日本の英語教育が目指すもの
2019/04/18
木村 初期の段階における第一言語の使用は認めながらも、目標言語(英語)の使用率を段階的に上げていき、アウトプットは英語で行うことが大切かと思います。昨年11月にオーストラリアのメルボルン大学大学院を訪問し、CLILの専門家2名にインタビューをしました。CLILは内容(content)重視であるが、十分な言語(language)の運用能力育成が前提である、という回答を得ることができ、ホッとした次第です。では、3、4年の専門教育課程における英語教育はどうあるべきだと思われますか。
髙木 3年以降はゼミも始まり、専門性を高め、卒業後のことも考える必要があります。せっかく学部や大学に様々な専門の先生がいらっしゃるので、学際的な視野で協力することで、英語を使う機会が全体的にもっと増えると良いと思います。
木村 専門教育に則した英語の使用を保障する環境を整えるということですね。まさしくそこが大学教育の重要なところです。最後はやはり3、4年の専門教育課程の中で得た知識や考えを英語でプレゼンできることが重要ですね。繰り返しになりますが、技能習得のみのEMI化ではなく、専門領域内容を目標言語(英語)で可能にするためのEMI化の実現を考える時に来ていると思います。
嶋津 僕は大学1年のとき、TOEICで点が取れれば安泰だと本気で思っていました(笑)。しかしTOEICはあくまで右脳テストであって、実社会で役立つのは様々な国で認められているIELTS(アイエルツ)(※注2)だと実感しました。まずはIELTSの普及活動をしないと、3、4年で求めるスキルがTOEIC寄りになってしまうと思います。
木村 AI(人工知能)(※注3)やAR(拡張現実)(※注4)はどのように言語教育に応用できると思いますか。
髙木 従来の教室指導では難しかったオーセンティックな文脈の提供や、あたかも現実社会で実際に英語を使用するという体験ができるでしょう。ただ、人間にしかできない直接顔を合わせての心のつながりや、今この瞬間の機微を感じ取ること、そして多様な価値観への気づきや新たな視点の獲得というのは、人と人との交流の営みの中でしか生まれてこないと思います。
嶋津 これから先の未来でAIにとって代わることのできない能力が3つあるといわれています。それはクリエイティビティ、問題解決能力、そしてリーダーシップです。この3つのスキルを軸として、教育全般で一つの軸としていければいいのではと考えています。
木村 スキル中心の英語教育だけなら人工知能の支援を得ればいいし、特定の目的・場面での英語ならばARによって可能にはなるでしょう。しかし様々な問題を解決するためには、人間の英知を結集した異文化間理解能力の育成と共有が重要になってくると思います。まさしくそこが、これからの大学の英語教育の課題と言えるでしょう。
※注2 IELTS
International English Language Testing Systemの略称。海外留学等に必要な英語力(4技能)を測定し証明するイギリスで生まれた国際版テストの一つ。イギリス、オーストラリア、カナダをはじめ多くの国で使用されている。アメリカで生まれたTOEFL同様、認知度が高く、近年日本人の受験者も増加している。(木村)