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オリジナルゲームを作ろう~その③【プロプロ☆プログラミング~初等部プログラミング教室を追え~episode 2】

オリジナルゲーム作り最終回

プログラミングの授業の集大成として取り組むオリジナルのゲーム作り。今回は、いよいよ発表会。
今までに作った2つのゲームのどちらかを選んで改造し、新たなオリジナルゲームを作り、改造したポイントをグループごとに発表する。
本来は2月に予定されていた発表会も、新型コロナウイルスの影響で延期になり、事前準備は全てオンラインで行うことに……。
はたして初等部4年生たちは、プログラミングの授業教材を手掛けるCA Tech Kids様も見守る中、上手に発表できるのか。

今までのエピソードについては12をご覧ください。

発表会

初等部の校舎に入るとすぐに株式会社CA Tech Kidsの上野朝大社長、松倉健悟さん、サイバーエージェントの浮田光樹さんと出くわした。行き先は同じ。4年桃組で行われるオリジナルゲームの発表会!
教室までの赤い色の廊下も階段もより暑く感じたのは、3月とは思えない暑さのせいばかりではなかった。4年桃組の教室は、より熱い熱気に包まれている。

発表会)

4年桃組の教室

 

児童たちは既にみな着席していた。お行儀良い感じなのだが、何か浮き立つような空気が漂い、独特の緊張感と熱意に満ち満ちている。
めいめいの机にはタブレット端末が置かれ、ゲームプログラミングの書かれた画面を映している児童もいれば、発表資料を映し出している児童もいる。みな発表準備に余念がない。

発表会)

発表資料を映し出している

 

授業が始まるとすぐに井村裕先生が口を開いた。
「オンラインで準備が大変でした。今日は前に出てきて、発表をしてほしいと思います。1グループ2~3分で発表をお願いします。ジャンケンをして順番を決めよう」
順番決めのジャンケンというだけで異様な熱がこもった。
戦略を考える上で順番は重要だから無理もない。

発表会)

熱気あふれる発表順決めジャンケン

 

児童たちの悲喜こもごもにあっても井村先生は冷静だ。涼しい顔で口を開いた。
「決まったね。ではA1、A2、B1、B2、C1、C2、D1、D2という順番で発表してもらいます。ゲームをどう改造したのかを発表して、できれば最後にゲームのプレゼンをしてね。できなければしなくてもいいから。それではA1グループは前に出てきて、タブレットで画面共有して、発表モードで発表をして」
画面共有? 発表モード? 日本語だと分かるだけで、何をどうするのか分からない。
と、戸惑うのは取材班だけだ。A1グループの3名はジャンケン大会での騒ぎなどなかったかのように、素早く教室の前に出ると、タブレットを操作し始めた。
あっという間に教卓脇の電子黒板に発表用のパワーポイントが映し出される。
「これからA1グループの発表を始めます」

発表会)

A1グループの発表の様子

 

“ロケットシューティングゲーム”。
それがA1グループのオリジナルゲームの名称だった。
“的当てゲーム”がロケットから球を発射して得点していくゲームに変わっている。
改造点は、ロケットを矢印キーで左右に動かせるようにしたところ。球をスペースキーで打てるようにしたところ。見づらいマウスポインターを見やすく改造し、的を数字に変え分かりやすくしたところだ。
ゲームのプレゼン資料は、背景が凝っていて、色使いが奥行きを感じさせる。赤がプラス、青がマイナスと小学校1年生も感覚的に分かるように変えられている。

 

続くA2グループは“恐竜から逃げよ”ゲームを改造していた。
こだわりはキャラクターの変更だ。
小学校1年生に好まれるように、そして見やすく大きくするために虫を犬に変え、犬との大きさのバランスを取るために、恐竜をスリムなドラゴンに変えた。また背景をカッコ良い宇宙空間に変えた。
そして、もう1つのこだわりは、逃げる犬からも攻撃ができるように変えたところだ。なんと犬から雷が打てるという。

発表会)

A2グループのオリジナルゲーム

 

