Column コラム

フィンランド 〜1年間暮らして考えたこと〜 【第6回】

青山学院大学教育人間科学部教育学科教授

杉本 卓

 

白夜

フィンランドの夏というと、「白夜ですよね」「一晩中、太陽が沈まないんですか?」とよく言われます。

 

私が滞在していたタンペレは、北緯61度30分あたりです。首都ヘルシンキはタンペレより南にあって、北緯60度くらいです。全く日が沈まなくなるのは北極圏、すなわち北緯66度33分以北のところですので、タンペレやヘルシンキなどフィンランドのほとんどの都市は、真夏でも太陽が沈みます。北極圏には大きな都市はありませんが、サンタクロース村のあるロヴァニエミがちょうど北極圏に差し掛かるところです。私は行ったことがありませんが、サンタクロース村には「ここから北極圏」という線が地面に引いてあって、よく観光客が写真を撮っているそうです。

 

「真夏でも太陽が沈む」と言っても、タンペレでも日没はとても遅く、日の出はとても早いので、夏は明るい時間がきわめて長いのは確かです。私がフィンランドに滞在していた2019年の夏至は6月22日で、その日の日没は23時12分でした。

 

 

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夏至の日の日没(23時12分撮影)

 

6月の1か月間だけ住んでいたアパートの部屋は、すぐ目の前に街灯があり、午前0時頃に点灯し、夜中の3時半頃には既に消灯していました。

 

 

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夏至前夜(1時50分撮影)

 

 

公園とテラス席

夜の9時半頃でもまだとても明るいので、遊具のある公園では遊んでいる子どもの姿も見られますし、タンペレの中心部を流れる川に沿った公園にはのんびり座りながら日差しを楽しむ人々がたくさんいました。

 

 

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子どもたちが遊ぶ夜の公園(21時22分撮影)

 

フィンランドの冬は、夏とは逆で当然日の出が遅く日没が早いことに加え、どんよりと曇っていたり雨や雪が降ったりして日中でも暗い日が多いため、春になって急速に昼間の時間が長くなり明るい日が増えてくると、外で過ごして日光の恩恵に浴することをフィンランド人たちは楽しみます。

 

 

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人々がくつろぐ夜の川沿いの公園(21時24分撮影)

 

通りに面したレストランやカフェでは、夏の間だけ屋外にテラス席を設置するところが多く見られます。歩道に椅子とテーブルを置いただけのものもあれば、木組みのテラス席を夏だけ設置するお店も少なくありません。公園から道を挟んだところにあるお店で、公園の一角に椅子とテーブルを置いて公園をテラス席にしているところもありました。そんなテラス席は、朝から晩まで多くの人で賑わっています。

 

 

夏至祭

「夏至祭(juhannus)」は、夏至の日に近い週末に祝います。1954年までは曜日に関係なく毎年6月24日に夏至祭を祝っていたそうですが、現在では夏至に近い土曜日とされています。

 

夏至祭の日には、自宅やサマーコテージで友人たちとのんびりおしゃべりをしながら食事を楽しんだり、湖畔で遊んだり湖で泳いだりします。また、湖のそばで焚き火をするのも夏至祭らしい光景ですが、私が滞在していた年は、乾燥のため火事の恐れがあるということで、焚き火は禁じられていました。

 

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夏至祭の夜にくつろぐ人々(19時59分撮影)

 

2019年の夏至前夜には、タンペレに住むフィンランド人家族がご自宅に招いてくれました。私より少し年上のフィンランド人夫婦と、その家に身を寄せているルーマニア出身の若者と、フィンランド人夫婦の友人である若いクルド人夫婦(夫がタンペレ大学大学院生)と、私たち夫婦で料理を持ち寄り、17時頃から彼らの家のテラスで食事をしました。食後には、湖のほとりに行きました。

 

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夏至祭の夜の友人宅での夕食

 

