イノベーションを護れ! SecHack0(セクハッコー)からの挑戦状~中等部で学ぶセキュリティ×イノベーション
2025/11/07
青山学院中等部では中等部3年生がそれぞれの個性をいかし、将来の可能性を広げられるように、さまざまな授業を選択できる“選択授業”を開講しています。受験にとらわれることのない一貫校ならではの取り組みで、中国語や韓国語といった語学講座をはじめ、美術、美文字、電気自動車、物の歴史、暗号などが用意されています。
この度、その中等部3年生選択授業の1つ「暗号」の授業の中で特別授業が行われることとなりました。
「イノベーション」も「セキュリティ」もIT業界にいなければ、あまり馴染みのないものと捉えがちですが、実は視点を変えたり、外見を変えたりするだけでも「イノベーション」となります。「モノづくり」そのものが「イノベーション」といっても過言ではありません。また「セキュリティ」については現代の情報化社会おいて、誰もが無視できないものとなっています。
イノベーションとセキュリティは実は切っても切り離せない関係にあります。
セキュリティ面を考えながら、アイデアを形作っていけるよう、“国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、以下NICT)”は若い世代向けにSecHack365というプログラムを開講しています。そのNICTの支援により中等部における今回の特別な授業が実現しました。
2025年10月15日、中等部3年生選択授業「暗号」の授業が行われる教室では、あらかじめ7つの班がつくられていました。これは、「モノづくり」を体験するためのものです。

NICTから、SecHack365の修了生で、現在青山学院大学理工学部情報テクノロジー学科の4年に在籍している羽持涼花さんが先生として教壇に立ち、SecHack365の紹介そして「イノベーション」と「セキュリティ」について説明しました。
今日行うワークショップは、1年間かけて「イノベーション」と「セキュリティ」を学び「セキュリティイノベーター」を目指すSecHack365の体験版SecHack0である、とのこと。生徒たちが前方のスクリーンを食い入るように見つめています。

ワークショップでは、4人(ないし3人)1組のグループが、5つの依頼のうち1つを選択し、その依頼を解決するためのアイテムを開発(イノベート)していくというもの。
ただの思い付きだけでアイテムをつくるわけにはいかず、発売されるところまで視野に入れ、「セキュリティ」対策を講じた「イノベーション」でなくてはいけません。
あらゆる観点からアイデアを出し「イノベーション」できるよう、役割ごとのお面を被って、キャラを演じながら、アイデアやセキュリティへの「アイデア出し」を促すカードを使って開発を進めていきます。


一通りワークショップの説明が終わると、羽持先生がスクリーンに視線を集めます。
「それでは本日の、依頼者はこの方です」

スクリーンに横山道行先生(中等部数学科教諭、「暗号」の授業を担当)の顔が映し出されると、「イノベーション」や「セキュリティ」について呼吸を忘れたように聞き入っていた生徒たちが途端に笑顔に。しかし依頼人である横山先生からの5つの依頼を読み始めると、真剣な目つきになりました。
チーム名の決定や、どの依頼を選択するかから始まった話し合いは最初から過熱気味。教室から「絶対誰も選ばないから③にしよう」「自然数で選ぼう」「おいおい全部自然数だろ」などの声が上がります。

授業開始30分もすると、各グループは、アイテム開発のためのアイデア出しへ。「勉強しないと電力の供給が止まるという仕組みにするのはどう?」「そもそも暗号を知っているとより楽しくなるって方向で攻めるか、暗号を知っていないとやばいって方向で攻めるか。どっちかじゃない」など各グループ選択した依頼に対するアイデアが飛び交います。

時間が経つにつれ、開発したアイテムに対する、安全面での対策へと話し合いが進んでいきます。グループ間を回っていたインストラクターの先生方の
「もしハッキングされて、情報が流出したらどうする?」
「なくした場合はどうなるの? 例えば盗んだ人は使えるのかな?」
という声掛けに各グループ刺激を受けたよう。

生徒たちは、
「確かに落としたら壊れそうだから、強化するためのコーティングするのは?」
「認証かけて情報流出を防ぐのはどうかな?」
「IDとパス以外で。全部の指で指紋認証? それは面倒くさいんじゃない? もっと簡単な方法はない?」
など、休むことなく、議論が白熱していきました。

開始から1時間15分。開発したアイデアを基にアイテムを粘土でこねていきます(考えたアイテムを粘土で視覚化する)。その出来に、満足そうな声が上がる中、グループ発表の時間となりました。

ダイエットアイテムを開発したグループが、7グループ中3グループと最も多い結果に。しかし選んだ依頼は同じでも、できたアイテムは、時計型デバイスのダイエットアイテムやアプリ、そしてダイエットバンドなど多種多様。
「太陽光電池ならぬ血脈を使って発電できるようにする」
「病院と連携して健康状態を把握」
「指紋認証に網膜認証も追加できるようにし本人認証のセキュリティを高める」
などの工夫が光ります。

また技術的な部分だけでなく、
「歩いたらポイントがたまり、たまったポイントでプレゼントがもらえる」
「太ももや二の腕、ウエストに装着可能」
「AIに相談してゴールを決め、月1でチートデーを設け続けやすくする。初回6万円で1年間の保証付き」
など細かな設定をしているグループもあり、インストラクターから、驚きの声が上がります。
ダイエットアイテムの次に多かったのが、授業中の居眠りを阻止する(覚醒させる)アイテムです。
「居眠りしてても、穏やかに起こせるイヤホン、イヤカフ」
「授業中の居眠り防止ブローチ」
など性別を問わずに装着できるようデザインされていたり、落としても壊れないよう強化コーティングされていたりと、実際に使用できるように考え抜かれていました。

また1グループのみが選んだアイテムとしては、「親の不安を察知し、やる気をださせるペンとウォッチ」という既成概念にとらわれない近未来的なアイデアを披露したグループも。

そしてやはり1グループのみ、「暗号のエンタメ化」の依頼を選択したグループは、暗号が身近なところで使われていると実感できるよう、「悪口を誉め言葉に変えるアイテム」を開発。「昨今SNS上の悪意のある書込みで傷つき、心を痛める人達を救いたい」と、開発したアイテムの理念を熱く語ります。「不要な言葉で心傷める人がいない世界を作りたい」という締めの言葉には教室から大きな拍手が。セキュリティ面を十分考慮したイノベーションで社会問題を解決しようとする姿勢が垣間見えました。

授業終了後に、NICTのインストラクターの方々からは、
といった感想が聞かれました。また生徒からは
といった意見が聞かれました。
SecHack0と授業名に0とつくように「イノベーション」と「セキュリティ」のスタート地点に立った中等部3年生たち。2時間の授業の中で、一人ひとりが発言する活発な議論、そしていかにアイデアを社会に役立てるかまで考え抜く姿が印象的でした。「イノベーション」そして「セキュリティ」に対する考え方を学習し、実際に体験した今日の学びが情報社会に生きる彼ら彼女らにとって、いつの日か役立つものとなることでしょう。
