター作りまでの授業は計4回。果たして時間内に課題をこなし、ポスターセッションまでたどり着けるのか

メディアルーム

10月中旬の朝、曇りがちな月曜日。
冬に向かう寒さも暗さも初等部の校舎に一歩足を踏み入れると一変する。
廊下や階段の鮮やかなビタミンカラーが目に飛び込んでくるせいなのかもしれない。

コンピュータ室は初等部校舎の2階にある。
廊下の扉を開けた途端、左手側にメディアルームが現れる。

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“室”と呼ぶには違和感があるくらいのオープンスペースだ。
とにかく壁がない。
もちろんドアもない。
廊下から地続きになった教室で、緑あふれる中庭の光が窓から降り注いでいる。

もともとコンピュータ室だったという、メディアルームだけに、デスクトップのPCが机に固定された部屋を想像するが、デスクトップどころかノートタイプのPCもない。そもそも机が固定されてすらない。
机にはキャスターがついていて、自由に移動できる。天板の形も真四角ではなく、先のとがった鉛筆型だ。

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不思議に思ってその机を見つめていると、井村先生が、
「これはいくらでもくっつけられるんです。今日は2人1組になるよう配置していますが、その時々に応じて4人とか6人とかのグループにすることができるんです」
と、説明してくれた。

すると向こう側から、
「今までのコンピュータ室と違いますね」
と、株式会社CA Tech Kidsの神田さんが感心したように声をあげた。
鉛筆型の机に興味津々だったのは取材班だけではないらしい。

ちょうどその時、廊下の扉が開いて、大学教育人間科学部教育学科教授の杉本卓先生が大学院生2名と連れ立って現れた。

みんな、これから始まるオリジナルゲーム作りの授業を観にきたのだ。

 

課題発表

初等部5年梅組の児童達が礼拝を終え、タブレットを手にやってきた。
「さあ、教室で着席する時と同じように座って」
井村先生が声をかけると、みんな素早く席に着く。

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「それじゃあWiFiにつなげて……」
井村先生の指示に児童達の小さな指がタブレット画面を滑っていく。
慣れているのか、戸惑う児童は一人もいない。

ものの数分で全員WiFi環境下になったらしく、授業が始まった。
井村先生はスクリーンの前に立つと口を開いた。
「2学期の始めに話していたオリジナルゲーム作りだけど、今日からその作業を行っていくよ。まずはプリントを配ります」
井村先生がプリントを配りながら説明を始めた。

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「5種類のゲームの中から、どれでも好きなものを選んで改造して、それを発表してもらう。ここまでは昨年もやったよね。発表についてはポスターセッションにするよ。あそこにホワイトボードがずらっと並んでいるけど、あれは持ち運べるホワイトボードなんだ」
児童達が感嘆の声を上げた。

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「授業4回分をかけてオリジナルゲームと発表資料を作ってもらう。プリントを見て。今日はペアでどのゲームを改造するかと、いつまでに何を完了させていくか計画を立てて、プリントに記入していって」
プリントを見つめる児童達は真剣そのものだ。
先生は続けて5種類のゲームについて説明する。スクリーンに次々と表示されるゲームのデモンストレーションに児童達の歓声が上がる。

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「5種類のゲームから1つを選ぶ、あるいはいくつか組み合わせて改造するのもありだよ。ただ原型をとどめないほど変えてしまうのはダメ。もとになるゲームに加えていく方が良い。あともう1つ、今回のオリジナルゲーム作りのテーマは、「2人で遊べるゲーム」だ。2人で遊ぶというのは、キーボードを2つに分けて同時に遊べるようにしてもいいし、交互に遊べるようにしてもいい。とにかく2人で遊べることが重要だよ。ちなみに通信は難しいから、通信を使って連動させるゲームは除外する。それじゃあ話し合いを始めて」
さっそく児童達は2人1組、ないし3人1組となって話し始めた。

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それぞれのタブレットを突き合わせて話し合いをしているペアがほとんどだ。
まずはどのゲームが良いかについての話し合いだが、あるペアを覗いてみると――。
「Aがいいと思うけど、どう?」
「楽しそうだけど、Bはどう?」
「じゃあさBでやってみて失敗したら変えるってのはどう?」
穏やかな話し合いが続いているようだ。

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「ねえcat(※キャラクター)は80くらいにしない?」
「catが50で雷30ってするのは_」
と、ゲームを選び終えたのか、すでに改造のポイントについて話し合っているペアもある。
その時、井村先生が、全員に声をかけた。
「改造したらその理由も必要だよ。どこをどう変えたか、その理由もちゃんと言葉に出来るようにね」
その言葉に反応したあるペアは、黙々とプリントに今後の計画を書き込みはじめた。すでにゲーム作りを初めているらしく2人の目の前にあるタブレット画面は簡素な白い背景から海の中をイメージさせるブルーに変わっている。

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「ゲーム名はどうする?」
「under the sea runっていうのは?」
「そうだね、クマをsharkに変えて、ネコをangel fishに変えたから、良いネーミングだね。命名の理由は海の中にしたかったからにしよう」
2人でまた鉛筆を動かしている。

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気が付けば各ペアの画面が海の中やサッカー場、雪原や森林など様々に変わっている。
その時、ある3人組の児童から、
「先生、雷を落とすってどうやるの?」
まるで魔法学校にいるかのような質問が飛び出したが、井村先生は冷静そのもので、
「change yにして……」
とプログラムを説明している。
この3人組は分業したらしく、雷の落とし方を聞いた児童がプログラミングを担当し、他の2人が背景を担当するらしい。

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授業終了時間が近づくと、井村先生が壁にある時計を見やった。
「そろそろ今日のプリントを撮影して、提出してね。どんな作業をしたかきちんと言葉で説明できることが大切だよ。プログラムを変えて、オリジナルゲームが出来ても、それだけでは不十分。改造のポイントを表現出来ることが重要だからね」
授業が終わり、先生から片づけを促されても数ペアは残って話し合いを続けていた。

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しかし10時5分前にもなると、あっという間にクラスが入れ替わる。
今までプリントの写真を撮ったり、話し合いを続けたりしていた5年梅組の児童達がいなくなり、タブレットを持った5年桜組の児童達がやってきた。