【もっと知りたい!ドクター通信】熱中症対策2020
2020/07/22
熱中症は「暑さに体が負けた状態」です。暑い環境下での体調不良は熱中症の可能性があります。軽症には「熱失神(立ちくらみ)」、「熱けいれん(ふくらはぎのこむら返り)」があり、中等症の「熱疲労」では倦怠感、頭痛、吐き気、下痢などが見られます。重症の「熱射病」では高体温に加え意識障害が見られ、肝障害や腎障害から死亡する場合もあります。
熱中症は暑さ指数(WBGT※)22℃以上で発生しはじめ、28℃以上になると急増します。湿度が高ければ気温がそれほど高くなくても発生します。年に30~40万人が病院を受診し、猛暑の年には2,000人前後の方が亡くなっており、その半数が高齢者です。高齢者は住宅で、成人は作業中、中・高校生は運動中に多く発生しています。とくにランニングやダッシュなどの走る運動で発生しやすく、激しい運動では運動開始30分で発生した例もあります。今、世界は新型コロナウイルス感染症で大騒動ですが、日本の新型コロナウイルス感染者は22,220名、死亡者982名(2020年7月13日現在・厚生労働省)です。熱中症患者の人数は新型コロナウイルス感染症以上に多いのですが、予防可能で、かかった場合もすぐに応急処置をすれば重症化を防げます。
熱中症の重症度は、
Ⅰ度(意識がはっきりしていて現場の応急処置で対応できる軽症)
Ⅱ度(意識がもうろうとして病院搬送を必要とする中等症)
Ⅲ度(意識のない状態で入院が必要な重症)
と分類し、意識の程度でざっと判断します。熱中症を疑った場合は、すぐに涼しい場所へ移して体を冷やし、水分を自分で補給してもらいましょう。 そして、誰かが付き添って見守り、自分で水分を摂れない時や、意識の低下が少しでも感じられた時にはⅡ度以上と判断してすぐに病院へ搬送しましょう。
熱中症は行動・衣服・住環境の工夫、水分補給および体調管理で予防できます。ゆったりした衣服にして、屋外では日傘や帽子を使い、室内ではエアコンや扇風機を使いましょう。
運動や作業時の熱中症予防には個人の努力とともに集団内における配慮も必要です。責任者は、暑い場所での運動や作業はなるべく短時間で済ませ、個人に無理をさせないローテーションを組み、30分に1回は休憩を入れるようにスケジュールを工夫します。
そして、こまめに水分と塩分を補給することです。人間は、軽い脱水ではのどの渇きを感じないので、活動開始前から水分を摂り、のどの渇きを感じるより早いタイミングで水分を補給することが大切です。起床時や入浴前後も意識して水分を摂りましょう。なお、アルコールは利尿作用があり、飲んだ以上の水分が尿として失われるため不適切です。
体調管理も重要です。まずは暑さに慣れること(暑熱順化)です。やや暑い環境で毎日30分程度ウォーキングなどの運動を行うと3~4日で汗をかきやすくなり、体温が上昇しにくくなります。さらに3 ~4週間運動を続けると汗から無駄に塩分をださないようになって熱けいれんなどの塩分欠乏による症状をおこしにくくなります。日ごろから定期的に運動をしてください。また、体調がよくない時には暑いところでの活動を控えましょう。
今年の夏は新型コロナウイルス感染対策と熱中症対策の両立が必要です。感染対策としてはマスク着用が望まれますが、熱中症対策にはマスクをしないほうがよく、その見極めが大切です。
閉鎖空間内では感染対策上、マスクなどの咳エチケットが望まれます。ただし、気温・湿度が高い中でマスクを着用していると体温が上昇しやすくなり、口内の保湿からのどの渇きも感じにくくなるため、熱中症のリスクが高まります。また、マスクを外すことに躊躇して飲水を控えがちになります。水を飲むのにマスクを外しても咳や会話をしなければ大丈夫ですので、定期的に水分を補給しましょう。エアコンを使う場合には窓を30分に1回はあけて数分間換気をしましょう。その際はエアコンの温度設定をこまめに調整してください。
屋外では人と十分な距離(2m以上)がどうしても確保できない場合を除いて、原則マスクを外しましょう。屋外では呼吸による飛沫はすぐに蒸発し、ソーシャルディスタンスを保てれば感染リスクはほぼありません。それよりは自分の熱中症リスクを考慮しましょう。
※環境省「熱中症予防情報サイト」 https://www.wbgt.env.go.jp
Q 昔、「日射病」という言葉をよく聞きましたが、最近ではあまり聞かなくなりました。「熱中症」との違いはあるのでしょうか?
A 「熱中症」がより大きな概念で、その中に「日射病」が含まれます。昔は「暑気あたり」や「暑さ負け」と言っておりました。昭和後半になると、炎天下が原因で引き起こされる「日射病」と直射日光にさらされたわけではない「熱射病」とを区別するようになりました。でも、症状も治療も同じなので、平成に入ったころより両者を区別せず「熱中症」にまとめて、一つのガイドラインでまかなうようになり今に至ります。