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開発者に聞く! 教材とプログラミングの授業【プロプロ☆プログラミング~初等部プログラミング教室を追え~episode M】

2021年2学期より青山学院初等部では、民間のプログラミング教室として5万人以上の児童にプログラミング教育を行ってきた株式会社CA Tech Kids(シーエーテックキッズ)とタッグを組み、プログラミング教育を本格的に導入することになりました(詳細はこちらから)。
4~5年生は、毎回1つのゲームを作っていきながら、プログラミングの基礎スキルを学んでいき、6年生では最大の目的である、問題解決にプログラミングを用いた総合的な学びを行っていく3年間のカリキュラムです。

今回は5年桜組の授業見学後、CA Tech Kidsの教材開発者の松倉健悟さんにインタビューしました。

授業)
CA Tech Kidsの教材開発者の松倉健悟さん

 

授業を見学されて

──本日、授業を見学されていかがでしたか
5年生の授業を拝見し、難易度の高いことをしているなと思いました。

──難易度が高いとは? どのあたりでしょうか?
授業のやり方、進め方についてです。担当の井村先生は司会者として方向性を決めることに徹していらっしゃり、児童達が自分達で考えて進めているところです。
児童達は頭を抱えながらも周囲の子に助けを求めたり、分からない児童同士でも協力して考えていたりと、既に「協力して学ぶ」を実現していると感じました。

──松倉さんが開発された教材は想定通りの使い方をされていましたか
想定以上でした。
実は、もっと「分からない」という声が出ると思っていましたが、想定よりも出ていなかったですね。そして分からない子をサポートする児童達の姿が想像以上でした。

──想像以上というと
2~3人のすごく得意な子がいて、その子達がサポートする、そんな風にイメージしていましたが、実際はそうではなくて「ちょっと出来る子」でもサポートしてあげたり、「すごく分かるわけではない子」も横の席だから一緒に考えたり、“みんなで一緒に考える”という姿が想像以上でした。

授業)
お互いの頭を突き合わせ一緒に手を動かす児童達

 

3年間のプログラムの狙い

──4年生から3年間のプログラムについて、それぞれの狙いは何でしょうか
現在、5年生も6年生もプログラミングを学んでいますが、4年生から3年間かけて学習するのが基本の形です。4年生では○○、5年生では○○、6年生では○○を学ぶのではなく、4、5年生でプログラミングの基本を学び、6年生では、それまで学んだプログラミングの基本を活かし、問題解決のツールとしてプログラミングを使いこなせるようになりましょうとゴールを決めています。ゲームを作れるようになるというよりは、あくまでも何かを解決するための手段として使いこなせるようになって欲しいというのが狙いです。

カリキュラム)
3年間の流れ

──解決する手段としてのプログラミングとは、どのようなことでしょうか
日常生活の様々なこと、例えば、授業開始のチャイムが鳴ってから静かになるまで時間がかかる問題をプログラミングで解決してみようとか、忘れ物がないように朝確認をするのにプログラミングを使ってみようとか、クラス替えの際には新しいクラスメイトの名前を、すぐに覚えられるようにプログラミングを利用しようとか、ツールとして使いこなせる。そんな風になってくれれば良いと思っています。

──今年の4年生が3年間でどう成長するかですね。子ども達の発想についてはいかがでしたか
発想の豊かさばかりを感じました。今日の授業では、キャラクターを左右に動かすためにX座標とY座標についての概念を習いました。たいていは習った左右の動きしか考えないものですが、すぐに違う発想をする児童達がいる。先生が「あるテーマに沿って変えなさい」と言うと、既に応用している児童もいました。しかも目的を持って変えている。
図画工作で何か作った物を変えるには物理的な道具が必要ですが、プログラミングは画面の中だけですぐに変えることができます。
今日はリンゴ、バナナ、オレンジの3種類の果物を同じ15度に傾けて、同じように動かすというプログラミングを行いました。全て同じ15度で同じプログラムです。それについて「同じプログラムなのに、同じ動きにならないのは何故?」と児童から質問されました。児童はそこに気が付き疑問に思ってくれた。それが、とても嬉しかったですね。