19時半頃でしたが、もちろんまだ昼間のような明るさで、音楽に合わせて踊ったり、湖で泳いだり、卓球をしたり、人々が思い思いの過ごし方をしていました。

 

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夏至祭の夜に音楽に合わせて踊る人々(20時10分撮影)
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夏至祭の夜に湖で泳ぐ人々(19時29分撮影)

 

サマーコテージが多く建てられている地域で少し散歩をした後、彼らの家に戻ったのは21時半頃です。デザートを食べコーヒーを飲みながらのんびり過ごし、お開きとなった頃には0時を回っていました。その時間でも、まだ夕方のような明るさです。

 

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夏至祭の夜の友人宅でのデザート

 

帰宅後、自宅から歩いて10分ほどのところにある、湖を見渡せる小高い丘に行ってみました。すでに日没後ではありましたが、太陽は地平線・水平線のすぐ下を通っていくので、北の空は明るく光っていて、2時過ぎになっても夕方のような薄明りが続いていました。

 

 

屋台

夏のフィンランドでは、あちこちの広場や道端に屋台が出ます。主に野菜を売っている屋台と、ベリー類を売っている屋台です。

 

野菜は、にんじん、玉ねぎ、じゃがいも、えんどう豆などのほか、ビーツ、ディル、ルバーブなど、日本では新鮮なものは限られた場所でしかお目にかかれないようなものもあります。

 

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野菜の屋台

 

ベリー類としては、イチゴ、ブルーベリー、ラズベリーなど日本でもお馴染みのもののほか、クロスグリやクラウドベリーなど珍しい品種も並びます。

 

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ベリーの屋台

 

港の近くでは、魚を売る屋台も出ます。そこでよく見かけるのが、日本語ではモトコクチマスと呼ばれる小魚のムイック(muikku)です。大きなフライパンで揚げて、お皿にたっぷり山盛りによそってくれます。また、ムイックなどの小魚をライ麦の生地の中にぎっしり詰めて焼いたカラクッコ(kalakukko)なども売られています。魚の苦味もあり、好き嫌いは分かれると思いますが、小魚が丸ごと入っているのでカルシウムやDHAが豊富で健康的な食べ物です。

 

 

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カラクッコ(kalakukko)。手前はニシンの酢漬け

 

5月から7月にかけては、暖かかったり暑かったりする日が多いですが、真夏でも半袖を着るほど暑い日はそれほど多くありません。湿度が低い爽やかな日が続くので、夏は外でのんびり過ごしているととても気持ちがいいものです。太陽の恵みを感じながら、何をするということもなく、ゆったりとした時間を過ごしていると、東京の蒸し暑さやせわしなさとは別世界だと感じます。飲食店や娯楽施設でお金を使わずにリフレッシュするのが、幸福度世界一のフィンランドの短い夏の過ごし方なのです。

 

 

夏の終わり

8月になると涼しかったり肌寒かったりする日が多くなってきます。私が初めてフィンランドに行った2017年、到着した8月26日は寒い日でした。肌寒いどころではなく、完全に「寒かった」のです。

 

夕方、タンペレの友人宅に着くと、街の中心部近くの通りにテーブルを出して、人々が食べ物・飲み物を持ってきて食事をするという、夏の終わりをみんなで楽しむイベント(2016年から始まったものらしい)に連れて行ってくれました。テーブルだけでなくステージも用意されていて、大勢が食事をしながら音楽を楽しんでいました。しかし、その時の服装は、真冬かと思うようなものでした。分厚い上着の上に毛布をかけている人も多くいました。

 

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8月の屋外での食事イベント

 

もちろん、その日は例外的なほど寒かったのですが、8月の後半になると日本の冬のようにセーターの上に上着を羽織るという日も珍しくなくなります。3か月ほどの夏の終わりが近づくと、学校では新年度も始まり、外で快適に過ごす季節が終わったことを実感します。