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日本の英語教育が目指すもの

日本における英語教育の目標は、コミュニケーション能力と異文化間理解能力の育成です。この2点を実現できるかが、初等教育から大学までの一貫したテーマとなっています。
その実現を目指して改革されつつある日本の英語教育について、英語教育の専門家3名が集まり座談会が開催されました。
大学文学部英米文学科教授であり青山学院英語教育研究センター所長である木村松雄先生の司会進行のもと、大学教育人間科学部教授の髙木亜希子先生と英語教育起業家で校友の嶋津幸樹さんに、多角的な視点で語っていただきました。

 

新学習指導要領と小学校英語の教科化

木村 本学で先頭に立って英語教育の実践研究を進めてくださっている髙木先生と、本学の卒業生で現在は日本とイギリスで活躍されている英語教育起業家の嶋津さんから、英語教育の専門家としてのご意見を聞かせていただけることを楽しみにしています。早速ですが、2017年3月に文部科学省より新学習指導要領が告知されました。そこには、コア・カリキュラムという今までにない考え方が入ってきています。

髙木 新学習指導要領では、教師主体の受動的な学習ではなく、生徒が自らの課題と解決に向けて主体的かつ協働的に学ぶ学習としています。英語科については、従来の4技能(リスニング、スピーキング、リーディング、ライティング)にプレゼンテーションが加わり、5つの技能別として位置付けられました。そして学習到達目標は、CEFR(セファール・ヨーロッパを中心に広く活用されている語学力のレベルを示す国際標準規格。外国語力の指標がA1基礎段階からC2ビジネスレベルまでの6段階で示される)に由来する、日本語の熟達度を「~できる」という形式で示したCAN-DO形式の能力記述文で示すことになっています。
コア・カリキュラムでは、小学校教員養成は、授業設計と指導技術の基本と、CEFR B1レベルの英語力を身に付けるという目標が示されています。教員研修は、授業実施のために必要な知識、技能、英語力、授業研究を行っていくことになります。そして中・高教員養成については、生徒の総合的なコミュニケーション能力を育成するための授業の組み立て方法および指導・評価の基礎と、CEFR B2レベルの能力を身に付けるという指針を示しています。ある調査によれば、日本の大学生の8割がA1レベルと言われていますので、小学校教員にB1というのは高い目標ですね。

嶋津 これまでの学習指導要領では、生徒のできないところを洗い出すアセスメントでした。それがCEFRのCAN-DO形式によって、生徒のできる点に注目することとなったので、アセスメントの意味でも進化していると思います。ただ、ヨーロッパのものをそのまま導入しても日本で通用するとは限りません。ヨーロッパのものを参考にしながら、日本独自の方法で新たな指導要領を作っていくことが賢明だと思います。

木村 2020年には、全国すべての小学校で3年生から英語の基盤づくりが始まります。この初等英語教育が実現可能になるための条件とは何でしょう。

嶋津 初等英語教育に対して、国内では「エビデンスがない」という理由で反対する専門家もいます。しかし中国では20年前、韓国では10年前から初等英語教育が始まっていて、日本はエビデンス云々以前に、そもそも遅すぎだというのが現実です。初等英語教育実現のためには教員の養成が大前提にあり、僕は動画をベースに学ぶことが最も効率がいいと考えます。日本の環境では教員を一からトレーニングしてB1レベルまで持って行くために、時間もお金もかかりすぎると思います。

髙木 今の小学校教員に求められていることはあまりに多すぎて、動画を見る時間すらないのではないかという不安もあります。質の高い授業を行うには、やはり教員が持っている担任力、授業力を生かしつつ、どう効果的に授業を行うかという研修なども必要なのではないでしょうか。

木村 現職の小学校英語教員への十分な研修機会が保証されるべきですし、自治体によって差が出ないような財政支援などの配慮も必要でしょう。また、本学が岡山県総社市、福岡県田川市と包括的提携を結んでいるように、大学と自治体との相互支援も、初等英語教育の課題解決につながる一つの方法かと思います。そして、初等英語教育免許の必要性を感じます。