授業)
児童からの質問に答える松倉さん

 

プログラミングのオリジナル教材について

──“どきどきハラハラゲーム”などゲームの名前が個性的ですね。松倉さんが考えたのでしょうか
はい。真面目すぎないように心がけました。
また面白いと思ってもらえるように、そして、ツッコミどころのあるタイトルをと考えていくうちに楽しくなっていき──自分自身も楽しんで作っています。

──CA Tech Kidsさんの教材について伺います。プログラミング教育先進国のデータや教授法などを取り入れて作られているのでしょうか
世の中にある教材や情報を研究し、参考にしていますが、とりわけ2013年からCA Tech Kidsスクールの教育の中で培ったことを一番参考にしています。
CA Tech Kidsスクールでは4回の授業につき1回テストを実施するのですが、こういう教材だと学習効果が高い・低いというのがテストから明らかになります。例えば、プログラミングコードでは“ずっと”→“角度”→“座標”と、この順で学ぶとよく伝わります。どの知識をどの順で学ぶとより効果的かがデータから分かりますので、定着しやすいように教材を組み立てています。

──学校用の教材としてカスタマイズしたところがあれば教えてください
教材はCA Tech Kidsスクールとほとんど同じですが、青山学院初等部の学ぶスピードが圧倒的に速いため、難易度が高いものとなっています。その学習理解度のスピードに合わせて、教材を組みました。

──スクールだと指導者1人に子ども3人程度となるため、それぞれのペースで進められる。しかし学校だと先生1人に児童32人。も学校では遅い子に合わせなくてはいけないとなると、なかなか速くできないイメージもあるのですが
今回は井村先生と協力して行っている形ですので、速め、難しめに作っています。とはいえ、学習の進捗状況に合わせ、私の方では適宜調整できる環境、体制も整えています。

授業)
5年桜組のコンピュータの授業をする井村先生

 

──コンテスト出場なども想定されていますか
オリジナリティが出てこないと、現段階では何とも言えないですね。
例えば「冬休み前に作ったゲームを休み中に改造し、休み明けに改造したものを発表する」という機会があると良いかもしれません。

──上野朝大社長(CA Tech Kids代表取締役社長)がインタビューで仰っていた「苦手意識を持たさない」工夫は、教材や教師の教え方にも関わりがありますね。どのような点を特に工夫していますか
苦手意識を持たさない工夫については、成功体験をいくつも経験させてあげられるよう教材を組んでいるところにあります。
今日の授業で言えば、リンゴ、バナナ、オレンジの3つを全く同じプログラムで動かします。つまり1つ目の果物が動かせれば、後は他も同じように動かすことができる。また、今日の授業で出てきた果物を動かすプログラムは、実は、前回も前々回も出てきています。回をまたいでも“できる”という経験をさせるようにしており、これは反復学習ともなっています。
そして果物を右に動かすプログラムについては授業中で行いました。左へ動かすプログラムについて、井村先生はあえてヒントを与えるだけに留めていらっしゃいましたが、児童達はヒントを元に左に動かすプログラムを組むことも出来ています。出来る子を飽きさせない工夫も考えていらっしゃいます。

──教授法についての工夫も、ポイントのようですね
当初は教授法、伝え方の事例を提示するようにしていましたが、井村先生の教え方が上手だということもあり、今は細かいところまでお伝えしていません。
実際に井村先生の授業を拝見して、私達は予定調和的に授業を進めさせようとしすぎていたと感じました。「全員ここまでやったね、はいじゃあ次行こう」と、もっと厳格にピシッピシッピシッと一工程ずつ進む授業を想定していました。しかし実際の授業はそうではなくて、児童達の進み方はバラバラでも、協力し合い結果的にみんな進んでいました。青山学院初等部の児童みなさんの特性も考えなくてはいけないのだなと、新たな発見をした思いです。

授業)

 

──プログラミング教育が今後初等部教育の柱の一本になりますね
そうなってもらえると嬉しいですね。英語教育はもちろんのこと、プログラミング教育も大きな柱の一つとなるようにできれば、と思っています。