窮鼠猫を嚙む、ならぬ窮犬龍に雷を打つといったところだろうか? 
しかし、ドラゴンが強固なウロコに覆われているため、連続で雷を打たないと、ダメージを与えられない。この細かな設定が心憎い。
負けても落ち込まないよう「また頑張ろう」という励ましのメッセージも表示されるようにした。
ゲームのプレゼンでの盛り上がりは、すさまじかった。
BGMも功を奏し、ものの数秒のプレゼンなのに、教室中の気持ちが集まり、ドラゴンから逃げる犬に全員が一喜一憂した。

 

B1グループも“恐竜から逃げよゲーム”を改造していた。特筆すべきはプレゼン。
そして、パワーポイントの作りこみだ。
パワーポイントの機能を駆使して、カーテンが開くように画面が移り変わったかと思えば、見ている画面が紙飛行機になって飛んでいき新しい画面に転換する。要するにプレゼンテーションの画面転換が凝っているのだ。

発表会)

B1グループの発表資料

 

ゲーム改造のこだわりは4つ。
1つ目は、男子も女子も楽しめるようにキャラクターを変えたところだ。追う役である恐竜をライオンに、逃げる役である虫をウサギに変えた。
そして2つ目は、キャラクターに合わせて背景をサバンナに変えたところ。
3つ目は、キャラクターに合わせてゲーム名を“急げラビット”とワクワクするような名称に変えたところだ。
4つ目は、ライオンがウサギを捕まえると、音が出るようにして楽しめるようにしていた。

 

B2グループは“新的当てゲーム”という名前のオリジナルゲームを作った。
「1年生でも分かりやすいように、楽しい!と思えるように、そして何回でもゲームを楽しみたいと思うように」このコンセプトのもと、なされた工夫の数々は思いやりにあふれていた。

発表会)

B2グループの発表の様子

 

まず、全ての漢字に読み仮名をふり、小学校1年生でも分かるような表現に変えている。
そして、ゲームの秒数を10秒から15秒にし、難易度を落として的であるボールをキャラクターに変更。得点ごとに分かりやすくした。
また、かけ算割り算をまだ習っていない小学校1年生でも楽しめるように点数を固定に変えた。
例えば通常2倍の得点を稼げるボールをヒトデに変更した上で、得点をプラス5に変え、また誤って当ててしまうと減点されるボールはそれぞれヘビとコウモリに変更している。

発表会)

B2グループの発表資料

 

ゲーム中でも得点できる点数が分かるように、キャラクターの上に得られる点数を常に表示させ、さらに達成すべき得点も常時表示。ゲーム中、何をやっているのか分からなくならないようにした。
クリアすると「おめでとう」と音が鳴り、失敗しても「残念、また頑張ろう」の応援メッセージが表示され、モチベーションを上げる工夫もされている。

 

C1グループも“的当てゲーム”を改造していた。改造ポイントは背景をブルースカイという鮮やかな色調に変え、プレイヤーが楽しくなるようにした。
そして、文字を平仮名とカタカナに変え、さらに分かりやすい言葉に変更した。一番の工夫は、ゲームを開始する前に猫がゲームの説明をしてくれるところだ。小学校1年生でもルールが分かり、ゲームに入りやすくなる。

発表会)

C1グループの発表の様子

 

 

C2グループは「1年生に、できるだけ楽しく分かりやすく」をコンセプトにゲームを改造した。
男の子も女の子も楽しめるように、背景とキャラクターを変え、さらに音楽もつけた。やはり1年生への配慮から文字は全て平仮名にした。
また、ピンクボールに触れると5点得られ、50点取れるとクリアできるようにゲームを単純化させ、1年生が分からなくてイライラしないよう工夫している。クリアしたら「クリア、おめでとう」というメッセージを流し、達成感が得られるように工夫した。

発表会)

C2グループの発表の様子

 

 

D1グループのゲーム名称は、“新的当てゲーム”。
これはB2グループと同じネーミングだが、工夫しているポイントは異なる。
「飽きずに楽しめるように」のコンセプトのもと、的が4つあるところを3つ消し、キャラクターを変え、球の種類を2つに増やした。とにかく小学校1年生が楽しめるようにと背景を変え、分からなくなって途中で投げ出さないよう工夫がちりばめられている。
また、背景を白から赤にし、結果の表示を見やすく分かりやすくなるようにしている。
実際のゲームのプレゼンでは「すごい」「楽しそう」「ゲームをしてみたい」という声があちこちから聞かれた。

