Column コラム

五月祭の贈り物─イギリスの年中行事から─【佐久間康夫の「この世という広大な劇場」第10回】

青山学院大学文学部比較芸術学科教授

佐久間 康夫

メーデー・ホリデーズ

メーデーと聞くと、多くの方が5月1日の労働者の祭典を思い浮かべることでしょうが、この制度は比較的新しく、19世紀末にアメリカで初めて大きなストライキが実施されたのが起源とされます。今日のアメリカやカナダではレイバー・デーと称して、9月の第1月曜日に開かれるようになりました。

一方のイギリスでは、5月の第1月曜日が年間8回設けられる国民の公休日バンクホリデー(銀行休日)の一つに数えられています。英語を母語とする文化圏であっても、ところ変われば暦も変わるのがおもしろいですね。

メーデーは五月祭という民間伝承の祝祭の一環と考えられます。元をたどれば古代ローマ帝国の五穀豊穣を願う祭りに由来します。イギリスの各地に、5月1日には、夜明け前に森へ分け入って花を集め、朝露の降りた花の束を手に日の出とともに帰宅する、という習わしが伝わっていたそうです。「メイデュー」(五月の露)というすてきな名前でも知られた行事です。他にも、この時節には民族の古い慣習に基づいたさまざまな行事が行われてきました。

 

昨今のコロナ禍により甚大な影響をこうむりましたが、本来ならば陽気が良いためアウトドアの催しが一気に増加するのがこの時期です。新聞の行楽面には、そんな行事の数々が各地方の郷土色をおりまぜて、にぎやかに紹介されるのが常です。中世以来の伝統的な民族舞踏であるモリス・ダンスがロンドンのウェストミンスター寺院などで披露されますが、この余興は名物といえます。ウスターソースの発祥地として有名なウスターでは、なぜかヘンリー八世に扮したガイドによる博物館めぐりがありました。

 

ジャウスティング・トーナメント

ジャウスティング・トーナメントでの名馬そろい踏み

 

ハートフォードシャーにあるネブワース・ハウスは、チューダー朝の17世紀までさかのぼる立派な建物と広大なイギリス式庭園で知られています。19世紀の政治家・小説家ブルワー・リットンはじめ著名人を輩出したリットン家の居宅です。

ここで行われたジャウスティング・トーナメントに出かけたことがあります。豪邸の広々とした前庭に、ロープで簡単に仕切られただけのトーナメント場がしつらえてありました。

ジャウスティング・トーナメントとは、「馬上槍試合」と訳されます。映画のワンシーンか何かで見たような記憶はありますが、この中世以来の競技を目の当たりにするのは初めてでした。絢爛豪華な装具をまとった馬に、甲冑姿も勇ましい騎士が堂々とまたがると、騎士と名馬は文字通り人馬一体となって、観客のすぐ目の前を駆け抜けていきます。

目の前を疾走する迫力に思わず後ずさり

 

軽く2メートルはあろうかという長い槍を、楽々と振り回しながら、猛スピードで突進して、的を射たり、互いに打ち合ったりする試合です。時代考証がどこまで正確かを問うたら、それは野暮というものでしょう。勝敗のゆくえも観客の声援の多い方で決まるくらいですから。とはいえ全力疾走のもたらす熱気と爽快感は、中世の昔から変わらないのではと思わされます。

騎士の一人ひとりが得意技を披露します

 

映画『ヘンリー五世』で若き国王役のケネス・ブラナーが乗った白馬とか

 

メイポール・ダンシング

私の子どもたちが通っていたケンブリッジの小学校の校長先生ミスター・ラウンが、登下校の送迎時に私をつかまえて、耳打ちしてくれました──「またまた、イギリスの奇妙な習俗を見せてあげるよ」。それがメイポール・ダンシングでした。メイポールとは広場に立てられた背の高い柱のことで、「五月柱」と訳されますが、樹木には農作物を育てる力が宿るという民俗信仰に根ざすのだそうです。

シェイクスピアの喜劇『夏の夜の夢』のせりふの中でも、意外な形でメイポールに出くわします。この芝居には、小柄なハーミアとその親友で背が高く細身のヘレナが登場しますが、妖精のいたずらのせいで二人は仲たがいしてしまいます。非難を応酬したあげく、ハーミアはヘレナに向かって “thou painted maypole”(直訳すれば「彩色した五月柱」)と叫ぶのです。長身痩躯の人をメイポールと結びつけるなんて、なかなかユーモラスですね。

さて、高さ3メートルほどの棒くいが芝生一面の校庭に直立しています。この棒こそがメイポールです。その先端には子どもたちがこしらえたと思しき、可愛らしい花がちょっと不器用にくくりつけられています。花束の下側からは、色とりどりのリボンが10数本もたれさがっています。子どもたちはそのリボンを1本ずつ手に取って、リズミックな音楽に合わせて、柱の周りをスキップしてまわっていきます。

ポールにリボンを巻きつけていく様子

 

すると、リボンが柱に巻きついて、きれいな縞模様が描かれます。全部巻きついたところで、今度は反対方向に回り始めます。完全にほどけたところで、はいおしまい、というわけです。

今度はポールからリボンをほどいていきます

 

もっともこれは、インファントと呼ばれる下級生の演じる、いわば初心者向け。ジュニアのイヤー・スリー(イギリスは5歳で小学校に入学するので、日本風にいえば小学2年生に当たります)になると、もう少し高度なわざに挑戦です。

それは一人ひとりが交互に逆方向に回るという芸当です。音楽に合わせて、ジグザグに体を交差させていくと、あら不思議、柱にはものの見事な織物の絵柄が。と、書きたいところですが、これが一筋縄にはいきません。

ちょっと進んではからまって、また子ども同士もぶつかってしまい、どうにも按配よくいきません。しかし粘り強くがんばって、やっとうまくいった時には、音楽に手拍子を打っていた見物も拍手喝采! 2時間あまりも続いたこの行事、イギリスには珍しい強烈な日差しを浴びて、顔の片方だけが日に焼けた1日になりました。

リボンをポールに交差させて巻きつけた高等技術を御覧じろ

 

[Photo:佐久間 康夫]

参考文献
クリストファー・グラヴェット 著、須田武郎 訳『馬上槍試合の騎士 : トーナメントの変遷』(新紀元社 2003)

 

読者の方より

読者の方より佐久間先生の元に素敵なお写真が届きましたので、ご紹介いたします!(アオガクプラス編集部)

メイポールの名残はここにも!?
シェイクスピア生誕の地ストラットフォードで遭遇した樹木には、謎のチェック模様の布が貼られていました
写真提供:小畑遥香さん(青山学院大学文学部比較芸術学科2017年度卒)

 

【次回へ続く】