「未来の言語」ビジネスシミュレーションとは【ススメ!コミュニケーションの新しいカタチ第6回】
2021/05/31
青山ビジネスクール(青山学院大学大学院国際マネジメント研究科)では「未来の言語」といわれるビジネスシミュレーションで「青山ビジネスゲーム(ABG)」を開発したり、米国の名門大学のビジネスシミュレーションを用いた授業を実践したりしています。
最初にビジネスシミュレーションとはなにかを説明して、いくつかの事例を紹介していきます。
異なった世界理解を有する人々が対話をする時、お互いの解釈の差を埋め、現実の多元的理解を可能とするようなコミュニケーションが必要とされます。とりわけ、迅速さが要求されるビジネスの現場ではこの問題解決能力がそのまま業績に反映されます。
青山ビジネススクールで開発したビジネスシミュレーションでは、架空の会社を経営するというシナリオに基づいて、参加者に一定の役割(社長、財務担当、販売担当、製品開発担当など)を割り振り、他のチームと経営を競うというロールプレイングを通じながら、メンバー間の相互理解を深めつつチーム共通の目標を達成しようとします。
その結果、単なる話し合いやプレゼンテーションよりもより現実に近い真剣なディスカッションや数量分析、他チームとの比較などを行い、現実世界の多元的な理解が可能となります。
青山ビジネスゲーム(ABG)は、クライアントデバイス(タブレットやPC等)とインターネット上に置かれたゲームサーバーから構成され、学生はクライアントデバイスで必要なデータ(入力データ)を入力すると、そのデータはゲームサーバーに送信されます。
学生の入力データは、基本的な製造業モデルのゲームでは、製品の価格、マーケティング経費、生産数量、研究開発費用、設備投資、長期・短期借入金です。これらのデータと関数モデルにより、損益計算書、貸借対照表、CF計算書の財務諸表類がアウトプットして出力されます。
想定では4半期ごとにこのサイクルを数回繰り返して、
さらにこのゲームをチームで実施する場合は
青山ビジネススクールではこの春の大学院新入生128名を対象に行った入学オリエンテーションの一環として青山ビジネスゲーム(ABG)を行いました。その日に初めて会った新入生が4~5名でドローンを製造する会社を作り、30社で利益を競うというビジネスシミュレーションです。
大学院の学生は、年齢、キャリア、国籍などが学部学生と比べると多様です。そのため入学時は円滑なコミュニケーションを行うことが容易ではありません。ところが、3時間程度ABGを行ったところ、多くの学生が持っていたであろう、心理的なコミュニケーションギャップは驚くほど小さくなり、あたかも長い間勉強してきたクラスメートのように打ち解けることができました。
ここに、当日の写真及びアンケート結果の一部をご紹介します。
質問 | 回答 (7点法、N=130) |
---|---|
1.ABGによって今回初めて会った人との距離が近くなった | 6.0 |
2.ABGのようなゲームはコロナ禍の孤独を改善する | 5.6 |
3.ABGのようなゲームはオンラインより対面の方が良い | 6.1 |
多くの新入生にとって、これほど大掛かりなビジネスシミュレーションゲームを対面という環境で行うのは初めてであった訳ですが、初対面のコミュニケーションギャップを埋める「未来の言語」としての効果は十分にあったと評価することができます。
青山ビジネススクールでは理論と実務を結び付ける、青山アクションラーニングというプログラムを多く用意しています。その中で、アメリカ、ヨーロッパ、アジアのトップMBAスクール同士がオンラインで競争しながら経営を学ぶのが「マネジメントゲーム」です。
本科目は、原則として学生4~5名1組で仮想の消費財会社の経営を行います。米国のカーネギーメロン大学など海外のMBAスクールの学生との合同のビジネスシミュレーションゲームを行い、グローバルな競争を体験します。全ての資料は英語で作成し、取締役会でプレゼンテーションを行います。本科目の目的は、マネジメント、マーケティング、財務、会計、オペレーションといった会社機能の全体を把握するとともに、経営者が直面する諸問題(経営計画の策定、取締役会での発表と承認、リスク管理、チーム内の動機付け、株主への情報開示など)を実際に経験することにより問題解決能力を向上させることです。
2020年度前期はすべての授業がオンラインとなったため、講義はもちろん、学生同士のコミュニケーション、取締役会という会議もすべてオンラインで行いました。在宅勤務が普通になり、海外出張の代わりにZoom会議でビジネスが進む状況をまさにシミュレーションで体験することになりました。実際に、履修した学生たちの感想はこちらのWebでお読みいただけます。
ビジネスシミュレーションが「未来の言語」と呼ばれたのは、実は1970年代です。それから約半世紀が経過した今、私たちを取り巻く世界は一層多様化する一方、インターネットなどのテクノロジーの進歩により、もはやその時の未来は現代になったとも考えられます。それでも、人間同士の相互理解の難しさは変わりません。ビジネスシミュレーションゲームはそのような問題を多角的に解決していく有効な手法としてさらなる未来への発展が期待されています。