発表会)

D1グループの発表資料

 

 

D2グループは、“1年生!! 恐竜から逃げよゲーム”とタイトルを変えた。
とにかく「分かりやすく簡単に」をコンセプトとし、背景をジャングルに変え、キャラクターの数を増やし、魅力あるものに変えた。
またゲームオーバー時にプレイヤーを傷つけないように「ドンマイ」というメッセージが流れるようにし、文字も平仮名とカタカナにする工夫を施した。
ジャングルの背景もHP(スコア。恐竜に当たってよい数)が減ったら動くようにし、1年生が楽しめるようにした。HPを元々持っている5ではなく10にして、HPが0になった時だけではなく、5になった時も背景を変えるようにした。

発表会)

D2グループの発表の様子

 

 

全てのグループの発表が終わると、井村先生が「それぞれ工夫されていて面白かったと思います」と総評を述べた後、CA Tech Kidsの松倉さんにマイクを渡した。
松倉さんは、自分がプログラミング授業の教材となったゲーム作りを担当していると自己紹介した後、

発表会)

CA Tech Kidsの松倉さん

 

「オリジナル作品を見て、2つびっくりしたところがあります。1つ目はオンライン上で準備したにも関わらず、ゲームの仕上がりがすごかったところです。“1年生が楽しめる”ゲームを作るだけでも大変なのに、それをオンラインで行ったことに驚きました。そして、どのグループも、どうしたら1年生が楽しめるかをちゃんと工夫できていました。そして2つ目は発表時のスライドが見やすく分かりやすかったところです。コンセプトから改造のポイントまできちんと説明されていて、それが実際のゲームに反映されており、本当にびっくりしました。素敵なゲームそして素敵なプレゼンテーションを見せていただき、ありがとうございました。良いプレゼンテーションと良いゲームを作ったグループには賞を差し上げます」
児童たちの興奮が高まった。

「それでは発表します。CA Tech Kids賞はB2グループです」
落胆と歓声は同時だった。
「受賞した理由は」
松倉さんがやや声を張り上げた。
「どうすれば1年生にとって分かりやすいか、問題を分解して考えられていたところです。そしてどういう変化をさせたのかが、表で示され、一目で分かるようにするなど発表資料にも工夫が見られました。ヘビとコウモリという悪い感じがするキャラクターがマイナスポイントになるなど、ゲームの改造ポイントもコンセプトに合っていました」
クラス中に拍手が巻き起こった。

次に、サイバーエージェントの浮田さんが前に出た。ゲームを作るリーダーをしているという簡単な自己紹介の後の総評、
「驚いたのは、みんなゲームのイロハが分かっている」
その言葉に取材している私たちまで心が躍った。
ゲーム作りを本職にしているリーダーの浮田さんからの言葉は大きい。

発表会)

サイバーエージェントの浮田さん

 

「説明を入れたり音楽を入れたり、ダメでも次をやりたいと思わせる工夫。ユーザーである小学校1年生に対する心配りを感じました。みなさんはゲームを作る人として一人前かなと思うので、賞を選ぶのが非常に難しかったのですが、サイバーエージェントからも賞をあげたいと思います。発表します。サイバーエージェント賞は」
児童たちの興奮が最高潮に達した。
「A2です」
歓声と拍手が巻き起こった。
「理由はゲームの完成度が高かったところです。効果音がついていたり、BGMがあったり、あとは何よりゲームのプレゼンでみんなが盛り上がっていたところにゲームの完成度の高さを感じました。これからも勉強もプログラミングも頑張ってください」
続く表彰式(シールがプレゼントされた)では再び大きな拍手が巻き起こった。

9月から始まったプログラミングの授業だったが、たった半年間で1年生向けのゲームを作れるまでになった4年生たち。あと2年、どれだけ成長していくのか今後が楽しみだ。

発表会)